プロローグ/カザフ騒乱

 旧ソ連邦(ソビエト社会主義共和国連邦)は15の民族名を冠する共和国から構成される共和国連邦でした。

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 ソ連邦は1991年12月25日に解体され、15の民族名を冠する共和国は名実ともに独立。カザフ・ソビエト社会主義共和国は新生カザフスタン共和国として独立しました。

 そのカザフスタンでは年初に燃料価格高騰による暴動が発生、暴動は銃撃戦にまで発展しました。

 筆者は、今回のカザフ騒乱は反トカーエフ大統領派によるクーデター未遂事件と考えます。

 ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領辞任後カザフスタンは二重権力状態となり、この二重権力の混乱の中で、今回のクーデター未遂事件が発生したと考えるのが合理的です。

 しかし、あまり知られていないと申しますか、日本ではほとんど報じられていない事実もあります。

 本稿では今年1月2日に始まるカザフ騒乱の背景と本質、今回の騒乱が近隣諸国にどのような影響を与えるのか、筆者の独断と偏見と想像を交えて仮説を展開したいと思います。

カザフ騒乱の本質

 今回のカザフ騒乱は、30年以上にわたり溜まりに溜まったマグマ一気に噴出した感じです。

 問題は自然噴火か、誰かが導火線に火をつけたかのどちらかです。現時点ではどちらか確証はありませんが、状況証拠より判断するに後者の可能性が高いと言えます。

 では、今回のカザフ騒乱の本質は何でしょうか? 

 結論から先に書きます。カザフ騒乱の本質はナザルバーエフ前大統領側近派閥間の権力闘争(有り体に言えば“内ゲバ”)です。

 武力闘争になりましたので、クーデター未遂事件とも形容されましょう。

 トカーエフ現大統領もナザルバーエフ前大統領の側近であり、ナザルバーエフ派でした。

 ですから、トカーエフ現大統領がナザルバーエフ前大統領と対立したのではなく、ナザルバーエフ派内部の権力闘争と捉えることが合理的です。

 従来から側近派閥間同士の対立抗争は存在したのですが、重鎮がいたので表面化しませんでした。

 ところが、重鎮が雲隠れして重しが軽くなると、側近同士の内ゲバが激化・表面化。

 攻撃されたトカーエフ現大統領は、≪ロシアのV.プーチン大統領に助けを求めた。そこでロシアは、援助を求めてきたトカーエフ大統領を支援すべくCSTO(集団安全保障条約機構)の治安部隊を派遣した≫というのが今回の内ゲバ騒ぎの推移と筆者は考えます。

 そしてキモは、最初からその動きを察して待ち構えていたところに、シナリオ通りに鴨葱がやってきたと言うことです。

 結果として、ロシアに支援を求めたトカーエフ本人は自国内で安泰となり、ロシアは勢力圏を拡げたことになります。

 そう考えると、パズルの断片が納まるべきところにすんなりと納まります。

 では、今回の経緯に沿い、何がなぜ起こったのか考察していきたいと思います。

カザフスタン政経情勢概観

 日本から遠く離れたカザフスタンは資源大国であり、石油・ガス大国です。

 今回のカザフ騒乱の背景は資源を巡る権力闘争の側面もあるので、最初に同国の政治経済情勢を概観したいと思います。

 同国の面積は272万4900平方キロ(日本の約7.2倍)、国境は約1万2200キロ。うち、ロシアとの国境は約6850キロあり最長。2番目がウズベキスタンとの国境約2200キロ、3番目が中国との国境約1530キロになっています。

 人口は約1900万人。民族構成はカザフ系約7割、ロシア系約2割、ウイグル系・タタール系約8%、ほかにウズベク系やウクライナ系の人たちが住んでいます。

 首都ヌルスルタン(旧アスタナ)は百万都市ですが、同国最大の都市はアルマトイ(約200万人/旧アルマアタ)。宗教はイスラーム教約70%、キリスト教26%(主にロシア正教)です。

 カザフスタン1991年12月16日に共和国独立宣言を発布。旧ソビエト連邦1991年12月25日に解体され、ここに名実ともに独立国家として新生カザフスタン共和国が誕生しました。

