(花園 祐:中国・上海在住ジャーナリスト

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 このところ中国および日本のメディアで、日本の代表的犬種「柴犬」が中国でブームであることがよく報じられています。

 確かに上海の住宅街を歩いていると、柴犬の散歩をしている人たちをよく見かけます。また雑貨店でもカレンダーをはじめとする柴犬グッズが数多く売られており、中国で柴犬ブームが起きていることを実感します。

 なぜ今、中国で柴犬が人気となっているのでしょうか。

 まず、単純に中国人が柴犬の可愛さに気が付いたということなのかもしれません。時事通信記事では、柴犬の繁殖に取り組む中国人が「清潔でおとなしく、よく懐くところが好まれている」と語っています。

 それに加えて、他の犬種の人気が落ちたという要因もあるかもしれません。実はチベットでは、中国での人気犬種のシフトに伴い、野犬の増加が大きな問題となっています。

 今回は、中国の柴犬ブームの現状およびチベットの野犬問題について紹介したいと思います。

人気の高さから“偽物”も

 前述の通り、中国では愛犬家の間で柴犬が大きなブームとなっています。数年前と比べても、早朝や夕方に柴犬を散歩させる人とすれ違う回数が明らかに増えました。

 筆者の周りでも「柴犬を飼ってみたい」と言う中国人は少なくありません。飼育するまでには至らないものの、若い女性を中心に柴犬グッズを買い集める人もいます。筆者もコロナ流行前はよく日本土産として柴犬グッズを買っていました。

 柴犬の人気が高まるにつれて、他の犬種を柴犬と偽って販売する業者も現れました。騙された人によると、子犬のときは柴犬っぽかったのに、育ててみたら全く違う犬になってしまったといいます。そうした悪徳業者に騙されまいということなのか、ある日本人駐在員はクラブのホステスから「日本で柴犬を買ってきて」とおねだりされたそうです。さすがに断ったとのことですが。

見かけなくなった大型犬と超小型犬

 筆者の印象では、中国の柴犬ブーム2019年頃からはっきり目に見える形になってきました。一方で、かつて人気の中心だったシベリアン・ハスキーなどの大型犬、チワワなどの超小型犬は、街中で散歩している姿を見ることが徐々に減ってきました。

 中国ではここ十数年間、ペット市場が拡大を続け、犬や猫の飼育数も右肩上がりで伸び続けています。ただ、人気の犬種は時代によって異なります。約10年前の2010年前後は、圧倒的に大型犬と超小型犬が人気でした。特に大型犬は「社会の成功者のペット」という意味合いが持たれ、富裕層がこぞって高価な大型犬を買い求めました。

 一方、超小型犬は一人暮らしの女性がよく飼っていました。同じマンションの女性の住人が飼っていた超小型犬が脱走し、筆者の部屋に飛び込んできたことも何度かあります。

 街中で大型犬や超小型犬を連れた人が多かった頃、柴犬はほとんど見ませんでした。しかし現在はこれが逆転し、よく目にするのは柴犬をはじめとした小型犬です。

見栄よりもライフスタイル重視に

 大型犬や超小型犬を飼う人が減ったのは、中国の住宅事情によるところも大きいようです。

 一般的に中国の住宅は日本の住宅より広いのですが、日本と違って一戸建てはほとんどなく、基本的に高層住宅です。そのため大型犬も必然的に室内で飼わざるを得ません。しかし大型犬の室内飼いとなるとやはり大変です。

 一方、超小型犬は室内で飼いやすいというメリットがあります。しかし実際に飼った人によると、病気が多くて世話が大変だとのことです。また、思っていたほど懐かないなど、気性も当初の想像と違っていたという嘆きの声を聞くことがあります。

 実際に大型犬と超小型犬を飼った人に話聞くと、「こんなはずじゃなかった」という愚痴を聞かされることが少なくありません。中国の愛犬家たちは、こうした苦い経験を経て、「室内飼いできる」「病気になりにくい」「懐きやすい」といった点で、総合的に柴犬がベストであることに気づいたのかもしれません。

 もちろん柴犬の愛くるしさがブームの最大要因であることは間違いないでしょう。ただ以前と比べると、中国人は見栄などではなく自分の現実的なライフスタイルを重視してペットを選ぶようになってきているように思えます。

かつての人気ペットの悲惨な今

 中国では柴犬が人気となる一方、かつてもてはやされた犬種は、やや目をそむけたくなる状況になっていることが報告されています。

 中国で大型犬がブームだった頃、とりわけ珍重された犬種として「チベタン・マスティフ」があります。「チベット犬」とも呼ばれ、体重が数十キロにもなる大型犬です。ブーム時の人気はきわめて高く、最盛期は1頭当たり数千万円以上で取引されることも珍しくありませんでした。ブリーダーもこぞって繁殖してペット市場に送り出しました。

 しかしブームが下火になると、大量の飼育放棄が発生。多くのチベタン・マスティフがブリーダーや飼い主によって捨てられることとなりました。

 特に原産地でもあるチベット高原では、飼育放棄された大量のチベタン・マスティフが凶暴な野犬の群れになっているといいます。香港紙「サウス・チャイナ・モーニングポスト」によると、チベット高原をうろつく野犬のチベタン・マスティフが数万匹に上るそうです。それらが家畜や野生動物を襲うだけでなく子供を噛み殺すという事件も発生しており、深刻な問題となっています。

 中国ではペットの飼育数の増加とともに飼育放棄も社会問題となっています。日本でもペットの無責任な購入やペット遺棄が問題となっていますが、中国の飼い主は日本よりもまだまだ飼い主としての責任感が低いようです。一方で、飼育放棄されたペットを保護したり、ペット遺棄の厳罰化を訴える人も出始めてきています。中国でもそうした活動が広がり、不幸なペットが減ることを願ってやみません。

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中国で人気となっている柴犬(出所:写真AC)