(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家

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政府も想定外の感染拡大スピード

 新型コロナウイルス感染者が急増している広島県の湯崎英彦知事は、1月6日記者会見で、オミクロン株の感染拡大が「想像を絶するようなスピードになっている」と語った。単純計算をすれば今週中に1日8000人の感染者が出ることもあり得るというのだ。

 3連休明けには、全国で万単位の感染者数になることは確実だ。オミクロン株について、まだ分かっていないことも多いようだが、感染力の強さ、スピードの速さだけはすでに世界で証明済みである。またデルタ株よりも重症者が少ないということもほぼわかり始めている。

 この感染拡大のスピードは政府も想定外だったと思う。『週刊文春』(1月13日号)によれば、岸田文雄首相の最側近で首相官邸を仕切る嶋田隆首相秘書官が、「官邸では、いつ東京で感染者が千人を超えるかを注視している。そうなれば、緊急事態宣言をいつ出すかを考えなければならない」と語ったというのだ。

 この認識を批判するつもりは毛頭ない。恐らく専門家もここまでの感染スピードは想定していなかったと思う。だが現実には、東京ではすでに1200人台の感染が続いている。沖縄はさらに多くの感染者が出ている。

 いま何よりも重視すべきは、医療従事者やエッセンシャルワーカー(社会基盤を支えるために必要不可欠な仕事に従事する労働者。医療・福祉や保育、運輸・物流、小売業、警察、消防などの公共機関などが該当する)を確保することである。

 沖縄では、すでに400人以上の医療従事者が感染し、濃厚接触者となって出勤できない事態が発生している。そのため外来診療の中止に追い込まれる病院も相次いでいる。

 濃厚接触者は、今は2週間の自宅や宿泊施設での待機が求められている。欧米諸国では5日間~1週間とされている。2週間というのは、デルタ株での対応だった。まだ知見の少なさもあるのだろうが、早急に見直しを図る必要がある。

「融通無碍」は悪いことではない

 1月5日朝日新聞に、岸田文雄内閣の政策対応について「融通無碍」だとする論評記事が掲載されていた。その一例として挙げられていたのが、18歳以下の子どもに、1人あたり10万円支給するという施策だ。公明党が選挙中に「未来応援給付」として打ち上げていた公約だ。当初、高市早苗政調会長は、「自民党の考えとは違う」と否定的だった。自民党総裁選中も岸田首相や高市氏が掲げていたのは、「新型コロナで苦しむ低所得世帯などへの10万円給付」だ。

 それが公明党の顔を立てるために、年内に現金で5万円、翌年にクーポンで5万円分を渡すということになった。ところが事務作業に1200億円もかかることが判明し、自治体からも「年内に現金で10万円支給を」という声が相次ぎ、現金で10万円を年内支給という、方向に舵を切った。

 朝日記事は、これを次のように報じている。

「12日(12月)。公邸では、自治体が現金一括給付をする際の条件が話し合われた。用意された資料には細かな条件が書き連ねられていた。秘書官の一人がこぼした。『これ、わかりにくいですね』。岸田は言った。『そうだな。10万、年内、現金、条件なし、でいこう』。政権の目玉政策はあっさりとその姿を変えた」

 この記事は、自民党幹部の「ぬえみたいな政権だ」という批判的コメントを紹介して、融通無碍(ゆうづうむげ)だと論じている。そもそも10万円給付が岸田内閣の目玉政策だとは、誰も思っていない。岸田内閣への肯定的な論評ではない。「ぬえ(鵺)」というのは、日本で伝承される妖怪の一種で、「掴みどころがなく得体の知れない人物・集団」をたとえる際に使われる言葉であり、相当無礼な表現なのだ。

 だが融通無碍というのは、「行動や考えが何の障害もなく、自由で伸び伸びしていること」という意味であり、悪い言葉ではない。反義語は「四角四面」(かたくるしいこと)や「杓子定規」(融通のきかないこと)だ。これでは臨機応変の対応はできない。

 新型コロナは、オミクロン株という新しい変異株によって、柔軟で臨機応変の対応が求められている。先に指摘した濃厚接触者の待機・隔離期間などもそうだ。重症化リスクは低いと指摘されてはいるが、まだその正体の全貌が分かっているわけではない。こういうときには、強めの対策を取り、臨機に緩めていくというのが基本だ。

 昨年(2021年11月、政府は外国人の新規入国を停止し、この延長線上で国交省12月末まで国際線の新規予約を止めるよう航空各社に要請した。だがこの要請は、海外にいる日本人の帰国も不可能にするものだった。そのため何とかならないという声が上がり、岸田首相は3日後に撤回した。朝日記事は、これを拙速だと批判するが、そうは思わない。この程度の軌道修正は今後もあり得る。また外国人の入国停止については、継続する意向を岸田首相は今週中にも示す意向だという。この柔軟さが大事なのだ。

ファイザーの治療薬の承認を急ぐべき

 オミクロン株の感染者が出た飛行機の同乗者全員を濃厚接触者として自宅・宿泊施設での2週間の待機措置も、厳しい措置であった。だがオミクロン株の市中感染が始まると、水際対策の骨格を維持しつつも、国内対策に軸足を移した。

 ただ心配なのは、症状によっては自治体の判断で自宅療養を可能にしたことだ。1月6日産経新聞「主張」でも、「安易に自宅療養を検討する前に、まずは宿泊療養施設の積極活用が重要だ」と指摘している。自宅療養は家族への感染リスクを高めるからだ。

 また3回目のワクチン接種は、遅々として進んでいない。私は2回目接種から6カ月経過しているが、まだ3回目の接種券は届いていない。ワクチンの確保も含め全力を尽くしてもらいたい。

 アメリカメルクが開発した「モルヌピラビル」は、新型コロナウイルスの重症化を防ぐ初めての飲み薬で、12月24日に国内での使用が承認された。だが入院・死亡リスクを下げる効果は30%程度だという。

 また、アメリカFDA(食品医薬品局)は昨年12月22日ファイザーが開発した新型コロナの重症化を防ぐ飲み薬「パクスロビド」について緊急使用の許可を出した。この薬は、臨床試験で発症から5日以内に投与した場合、入院・死亡リスクを88%低減する効果があったという。日本では2月に承認予定だというがもっと早めるべきであろう。

まん延防止等重点措置の適用は慎重・柔軟に

 米軍基地からの“染み出し”が疑われる沖縄、山口、広島などで感染が急拡大し、まん延防止等重点措置1月9日から始まった。当面、今月いっぱいの予定である。これは自治体の意向をも踏まえたもので大事な決定であった。ただ経済や教育など、さまざまなことを考えても適用は慎重にしなければならない。東京都小池百合子知事や大阪府吉村洋文知事らが、適用に慎重なのもよく理解できる。

 東京都内の病床使用率は9日時点で10.4%。都基準の重症者は4人にとどまるが、都は7日にオミクロン感染者の原則入院方針を見直した。軽症・無症状者に、子育てや介護など特段の事情がない限りは宿泊施設に入所してもらうことで、病床使用率を下げておく狙いがある。さらに11日からは、都が感染対策の徹底を確認した認証飲食店の利用人数制限を、これまでの1卓8人以内から、4人以内に強化。医療提供体制の確保と感染の拡大抑止で、社会経済活動を維持する考えだが、妥当なものだろう。

 大阪府の病床使用率も1月9日現在、重症病床0.3%、軽症・中等症病床18.0%で余力がある状況である。

 この状態が維持されることを願うばかりである。

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2021年6月の緊急事態宣言下の沖縄・国際通り(資料写真、2021年6月11日、写真:UPI/アフロ)