宇宙は人間にとって楽な場所ではない。宇宙船内にいれば、空気を確保し、寒さや放射線などから身を守ることが可能だが、他にも様々な困難が待ち受ける。
重力がないため、骨密度が低下がすることもある。更には「宇宙貧血」が待っている。これは地球に帰還してからもしばらく続く場合が多い。
いったいなぜ宇宙貧血は起きるのか?新たなる研究によると、宇宙にいるだけで、赤血球が破壊が速まることが分かったという。
人類が初めて宇宙に出て以来、宇宙飛行士が地球に帰還するたびに「宇宙貧血」が報告されてきた。
これまで宇宙貧血になる原因は、無重力のせいで血液が上半身に集まるからだと考えられてきた。上半身の血液が増えすぎてしまうために、人体はバランスをとろうと赤血球の10%を破壊してしまうのだ。
ところが『Nature Medicine』(2022年1月14日付)に掲載された研究では、宇宙貧血は血液の移動だけが原因ではないことを明らかにしている。どうやら宇宙にいること自体で、血液に大きな影響を与えているらしい。
カナダ、オタワ病院のガイ・トルーデル教授らが、6ヶ月のミッションに就いていた宇宙飛行士14人の血液を分析したところ、宇宙では地球より1.5倍多く赤血球が破壊されていることがわかった。
地球上では、1秒に200万個の赤血球が作られては、破壊されている。ところが、宇宙でのミッション期間中、男女を問わずに破壊される赤血球が300万個に増えていたのだ。
[もっと知りたい!→]地球に帰還した宇宙飛行士のDNAに恒久的な変化が生じたことが判明(NASA)
「宇宙にいると、よりたくさんの赤血球が破壊されることがわかりました。これはミッション期間中ずっと続きます」と、トルーデル教授は話す。
トルーデル教授らは、この調査を行うために新しい検査法を考案している。呼吸に含まれる「一酸化炭素」の数を測定するのだ。
赤血球に含まれる赤い色素「ヘム」が1つ破壊されるたびに、一酸化炭素分子が1つ作られる。そのため、これをカウントすることで、壊れた赤血球の数を推定できる。
赤血球のコントロールに構造的変化
赤血球の破壊が加速する一方で、それを補うために作られる赤血球も増えると考えられている。
これは直接測定されたわけではないのであくまでも推測だ。そうでなければ宇宙飛行士はよりひどい貧血になっているはずだという。
とは言え、将来的に行われる宇宙旅行においては要注意だ。
地球などの惑星や衛星への着陸では、宇宙貧血がエネルギー・持久力・体力に影響し、ミッション達成を阻むかもしれません。
その影響は、着陸して再び重力と付き合わなければならなくなった時に初めて現れます
赤血球の量は、地球に帰還して3~4ヶ月後には元通りになる。だが興味深いことに、赤血球が破壊されるスピードは1年経っても、出発前の30%高いままだった。
ここから、宇宙に出ると、人体が赤血球をコントロールする仕組みに構造的な変化が起きるらしいことがうかがえるという。
宇宙食のメニューは鉄分多めで
こうした発見から言えることはまず、宇宙食のメニューは赤血球の減少を補えるようなものでなければならないということだ。
また、宇宙に出る前に、血液の状態や貧血の影響を受ける症状について、これまで以上に入念なチェックが必要になるだろう。心臓や血管に問題がある人の場合、宇宙空間で合併症のリスクが高まる可能性があるという。
なお、地球上よりも速い赤血球の生産・破壊ペースに人体がどのくらい耐えられるのか、現時点では明らかではない。
一方、トルーデル教授による別の研究では、宇宙の滞在が長いほど貧血が悪化することも明らかになっている。
こうしたことは、月や火星での長期有人ミッションに大きな影響を与える可能性もあるとのことだ。
References:Space Anemia: Being in Space Destroys More Red Blood Cells / written by hiroching / edited by parumo
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