
(山本一郎:投資家、作家、次世代基盤政策研究所理事)
*この記事は、2022年1月8日公開の「やまもといちろうチャンネル」の動画「みんな大好き『Choose Life Project』が思い切り燃えている件について」(https://www.youtube.com/watch?v=eGaHrF7rkXw)を書き起こし、一部要約したものです。話が重複したり、大事なことに抜けがあったりしても泣かない。
タレントの津田大介さん以下、左派系論客が集まって出演していた、みんな大好き「Choose Life Project(以下CLP)」が燃えに燃えています。
CLPとは、元TBSの報道番組を担当していたディレクターの佐治洋さんが2020年の夏ごろに始めたインターネットメディアです。この佐治洋さん、かつては報道番組における複数の事例において、当事者のインタビューとは全く異なる内容の放送内容に仕上げて大騒ぎになった武勇伝のある人物としてよく知られております。
【関連情報】
◎Choose Life Project(https://cl-p.jp/)
「ネットにはびこるデマを正す」という理念を掲げ、「中立・公共」を標榜していましたが、設立当初に立憲民主党から1500万円の資金提供を受けていたことが正月早々発覚しちゃいまして、「なーんだ、立憲民主党の紐付きメディアじゃねーか」と大火事になってしまいました。
そもそもCLP自体、立憲民主党や共産党の政治家が出演することが多く、話題のチョイスもピースボートがやっている「3/11原発ゼロ・自然エネルギー100世界会議」「決断すれば核(兵器)は無くなる」など、左派が大好きなテーマばかりです。閲覧者も革新系のみなさんが中心という意味で、左派の方々が好むメディアであることは間違いありません。
そういうメディアがあること自体は別に違法ということはなく、CLPの炎上劇は実際のところ大した問題ではありません。みなさん頭に血が上って、顔真っ赤にしていろんなことを言っていますが、メディアが政党からお金もらうのは法的には問題なく、政治資金規正法に引っかかって誰かが詰め腹を切らされるという類の話ではありません。
それよりも、ここで引き合いに出すべきなのは、ちょうど2021年の秋ごろに左派がワイコラと騒いだ「Dappi(ダッピ)」問題です。
保守Dappiと左派CLPの共通点
「DappiというTwitterの匿名アカウントが、立憲民主党など野党サゲ、自由民主党アゲの情報を流している。でも、実は自民党からお金をもらってデマ流しているんだ、ふざけんな」という問題が浮上し、新聞だけでなく、国会質問、名誉毀損裁判などいろんな形でワイワイ盛り上がっていました
【参考記事】
◎「Dappi」裁判始まる 「ツイートは名誉毀損」立民議員が提訴、被告側は請求棄却求めるも出廷せず(https://www.tokyo-np.co.jp/article/148128)
それこそ、CLPでも「Dappiは民間人でなく、完全に国政を理解した組織的な行為」と立憲民主党・小西洋之さんの話に丸乗っかりした動画を流しているぐらいです。Dappiが国政を理解した組織的行為だとして、それでは政党からお金が出ているCLPはどうなのか。ど真ん中の事件じゃないかとツッコミを受けるのは当然のことです。
自民党とDappi本人の間のカネのやり取りや指示の動きが明らかになっていない段階で、名指しで批判していた左派界隈に対して、「お前ら、言っていることと、やっていることがちげえじゃねーか」と、彼らが右に投げたはずのブーメランがブンブンブンと飛んで戻ってきて、左派の眉間に刺さってしまった。わざとやっているわけじゃないんだろうけど、「やっぱり、ブーメランは左翼のお家芸だよね」とみんなが盛り上がっているわけです。
先ほども申し上げたように、これはただちに誰かが爪腹切らされる問題ではありません。ただ、「非常に恥ずかしいこと」ですよね。ジャーナリストの津田大介さんが本当に知らなかったのかどうかは、私は存じ上げません。
立憲民主党代表の泉健太さんは、記者会見で「国民民主党と合流前の旧立憲民主党時代のことで、当時代表の枝野幸男執行部でのこと」と線引きをするような表現に終始しました。また、幹事長の西村智奈美さんは、説明責任はおろか支出内容もあまりはっきりしない会見をしておりました。あれだけ情報開示しろ、納得のいく説明をしろと繰り返していた立憲民主党にとって、非常に手痛い事件となったことは間違いありません。
【参考記事】
◎立民・西村智奈美幹事長 CLP以外の団体への約9億円支出もうやむや「個別の取引内容の公表は控える」(https://www.tokyo-sports.co.jp/social/3923114/)
今回の話は、CLPに出演されていた方からの抗議声明という形で、1月5日に世の中に知らされました。
ジャーナリストの津田大介さん、東京新聞記者の望月衣塑子さん、前新聞労連委員長の南彰さん、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん、フリーアナウンサーの小島慶子さんの5人が、「立憲民主からお金もらっていたなんて聞いてない。しかも、それを隠してクラウドファンディングやサブスクで一般人からもお金を集めていたからけしからん!」というような抗議が発端で、騒ぎが拡大したわけであります。
私がその立場だったら同じこと言うしかないよなと思いますが、ここでちょっと気になるのは、「私たちの調査によって問題がわかった」というようなことを言っている点です。
ご存知「政治資金規正法」という法律があります。政治家がパーティーや寄付でもらったお金は政治資金収支報告書としてまとめ、「誰がどういうふうにお金を使ったのか」という点はインターネットで公表されることになっています。
それをひっくり返して見ていくと、どうやら3億円近くのお金が変なところに流れており、その一部がCLPに番組制作費として流れ着いたのでは、ということが読み取れます。会員制月刊誌「FACTA」は、旧民主党時代からの事務局を担う秋元雅人さんの事案として、これらの問題のある取り組みについての触りを去年夏には記事にしていました。
恐らく内々ではこの話はある程度知られていたのでしょう。そして昨年末頃、CLP内部の人間が出演者に対して、「大将、CLPは立憲民主党から設立前にカネをもらっていた政党紐付きメディアですぜ」とポロっと言ってしまった。それで今回の抗議につながったではないかなと思います。
その割に、津田大介さんらが「われわれが調査しました」とドヤっとしているのは、見ている側からするとモヤモヤします。お前らの脇が甘かっただけだよね。
独立早々、資金提供を受けられたのはなぜ?
