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衆院選鹿児島1区から出馬するも当選ならず。比例復活もできなかった

「私としては、『政策提案型』というのは、ちょっと危険だと思っています。“政府与党”という言葉があるように、政策は政府与党が提案するもので、その提案に対して『それおかしいですよね』という適切な指摘や批判をして、じゃあこう変更しましょうと、改善させていく。それが、野党なりの『提案』であって、指摘や批判をする前に、提案だけしていたら、まるで実現性のない“青年の主張”のようになってしまうでしょう」

そう語るのは、立憲民主党の川内博史前衆議院議員(60)だ。10月衆議院選挙の結果を受け、枝野幸男氏が代表を退いたことで行われた立憲民主党の代表選挙。泉健太氏(47)が新代表に選出されたことによって、野党第一党である立憲民主党は“提案型野党”に方針を転じたと報じられている。

「立民新代表、泉健太氏 提案型野党めざす」(「日本経済新聞2021年11月30日
「立憲・泉代表 代表質問で17項目提案『政策立案政党』アピール」(「毎日新聞2021年12月10日

こうした方針の変化は「野党は批判ばかり」という声を受けてのものだとみられているが、川内氏は危機感を覚えているという。

「立民「論客」相次ぎ落選『批判だけでは支持されず』」(「産経新聞」、2021年11月1日号)

前の衆院選挙で落選した川内氏は、こんな記事で「政権批判やスキャンダル追及」を繰り返してきた「論客」として、辻元清美氏らとともに名指しされた代議士だ。

■立憲支持層にも広がった「野党は批判ばかり」という言葉

もともと、「『野党は批判ばかり』という批判」があること自体は知っていた。だが、こうした批判を川内氏が現実のものとして感じ始めたのは1年ほど前からだという。

「地元の鹿児島に戻ると、いつも街角に立ってお話をするんです。そのときに多くの方から声をかけていただくのですが、『野党は批判ばかりしないで、ちゃんと提案もしたほうがいいよ』というご意見をいただくようになった。一般の人、それも声をかけてくださるくらいですから、基本的には支持してくれている人が、心配してそうおっしゃる。このパワーワードは、よほど浸透しているんだなと感じたわけです」

自民党の関係者や自民党に近い評論家が好んで使う「野党は批判ばかり」というフレーズ

「実際は、国会で同時にさまざまな問題に取り組んでいるわけです。これは悪質な印象操作に過ぎません。でも、テレビなどでは国会で私たちが追及する場面ばかり切り取られて報じられるので、そればかりやっているような印象を広められてしまう」

その結果、このフレーズ立憲民主党に親和的な有権者の間まで広がっていたと川内氏は感じている。

■政府の政策を変えるには“批判”が必要

「批判ではなく、提案をしよう」。一見、建設的な主張に見えるが、これはただ与党のやりたい政策が、そのまま実現していくだけの結果につながるのではないかと川内氏は危惧している。

「政府与党にとってはいちばん楽な道でしょう。『いやー、先生のご提案はさすがですねー』と持ち上げるだけ持ち上げて。でも『私たちの意見は違いますから』と、すべてがそれですんでしまう。野党の“提案”に対して、お宅らの提案と考え方がちがいますからで片付けられてしまう。これが“青年の主張”で終わってしまいかねない理由です」

国会には“批判”が必要だと、川内氏は言う。

「基本的に、国会は議論をする場です。立論に対して反論があって、それを議論して昇華させて結論に持って行く。そういう、まっとうな批判が、民主主義を前進させるために絶対に必要なのです。だから、『野党は批判ばかり』という声にひるんで、提案型路線に変更するなら、それは国会の仕事を放棄することにつながりかねない。民主主義を大きく後退させる可能性がある危険なことだと思っています」

川内氏がそう考えるのは“批判”によって、政府の政策を正しい方向に修正してきたと自負しているからだ。

「“批判”し、追及することで、国民の利益を守った事例はたくさんあります。最近でも、導入予定だった大学入学共通テストへの英語民間試験を『受験生の経済状況や居住地域によって差が生じることがあってはならない』と“批判”し、見直しを実現させました。新型コロナウィルスの持続化給付金については、大手広告代理店や人材派遣会社などが委託費と称した多額の“中抜き”をしていたことを“批判”した結果、改められています。ほかにも、10万円の一律給付金大企業非正規の休業支援、子育て世帯の給付金など、政府案を野党が“批判”し、提言していった結果、よりよい制度として実現してきたのです」

■“提案型野党”は民主主義に資するか

しかし、選挙結果を見る限り、こうした“仕事”は有権者から評価されているとは言い難い。

「私を含め、政権と激しくやりあってきた仲間たちが落選したというのは、相手にまた格好の材料を与えてしまったかなという、忸怩たる思いがあります。“野党の活動を通じて、さまざまなことが実現しているんですよ”ということが伝わっていなかった。だからレッテル貼りにつながってしまったと思う。そういう意味では党としての広報活動、実績をいかに国民のみなさんに知っていただくか、周知をしていくことが必要ですね」

再び国会に戻れたとしたら、川内氏はふたたび政府を“批判”するのだろうか。

「もちろんです。“批判”しなければ、どんどん与党が暴走し、権力を私物化させて歯止めがきかなくなっていくからです。そのうえ、行きすぎた新自由主義のせいで、普通に暮らしている人たちの利益が阻害されています。実質平均賃金が20年以上も下がり続けている国なんて日本くらいですから、異常なんです。経済政策にしても、安全保障にしても、パンデミックや、気候危機にしても……。もう待ったなしのことばかり。これまでの政治の延長線上ではどうにもならない課題が山積みなので、そこはしっかり論戦を挑んで、変えるべき点は、変えさせなければならないと思います」

にわかに生まれた“提案型野党”という日本独特の言葉。多くの先進国で、このような存在は確認されていない。これが民主主義の発展に資するものなのか。野党のあり方が問われている。