 新生カザフスタン共和国1993年1月に憲法を採択。1995年8月国民投票で新憲法採択後、1998年2007年2011年に憲法を改訂しました。

 現在の大統領任期は5年間、国会は2院制(上院セナート47議席、任期6年/下院マジリス107議席、任期5年)です。

 複数政党制が認められていますが、実質、政権与党「ヌル・オタン(輝く祖国)」の一党独裁制と言えましょう。

 カザフスタンは資源大国です。

 石油の確認埋蔵量は300億バレル(可採年数45年)、天然ガス確認埋蔵量2.3兆m3(同71年/2020年末現在/英BP統計2021年版)。その他、ウラン・石炭・クロム・亜鉛やレアメタル等鉱物資源が豊富に賦存します。

カザフスタン内政概観

 次に、今回のクーデター未遂事件の背景となるカザフ内政を概観します。

 上述のとおり、国体は大統領を元首とする共和制です。

 国語(国家語)はカザフ語公用語カザフ語ロシア語大統領は国民の直接選挙によって選出され、任期は5年間。

 大統領候補の資格要件は、満40歳以上、過去15年間連続してカザフスタンに在住し、カザフ語を使用できる者となっています。

 1991年12月16日のカザフ独立宣言後、ソ連邦カザフ共和国共産党第1書記・大統領からそのままカザフスタン共和国大統領に就任したN.ナザルバーエフ大統領は、強固な独裁体制を維持してきました。

 ソ連邦崩壊前から30年以上の長きにわたり権力の座に君臨したN.ナザルバーエフ大統領2019年3月19日、唐突に辞任を発表。

 2020年4月の大統領任期終了までの間、同国憲法に従い、S.トカーエフ上院議長が暫定大統領を務めることになりました。

 ナザルバーエフ氏は大統領を辞任後、国家の治安を担う安全保障会議議長を含め多くの重要役職に就任して院政を敷く体制を整え、トカーエフ大統領政治・経済政策に関しては前政権の政策方針をほぼ踏襲してきました。

 首都アスタナヌルスルタンと改名したのもトカーエフ大統領の提案であり、彼はあくまでも軽量級中継ぎ大統領と考えられていました。

 トカーエフ上院議長の大統領就任を受け、後任上院議長には初代大統領の長女であり、次期大統領候補と目されていたダリガ・ナザルバエワが就任しました。

 ところが、2020年5月の大統領令により上院議長を解任され、議員資格を剥奪されてしまいました。

 ダリガ氏後任にはトカーエフ大統領側近の大統領府副長官のM.アシムバエフ氏が指名されたのですが、大統領府はダリガ解任の理由を発表しませんでした。

 筆者は、この頃からトカーエフ大統領のナザルバーエフ前大統領離れが進んだものと推測します。

カザフスタンで何が・なぜ起こったのか?

 カザフスタンでは今年1月1日に燃料価格の自由化が実施され、燃料価格が高騰。

 同国では自動車燃料としてLPG(液化石油ガス)が多用されており、LPG価格が2倍に跳ね上がりました。

 カザフスタン西部のジャナオゼンやアクタウでは1月2日、LPG価格暴騰に反対する暴動が発生。この暴動はカザフ最大の都市アルマトイにも広がり、暴徒と治安部隊の間で銃撃戦に発展しました。

 この結果、カザフ内閣は1月5日に総辞職。

 大統領令により、新内閣が誕生するまでA.スマイロフ第1副首相が当面の首相代行に任命され、同首相代行はその後首相に就任しました。

 1月6日のカザフ報道では、ナザルバーエフ前大統領は健診のため国を離れ、家族は既に隣国キルギスに脱出済みの模様です。

 1月6日付け露コメルサント紙は、「今回のカザフ騒乱は外部からの扇動によるもの」とのロシア外務省見解を伝えており、トカーエフ大統領の要請によりCSTO(集団安保条約機構)は騒乱を鎮圧すべく空挺部隊派遣を決定したと報じています。

 また1月6日付け露Oilcapital誌は、「ナザルバーエフ前大統領の金庫番たちは、自家用飛行機で既にカザフスタンから脱出した」と伝えています。

 代表的金庫番は、P.シャジーエフ、K.ラキシェフ、T.クリバエフ(前大統領次女の娘婿で露ガスプロム取締役)、長女の娘婿等々です。

 この報道が真実であれば、国父ナザルバーエフ前大統領の一族郎党は既に海外に逃亡していることになります。

 今回のカザフ騒動は後日一段落した段階で詳細な検証が必要ですが、今の段階で一つだけ言えることは、デモが組織だっており、自然拡散したとは考えられないことです。

 すなわち、誰か裏でデモを扇動している黒幕がいると考えるのが合理的です。

 現段階では明確な説明は不可能ですが、今回のカザフ騒乱に関しては3つの説(①米国陰謀説/②露プーチン大統領陰謀説/③ナザルバーエフ前大統領陰謀説)が流れました。

①の米国陰謀説ロシアのジリノフスキー自民党党首が唱えていますが、根拠は提示されていません。筆者は、これはあり得ないと考えます。

 米国メジャーはカザフで石油・ガス事業を展開していますから、同国が混乱することは米メジャーの利益を毀損します。

②もあり得ません。露プーチン大統領は自分を裏切る者・歯向かう者には徹底的に攻撃を加えますが、自分に忠実な者・歯向かわない者を左遷したり追放したりすることはしません。

