(舛添 要一:国際政治学者)

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 2022年が明けるとともに、新型コロナウイルス感染者が激増し始めた。年末年始で人の移動が増えたこともあるが、オミクロン株が流行してきていることも大きな原因である。

 昨年11月に最初に南アフリカで確認されたオミクロン株は、猛烈なスピードで世界中に感染を広げていった。1日の感染者が、アメリカでは100万人を超え、イギリスフランスイタリアでも20万〜30万人の規模になっている。そのような感染の波が年末年始に日本にも到来したと考えてよかろう。そして、オミクロン株はデルタ株など従来の株に急速に置き換わっている。

 感染が先行する海外のデータからすると、感染力は極めて強く、あっという間に感染が拡大する。また、潜伏期間については、これまで新型コロナウイルスは約2週間と言われてきたが、オミクロン株については、それがもっと短くなっているようである。

重症化リスクは低くても3回目のワクチンは急務

 オミクロン株は重症化しにくいという。具体的には、肺にまで達せずに鼻や喉の部分に炎症を起こすので、肺炎ほどの重症にはならない。そのため、入院率はデルタ株の3分の1くらいである。

 重症化リスクの低いオミクロン株が、重症化しやすいデルタ株を駆逐して置き換わっていっているのであれば、その状態はある意味で好ましいとも言える。重症化リスクが低いオミクロン株が広範に流行することで集団免疫状態になれば、それはそれで望ましい状態だ。しかも、ワクチンの追加接種に効果があり、経口治療薬も承認されたとなれば、新型コロナが「普通の風邪」に近づきつつあるということなのかも知れない。

 しかし肝心のワクチン追加接種が日本では進んでいない。それに重症化の「リスクが低い」というだけであって、ワクチン未接種者の中にはオミクロン株に感染し、重症化したり亡くなったりした人もいる。さらに言えばワクチンの2回接種完了者も数多く感染しており、現時点で気を緩めることは妥当ではない。

 となればやはり3回目のワクチン接種が急がれるところだが、日本では厚労省が2回目接種完了から8カ月経たないと追加接種させないという間違った方針を打ち出し、それを変更するのに時間がかかり、ほとんどの自治体が前倒し接種の体制が準備できないでいる。

イスラエルでは4回目接種がスタート

 なぜ、このような間違った判断をしたのか、誰がその判断をしたのか、どういうデータに基づいて決定したのか、政府に助言すべき専門家集団も対象にして、きちんと検証すべきである。ある政策を決定する過程が分かるような情報の開示もなければ、責任者の名前も出てこない。日本を敗戦に導いた大日本帝国の壮大なる無責任体制が、今の日本でもまだ続いていることに愕然とする。

 海外では、6カ月後どころか、4カ月後、3カ月後にブースター接種を実施している国もある。イスラエルなど、もう4回目の接種をしている。日本でもデータに基づく医療を確立すべきことを強調しておきたい。

 1月5日には、感染者は、東京都で390人、沖縄県で623人、大阪府244人、広島県138人、山口県104人と感染が拡大した。とくに沖縄では、米軍基地関係者からの感染拡大が指摘されており、オミクロン株にほぼ全て置き換わっているという。山口や広島も、米軍岩国基地との関連があると考えられている。

 1月6日感染者は、東京都が641人、沖縄県が981人大阪府が505人、広島県が273人、山口県181人と24時間で倍増する勢いである。

 このような状況に鑑み、沖縄県広島県山口県は、政府に対しまん延防止等重点措置の適用を求め、7日にこれが認められた。

科学も医療も発達した現代でこれほどパンデミックが長引くとは

 過去2年間の感染状況からして、年末から年始にかけて、感染の第6波が来ることは予想していたが、オミクロン株の流行がその引き金になることは事前には分からなかった。新型コロナウイルスには現在も未知の部分が多々あり、しかも絶えず変異を繰り返しているので、油断できない。

 科学が発達し、ワクチンも早期に開発された今日、電子顕微鏡もワクチンもなかった第一次大戦中のスペイン風邪と同じように、流行が長引くというのは困ったものである。一国だけで感染を収束させたと思っても、地球上の各地で感染が続いているかぎりパンデミックは収まらない。中国は、専制的に感染を抑えてきたが、北京五輪も直前に控えた今になってまた感染が増えている。ワクチン格差をなくすなどの国際協力が不可欠である。

治療薬があれば自宅療養が最善

 オミクロン株について、当初政府は、感染者を全員入院させる方針を採っていた。しかし、あまりの感染スピードの速さに、その対応策の維持は無理だと気づいたようである。症状によっては自宅療養も認める方針にしたのである。