1500万円をもらったのは、TBS「報道特集」にいた佐治洋さんと「NEWS23」にいた工藤剛史さんがTBSから独立したタイミングだったとされています。「独立して、まだ何の実績もない人が立憲民主党からいきなり1500万円もらえるの?」という点が一つ問われると思います。
TBSで政治問題を含む報道番組の制作に携わっていた佐治さんや工藤さんが、当時の立憲民主党幹事長・福山哲郎さんや本部事務局の秋元雅人さんらと何かのご縁でつながりが深かったから資金の提供を受けることができたのではないか、と想像する人は決して少数ではないのでしょうか。
「2009年の民主党の政権交代時に、報道番組で民主党をヨイショしたから、そういうカラミでお金もらったんじゃないの」と邪推する人もいるようです。後述しますが、資金提供の間にいたブルージャパン社という社員8人の広告代理店に、数年間で8億円以上ものお金が旧民進党や立憲民主党から出ていたことを考えれば、最初からある程度、政党が自分たちの政策主張をネット動画などを通して広げられるようにと思って手がけたのは間違いないでしょう。
そうすると、これから新しいメディアを立ち上げる人は、「こいつは〇〇という政党から、これくらいお金をもらっているハズだ」と必ず疑われることになってしまうと思うんですよね。困ったことに。
今回、そういうブルージャパン社からの発注という美味しいおこぼれに預かることのできなかった左派メディアの人たちがCLP事件の発覚で怒り狂い、盛大に内ゲバをしているのを見ると、「ああ、お金をもらえていなかったんだなあ」「お金が欲しかったんだなあ」とぼんやり思ってしまうのは私だけでしょうか。私だけですね。
CLPも最初から「立憲民主党からお金をもらっています!」と堂々と公開していたならば、何も問題はなかったんですよ。ただ、今回は立憲民主党の件を隠して出資を受けていた上に、クラウドファンディングでもお金を集めたり、2000人くらいのサポーターを募集してサブスクでもお金を集めたりと、事業化にある程度成功しています。
政党の紐付きであるならば、もうちょっとサポーターが集まってお金を出してやれよと思わなくもありませんが、ともかく政党からお金をもらっていたのに、それを隠してクラウドファンディングをやり、中立的な公共メディアを標榜していたというのは、違法とは言えなくても利益相反ですし、ステルスマーケティングみたいなものですから、道義上は大変な問題があったと言えましょう。
こういった事情がわかれば、ジャーナリストの津田大介さんたちだって、「そんなの聞いてねえぞ」と怒るのは当たり前です。津田さんに同情しますよ。というか、怒るしか方法がないよね。うんうん、わかるわかる。
そして、先にも申し上げた通り、立憲民主党からのお金は、CLPへ直接手渡されたわけではなく、博報堂→制作会社「ブルージャパン」→CLPと、迂回してお金が渡ったこともわかっています。
このブルージャパンの代表取締役が、早稲田リーガルコモンズという法律事務所の竹内彰志さんという弁護士です。
竹内さんは安倍政権の時に安保法制反対で結成された「SEALDs(シールズ)」という左翼の若者団体を一般社団法人にしたことがある人です。SEALDsの奥田愛基さんとかと一緒に、立憲民主党の選挙活動を手伝っていたこともあり、立憲民主党との関係は深い方です。
先のDappi問題の時にも、竹内さんは自民党を訴えた、立憲民主党の小西洋之さんの代理人になっています。
今の政治の世界は、わざわざ広告代理店のようなところを間にはさみ、弁護士事務所を発注するということが当たり前に起きています。直接お金を払うと、政治資金規正法で求められる収支報告書に支出先を明記しなければならず、都合の悪いお金の払い先があった場合にすぐに炙り出されてしまうからです。
今回も、ダイレクトに立憲民主党からCLPにお金を払われていれば、たちどころに察知され、「あいつら、立憲民主党の下請けでシンポジウムやっている業者さんですよね」とわかってしまいます。隠蔽の意図が彼らにあったかどうかはわかりませんが、結果的に、隠す方向に行き、隠したからこそ中立な公共メディア風の味付けでまあまあうまくいった。でも、隠していたのがバレてしまったので大炎上し、応援していた左派のみなさんは、Dappi批判で投げたブーメランが無事眉間に刺さってみんな大爆笑というオチなのだろうと思います。
政治の世界で飛び交う「柔らかい実弾」って何?