 ですから、国民に不人気なD.メドベージェフ前首相は今でもそれなりの地位に就いています(本来ならばとうの昔に政権中枢から追放されるべき人物ですが)。

 ナザルバーエフ前大統領プーチン大統領に歯向かえば追放されるでしょうが、そのような事実はありません。

③はナザルバーエフ前大統領がトカーエフ大統領を追放するために仕掛けたクーデターであるとの説ですが、これもあり得ません。

 一方、忠誠心あふれるトカーエフがナザルバーエフ前大統領追放を企てるかと言えば、それもあり得ません。

 また、プーチン大統領とトカーエフ大統領が組んで、ナザルバーエフ前大統領を追放する必要性も必然性も存在しません。

 上記より判断するに筆者は、今回の黒幕はナザルバーエフ前大統領の周辺で甘い汁を吸っていた側近派閥ではないかと考えます。

 トカーエフ大統領の反汚職運動に危機感を覚え、民衆の不満を扇動してトカーエフ大統領失脚を狙ったのではないかと筆者は推測しております。

 ひょっとすると、ナザルバーエフ前大統領はこの動きを黙認していたことも考えられますが、金庫番が真っ先に自家用機で逃げたことから判断すると、前大統領は知らなかった可能性もあります。

カザフ騒乱の背景/側近派閥間の権力闘争

 今回のカザフ騒乱をナザルバーエフ前大統領とトカーエフ現大統領の権力闘争とする見方もありますが、それは正鵠を射ていないと言わざるを得ません。

 あくまでもナザルバーエフ前大統領の側近派閥間の権力闘争であり、今回のクーデター未遂事件の首謀者もクーデター鎮圧派も、もともとは全員ナザルバーエフ派と言えます。

 ナザルバーエフ前大統領はソ連邦時代を含め、30年以上の長きにわたりカザフスタンに君臨。彼の統治時代、彼の周囲には様々な側近派閥集団が形成され、派閥間の対立が存在していました。

 前大統領健在中は派閥間の対立は表面化しませんでしたが、ここ1年あまり、前大統領は表舞台に登場しなくなりました。

 もともと健康問題を抱えており、心臓病でペースメーカーを埋めていると言われています。

 そこで健康問題が悪化して、外国で治療しているとの説も流れています。

 ナザルバーエフ前大統領時代は周辺の側近派閥間の権力闘争が顕在化することはありませんでしたが、重しが軽くなり(取れて?)、派閥間の権力抗争が一気に表面化したと考えるのが妥当と判断します。

 ナザルバーエフ前大統領の動静は依然として不明ですが、トカーエフ政権転覆を狙った反トカーエフ派の反乱(クーデター未遂事件)は、結果として返り血を浴びたことになります。

 今回のクーデター未遂事件で一番利益を得たのはロシアと言えましょう。

 結果として、ロシアはカザフに対する支配権を強化できましたので満足しているはずで、既に1月10日からCSTO軍をカザフから撤収開始しました。

 この撤収によりロシアはカザフに軍事侵攻したのではないとの大義名分が証明されることになり、文字通り一石二鳥となります。

 この事実をもって、ロシアクーデターを仕組んだと主張する人もいます。しかし、これはあくまで結果論にすぎません。

 ロシアが得をしたからと言って、ロシアが今回の騒乱を仕組んだことにはなりません。

 ロシアが仕組んだクーデターであると主張するのであれば、その証拠を提示することが必要です。証拠のない主張はあくまでも推論にすぎません。

 筆者は、ロシアも米国も今回は関与していないと考えておりますが(後述)、この意味では本稿も一つの推論であり、仮説である点を明記しておきます。

トカーエフ大統領の変節と反対派の動き

 今回のカザフ騒乱は上述のとおり、筆者は反トカーエフ派によるクーデター未遂事件と理解します。

 ナザルバーエフ大統領2019年3月に辞任したとき、彼の頭の中ではトカーエフ上院議長はあくまでも中継ぎの暫定大統領であり、次期大統領は長女ダリガ、その次は甥っ子(弟の息子)のサマト・アビシュ国家保安委員会第1副議長への権力継承路線を描いていたと思います。

