『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリストモーリー・ロバートソンが、日本に浸透しつつある「自己啓発以上、カルト未満」について語る。

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欧州各地で新型コロナ関連の規制強化に反対するデモが拡大しています。特にドイツでは、半ば強制的にワクチン接種を推し進める政府に反発する人々の怒りを極右政党AfDがたきつけたり、『Telegram』というメッセージアプリ反ワクチン陰謀論の温床となったり......といった背景もあり、一部の反ワクチン派が先鋭化。デモがより激しくなっています。

もちろん、人それぞれの考え方は尊重すべきです。が、それを前提とした上でもう少し議論を進めるなら、AfDの"あおり"を思い切り真に受ける一部の人々や、陰謀論の盛り上がりを見ると、歴史は繰り返すのだなと感じずにはいられません。

かつて何度も流行したカルト自己啓発と同じ構造が、確実にある。そしてそれは、ドイツに限らず世界中で同時多発的に起きているのです。

何が本当のことかわからない――そんなとき、人間の脳は往々にして、"確信的な物言い"をする人に惹(ひ)かれてしまうものです。僕自身、ハーバード大学時代はエキセントリックな思想にかなり傾倒しましたし、仲間うちでもそっちの扉を開いた人は少なくありません。今思えばあれは、大学のハードな授業に興味が湧かず、その穴を知的に埋め合わせたかっただけなのかもしれません。

一例を挙げれば、フリッチョフ・カプラの『タオ自然学』。東洋思想と物理学をかけ合わせた、ニューサイエンスやエコロジーの走りともいわれる"迷著"です。僕はそこからヨガや自己啓発に入りましたが、1970年代後半から80年代、日本でもカプラにどっぷりハマったインテリは多かったでしょう。

当時、西側諸国では多くの社会問題や外交問題が袋小路に入っており、科学者からも「東洋の哲学や思想にこそ解決方法がある」と言い切る人が現れた。そして、それを"信じたい人"の間で広がったコミュニティに、さまざまな自己啓発カルトが入り込んでいったという構図がありました。

さて、日本では現状、欧米のような反ワクチン陰謀論の広がりはありません。しかし、日本でもサロンビジネスはすでに流行しており、2022年にはもっとグレーな「自己啓発以上、カルト未満」なものが浸透していく条件が整いつつあると感じます(あえて定義すれば、「自分だけを変えようとする」のが自己啓発、そこに「教祖」や露骨な集金システムが現れるのがカルト)。

例えば、社会から野心やエネルギーの"受け皿"が減り、それを一部の人が探し求めていること。マスメディア弱体化し、ファンビジネスの勝者に便乗しがちなこと。オウム真理教事件の記憶がなく、カルトへの警戒心が薄い世代が増えてきたこと......。

どんなにおかしな主張も、コミュニティ内で純粋培養されていれば、外からの理路整然とした"攻撃"はほぼ効きません。「勉強が足りない」「何も知らないくせに」と突っぱねることができる。そして、そう言い張る瞬間、人はとても気持ちいいものです。個人的な経験からいえば、あの快楽原則から抜け出すには時間も、痛みも必要です。

ただ、もし抜け出せたなら、自分の愚かさと向き合うという意味で悪くない"人生の寄り道"になります。無責任な言い方をさせてもらえば、「堕(お)ちるなら他人に迷惑をかけない範囲で」というところでしょうか。

モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリスト1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)ほかメディア出演多数。NHK大河ドラマ青天を衝け』に続き、TBS系日曜劇場日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

「何が本当のことかわからない――そんなとき、人間の脳は往々にして、"確信的な物言い"をする人に惹かれてしまうものです」と語るモーリー氏