そういうウラの世界を知っていると、今度のCLPの話は「脇が甘かった、やり方が下手だったよね」ということになります。直取りに近い形で、ブルージャパンという左派の香りが漂う会社を通じてお金もらっちゃったら、「バレるに決まってるじゃん」って話なわけですよ。
しかし、こうした中間の代理店みたいなのをはさんでいると、もともとどこからお金が出ているのか、途中で見えにくくなるのも事実です。そうなると、実態はリーク(内部告発)という形でしか、表に出てきにくくなります。
そして、前述の通り左翼界隈で政党から支えられたメディアと、そうでないメディアとに分かれる。
例えば、岩上安身さんがやっている「IWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)」というメディアがあります。「お金がないよー、寄付ちょーだい、ちょーだい」と言いながら運営されています。推測ですが、あそこにはたぶん立憲民主党から100円も出てないでしょう。むしろ「出演料として金払え」ぐらいのことを言われているのかもしれません。
ほかにも左翼系で頑張っているネット論客には、お小遣いをもらってない人がいるわけです。
「CLPは金もらってうまい飯食っていながら、オレはこんな寒いところで記事書いて、これくらいしかもらえないのかよ」っていう、左派系メディアでよくある嫉妬が勃発しちゃった可能性もあります。するともう、実弾投げますよ、という人も当然、出てきます。実弾と言っても、柔らかい実弾ですけど。
政治の世界では、日ごろから柔らかい実弾、いわゆる「リーク」が飛び交っているわけです。懲らしめたい相手がいる時に、「これを報じてくれれば、いくら払います」と。
これにはいろんなルートがあって、テレビ発、週刊誌発、新聞発とさまざまな媒体で、独自だとかスクープだとかの取り合いをやっています。
そうなると「本当にウラのないリークってあるのかい!」と言いたくなります。もちろん、「こんなことは許せない、だからこれに関して告発します!」って義憤にかられてタダで情報提供してくれる人も一定の割合はいますが、そうでないリークがいっぱいあるわけですよ。
「この情報をやるから、いくらか寄越せ」とか、「掲載してあげるのでこのぐらいの『取材費』は用意してくださいよ」とかいう話が全くないわけでもないのがメディアの世界です。
抗議をしたCLPのコメンテーターやパネリストの方たちも、血気盛んな制御の効かない人たちです。「みなさんウブだなー」と感じる面もあります。
5人のジャーナリストが言うべきこと
CLPを作った佐治さんは代表取締役を下りるみたいな話になっています。志半ばにして事業を畳むわけにはいかないので、引き続き関係しながら、形の上では責任を取ってシャンシャンにしようとしているのではないかと推察します。
今回のことは、ただちに違法ではないけれども、道義上適切ではないということも含め、みなさんには目線を揃えて見てほしいと思います。
CLPも政党との関係をはっきり明示し、番組を制作し、シンポジウムを実施する分には問題ないと思います。立憲民主党からお金もらおうが、共産党の人たちと一緒にやろうが関係ないですよ。本人たちが正しいと思ってやっているなら、どんどんやればいいんです。
抗議文を書いた5人のジャーナリストも、「CLPが本当に心を入れ替えて再出発するんだったら、私たちはまた協力します」って言えば、「男気あるな」という社会の評価につながると思いますけどね。あ、「男気」って言っちゃうと、ジェンダー的に問題になりますが。
僕自身、CLPが違法かどうかは全く興味がありません。はっきり言って、人の眉間にブーメランが刺さるのを見ているのが楽しいんです。「お前らダッセーな」と言えるのが楽しい。この炎上劇は、面白がって見ていただければと思いますね。
現在、CLPは眉間ブーメランのせいで解散するほどの勢いでモメていますし、立憲民主党も内ゲバみたいになっているようですが、今後もこういう「お家芸」には注目していきたいです。
【訂正履歴】 Dappi問題について国会で質問したのは森ゆうこ議員で、小西ひろゆき議員が追及したのは記者会見でした。当該部分は修正済です。
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