 トカーエフ上院議長は同国憲法に従い大統領に就任しましたが、お目付け役として、前大統領は側近中の側近マシモフ前首相を国家保安委員会議長に任命。自分は安全保障会議議長に就任しました。

 前大統領が最側近のマシモフ氏を同委員会議長に任命したことは、トカーエフ大統領派の勢力突出を牽制する意味合いと考えられます。

 ここでナザルバーエフ前大統領にとり想定外の出来事が発生しました。

 暫定大統領のはずのトカーエフ大統領による早期大統領選挙実施です。

 大統領選挙は2019年6月9日に実施され、7割以上の得票率でトカーエフ大統領は再選されました。

 大統領選挙で再選されたトカーエフ大統領はこの頃から、ナザルバーエフ前大統領から自立した独自路線を歩み始め、他の側近派閥グループとの対立が激化・表面化してきたものと推測します。

 反トカーエフ派が企てたもの、それがクーデターによるトカーエフ大統領追放シナリオでした。

 今回、自分が首謀者だと名乗り出た人物がいます。

 その人の名はM.アブリャゾフ。この人物はカザフ最大の銀行BTAの元頭取。リーマンショックで銀行危機を察し、100億ドル以上の資金を横領して海外に逃亡した人物です。

 彼が反トカーエフ大統領派と組んだことも十分考えられます。

 反トカーエフ大統領派がテロリストを集め、国家保安委員会が陰でこのテロリスト集団を育成して、アブリャゾフが資金援助していたのではないかと筆者は推測します。

 クーデター成功の暁には過去の罪状を免責として、祖国に戻る交換取引をしたことでしょう。

 今回のカザフ騒乱で一つ不思議なことがあります。それはロシアの動きです。

 トカーエフ大統領の要請に従い、ロシアは直ちにCSTO(安全保障条約機構)の治安部隊を派遣しました。

 この治安部隊はロシア軍を中心とする2000人以上の空挺部隊です。各国軍隊の中で空挺部隊はエリート集団です。

 このような治安部隊を即座に派兵できたことは、ロシアは事前にこのクーデター未遂事件を察知して、準備していた可能性があります。

 否、そう考えなければ、このような早い軍事行動は理解できません。

 恐らく、ロシアの情報機関がクーデターの動きを察知してトカーエフ大統領に伝え、事前に対策を講じていた可能性が高いと筆者は推測します。

プーチン大統領のカラー革命発言の真意は?

 露プーチン大統領は今回の騒乱を「外部勢力によるカラー革命」と呼びましたが、これは2つの意味で間違っています。

 第1の間違い。これは「革命」ではありません。カザフスタン国内の「クーデター未遂事件」です。

 付言すれば、ウクライナオレンジ革命もグルジアのバラ革命もキルギスチューリップ革命も、実態は「革命」ではなく「クーデター」です。

「革命」と命名したのは米国です。

 米国はクーデターにより権力を奪取した政権を支援できないことになっているので、「革命」と呼びました。目的は親米派政権を樹立することです。

 第2の間違い。それは、今回のカザフ騒乱に米国は関与していないことです。

 上記3か国に共通していること、それは資源国ではないということです。

 一方、カザフスタンは資源大国であり、米メジャーが進出して石油・ガス探鉱開発事業で大儲けしています。

 ですから、カザフスタンが混乱することは米メジャーの利益を毀損することになるので、米国が政権転覆を画策するはずはありません。

 もちろん、プーチン大統領はそのようなことは先刻承知の上で、「外部勢力によるカラー革命は許さない」と発言したと筆者は考えます。

 このようなロシアの強硬姿勢は、ウクライナ問題を巡り進行中の米露協議に有利に作用するからです。

 すなわち、あくまでも交渉材料の一つとして「カラー革命」発言があったと筆者は理解しています。

ナザルバーエフ前大統領の動静は?

 ナザルバーエフ前大統領の動静も注目されます。

 まだ本国に滞在しているのか?

 既に脱出しているのか?

 重病で動けないのか? 