 2009年に新型インフルエンザが流行したとき、厚労大臣だった私は、徹底した水際対策、「検査と隔離」を行った。しかし、市中感染が始まると水際対策の意味がなくなり、医療資源を市中感染対策に振り向けることにした。

 また、医療機関に発熱外来を設け、患者が見つかると入院させたが、現場で治療に当たる医師たちの話を聞くと、タミフルリレンザのような治療薬を投与して自宅で隔離静養させるのが最適だという意見であった。医療資源が逼迫することを避けるために、私は彼らの意見を容れて、そのような方針に転換した。その結果、医療機関での混乱を避けることができ、しかも新型インフルの収束も早まったのである。

 オミクロン株は弱毒性で重症化しにくいし、経口治療薬、モルヌピラビルが既に承認され、来月にはファイザーの飲み薬も実用化されることを考えれば、新型インフルエンザと同様な対応でもよいように思う。

 感染症法による分類だと、新型コロナウイルスは第2類に分類され、入院や消毒などの措置ができることになっている。普通のインフルエンザは第5類に分類されており、情報提供などの措置が定められているだけである。新型コロナを第2類から第5類に分類替えすべきだという意見もあるが、そのときどきの感染状況を見ながら、柔軟に対応を変えればよいのではないか。オミクロン株はデルタ株とは症状が大きく違うので、それに応じた適切な対応を考えればよい。

指導者の力量問われる感染防止と経済活動のバランス

 その点で参考になるのは、オミクロン株に対する英米とヨーロッパ大陸諸国の対応の違いである。

 イギリス1月4日に21万8705人という感染者を出したが、オミクロン株に対して特別な対応をせず、「ウイルスとの共存」路線で行くとしている。海外からの渡航者に対する規制も緩和した。

 2年前に感染が始まったとき、集団免疫によって対応するとして何らの対応を採らなかったが、感染が急拡大して、この対応は失敗に終わった。今回も、同じように失敗するのか、それともうまく行くのか、結果待ちである。

 アメリカも、基本的にはイギリスと同じ対応をしている。アングロサクソン的合理性なのかもしれない。

 フランスは、1月5日に33万2252人と感染者が急増し、政府は感染防止のためワクチンパスポートの義務化を急いでいる。マクロン大統領は、ワクチン未接種者に侮蔑的な言葉を投げ、政治問題化している。感染者の急増で、出勤できる人が減り、医療現場のみならず、あらゆる職場で人手不足となっている。

 ドイツ1月5日に6万7337人が感染)やイタリア1月5日に18万9088人が感染)でも、感染防止策を強化している。

 感染防止と経済活動の両立は、パンデミックのときにいつも直面する課題であるが、今回のようなスピードで感染が急拡大する場合には、最適な解を見つけるのは難しい。

岸田政権の浮沈も第6波への対応次第

 日本の場合は、欧米と違って、国民がマスク着用などの感染防止策をきちんと講じており、その意味では大いに助けになる。しかし、先述したように、ワクチンの追加接種が遅れていることは問題である。政府は、ヒトとカネを提供して、自治体による接種前倒しを支援すべきである。それなくして、イギリスのような「ウイルスとの共存」路線は採用できないだろう。

 南アフリカでは、オミクロン株の最初の感染が確認されてから1カ月も経つと、急速に収束に向かった。そのため、濃厚接触者であっても検査もしないという対応に切り替えている。ピーク時の12月12日には3万7875人だった感染者も、その後激減し、1月3日には3076人と10分の1以下になった。その後、また少し増えているが、1カ月余りでオミクロン株の流行は終わると考えてよい。日本も南アフリカと同じ動きをするならば、1月末〜2月初めには収束すると思われる。

 オミクロン株への変異が普通の風邪への移行となれば、新型コロナウイルスの流行も収まるという期待が高まる。そうなるかどうかは分からないが、ワクチン接種、経口治療薬の活用によって、その可能性は十分にあると思う。とくに、飲み薬については、世界中の製薬会社が開発に鎬を削っており、今後、次々と新薬が開発されるであろう。

 新たに発生する感染症については、感染症法上の分類をどうするかということも大事だが、ウイルス変異などもあり、柔軟に対応する必要がある。そのために、今の感染症法も厚労大臣に大きな権限を持たせている。医系、薬系技官をはじめ官僚は、失敗した場合に自らの責任とならないことを第一にして対策を立てる。そのため、対応が後手後手、不十分となる。今回の日本の対応がその典型である。

 それを是正するのが国民の代表である政治家であるが、安倍・菅政権では、それが機能しなかった。その反省からか、岸田政権は、先手先手の対応に務めているが、拙速の誹りを免れないものもあり、必ずしも全てが成功したわけではない。

 オミクロン株、第6波への対応に失敗すれば、菅内閣の二の舞となる危険性がある。夏の参議院選は困難な戦いとなろう。

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