NHK交響楽団首席チェロ奏者・辻本玲による2022年のリサイタル開催が決定した。

今回のプログラムの前半はチェロ王道の2曲J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第4番とブラームスチェロソナタ第1番だ。

2021年秋、辻本は自身初となるJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲全曲演奏会を開催。各地(水戸奏楽堂・武蔵野市民文化会館・秋吉台国際芸術村)のコンサートはいずれも盛況で、読売新聞(2021.10.15)では「際立つ技」「常に〈着地〉が美しい」「力加減の微細な濃淡を見せてスリリング」と高い評価を受けた。

特に激賞を受けたのが第4番の演奏だ。6つの組曲の中でもひときわ穏やかで、地味な印象さえ持たれることもある第4番だが、新鮮さを持った辻本の演奏は、「渋い〈プレリュード〉が見違えるよう」「バスクラリネットのように妖艶」「凜としたビブラートもある」と評された。全曲演奏会を経た辻本の演奏に期待したい。

ブラームスチェロソナタ第1番は、チェロソナタというジャンルの中で最高峰に数えられる名曲のひとつ。哀愁を帯びた第1楽章に始まり、徐々に緊迫を増しながら劇的な終結を迎える第3楽章まで、全編にブラームスらしいメランコリックな抒情性と秘めたる情熱を感じさせる。2014年のリサイタル以来の演奏となり、ここ数年の目覚ましい辻本の成長を感じさせてくれるはずだ。

後半はガラリと雰囲気を変え、アメリカ音楽史にその名を刻む大作曲家による作品が並んだオール・アメリカン・プログラムを披露する。

もとはピアノ独奏曲として書かれたジョージ・ガーシュイン:3つのプレリュードは、様々な楽器のために編曲もされており、20世紀アメリカ音楽の古典に数えられる名曲。ジャズやブルースの要素を持った心躍るお洒落なリズムとメロディを存分に堪能したい。

代表作に弦楽四重奏曲「ブラック・エンジェルズ」などを持ち、新たな音色や奏法を探求し続けてきた現代音楽作曲家ジョージ・クラムの無伴奏チェロソナタは、初期の作品ながらクラムの独創性を充分に感じられる作品。

そしてコンサートの最後を飾るサミュエル・バーバーチェロソナタは、20世紀の作品でありながら、ロマン主義的な作風のソナタだ。あたたかみを感じさせる洗練された旋律で、ロマン派を代表するブラームスチェロソナタと比較して聴くのも、このリサイタルの楽しみ方のひとつとなるだろう。現代チェロソナタらしく、曲の後半にはモダンな響きも登場し、決して一筋縄ではいかない多彩な魅力を放つ傑作だ。

バロック、ロマン派、現代音楽…バラエティに富んだチェロの名曲が揃った。“新時代の名チェリスト”として期待される辻本の演奏による珠玉の名曲選に期待したい。

辻本玲