 現状では不明ですが、筆者は既に海外に逃亡していると推測します。

 ナザルバーエフ前大統領の報道官は1月8日、「ナザルバーエフ氏は首都にいる。憶測はやめてほしい」と発表しましたが、この発表は信憑性に欠けます。

 もし首都に滞在しているのであれば、何らかの本人発表や本人の映像が流れるはずです。

 ここ1年近く本人の動静不明ということは、カザフスタンにはいないと理解する方が自然です。

 情報が隠蔽されているから様々な憶測が流れるのであり、情報を公開していればデマは流れません。

 もっと深掘りすれば、この首都滞在情報の発信自体、海外逃亡説を裏付けているとも言えましょう。

エピローグ/カザフ騒乱の総括と今後の影響

 最後に今回のカザフ騒乱を総括します。筆者の描くカザフ騒乱の輪郭は以下のとおりです。

主役:ナザルバーエフ前大統領の側近派閥間の権力闘争。

 最大の派閥争いはトカーエフ上院議長とマシモフ前首相(肩書は当時)

背景:前大統領の重しが機能していたときは派閥間の権力闘争は表面化せず。重しの機能が少しずつ低下するにつれ、側近派閥間の権力闘争激化。その結果として、今回のカザフ騒乱勃発。

経緯:表の部分は、前大統領周辺の側近派閥間権力闘争によるクーデター騒ぎ。裏の部分は、首謀者と名乗り出た人物がクーデター騒ぎの資金源だった可能性大。

顛末:用意周到に対策を講じていた政権側に反政権派が焦って行動開始。クーデター失敗。

 この輪郭は、今後検証が進むにつれてさらに詳細が明らかになってくるものと推測します。

 既にマシモフ前国家保安委員会議長以下カザフ国内の有力政治家は逮捕されていますが、オリガルヒ(新興財閥)は国外に逃亡しており、国家資産を搾取して蓄財した潤沢な資金があるはずです。

 ゆえに今後展開されるかもしれない権力闘争を勘案すれば、これからトカーエフ政権側によるさらなる大規模粛清もあり得ます。

 付言すれば、今回のカザフ騒乱は周辺国に様々な影響を与えています。

 例えば、ウズベキスタンは隣国カザフ騒乱を見て、中国向け天然ガス輸出停止を発表。

 ウズベキスタン自動車燃料としてCNG(圧縮天然ガス=メタン)を使用している割合が多く、ガス燃料価格引き上げを予定していましたがそれも中止しました。

 ウズベキスタンが中国向け天然ガス輸出を停止すれば、その分、中央アジアから中国向け天然ガスパイプラインの輸送能力が余るので、天然ガス大国トルクメニスタンにとり有利な状況が生まれます。

 トルクメニスタンはさらに、隣国カザフスタン向け天然ガス輸出構想も発表しました。

 そのトルクメニスタンでは、親(G.ベルディムハメドフ現大統領)から子(S.ベルディムハメドフ副首相)への権力継承が明示されています。

 カスピ海対岸のアゼルバイジャンは、(選挙を経ているとは言え)CIS独立国家共同体)諸国の中で権力が親(G.アリエフ前大統領)から子(I.アリエフ現大統領)に継承された唯一の国です。

 同国では、現大統領の次は奥方(第1副大統領)、その次は息子への権力継承路線がほぼ確定しています。

 今回のカザフ騒乱は彼ら為政者の心胆を寒からしめたことでしょう。ですからこれらの国々では今後、独裁色がますます強化されるものと推測します。

 中国にとっても、今回のカザフ騒乱は対岸の火事ではありません。1月9日付け日系各紙に中国のカザフ騒乱への関心が報じられています。

 中国がカザフスタン情勢を注視する最大の理由は、カザフスタンに住むウイグル系住民と中国に住むカザフ系住民の動向です。

 ウイグル問題が再燃すると中国は東西二正面作戦を余儀なくされ、国家保全の問題が生じます。

 この意味でも、中国を含むカザフ周辺国の動きも要注意です。

 そして重要なことは、露プーチン大統領の後継者選定問題に一つの教訓を与えたことだと思います。

 即ち、≪自分の重しが効かなくなると、側近派閥間の対立抗争が激化・表面化して、カザフの二の舞を演じることになるかもしれない≫と再認識したのではないでしょうか。

 この場合、2024年3月の次期大統領選挙に心ならずも再度立候補せざるを余儀なくされることも考えられます。

 上記が現段階での暫定総括と言えるのではないかと筆者は考えますが、今後新たな真相も徐々に漏れてくるかもしれません。

 この意味でも、一旦クーデター騒ぎは収束したと思われますが、今後の展開も目が離せないと言えましょう。

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