北朝鮮のミサイルが、低高度・変速軌道で、沖縄を含む日本全土やグアムを射程に入れるとなれば、日米は対応できるのだろうか。
日米の対応については、迎撃ミサイルの技術的可能性のほかにもう一つ、政治的判断がある。
政治的判断は、これらのミサイル射撃に対して、かなり難しい判断となるだろう。
1.日本に届く極超音速ミサイル
北は、米国に届くICBM(火星15号)の発射実験(2017年11月)後には、GPS誘導の短距離弾道ミサイル等の実験を行った。そして、韓国全土を射程に収められるようになった。
低高度で飛翔し、低下した高度を再び上昇させられるこれらのミサイルは、対韓国を狙うミサイルであった。
そして今、北は2021年9月から低高度で飛翔し、高低を変更することに加え方向も変更できる2種類のミサイルの開発実験を行っている。
これを「極超音速ミサイル」と呼称している。射程を延伸させていることから、日本を狙うミサイルだ。
極超音速ミサイルは、射程を延伸し約1000キロ飛翔できる。これらの推進ロケットは、火星12号用の推進ロケットに類似している。
これまでのところ、推進ロケットは初期の実験用で、射程距離を抑えているため、若干短くなっている。
推進ロケット本体を長くすれば、火星12号が保有する射程4500キロまでも伸ばすことができる。
低高度で飛翔すれば空気抵抗を受けるので4500キロまでは飛翔できないが、日本全土や沖縄、3500キロ弱のグアムまで射程に収めることができる。
2.今や北だけが近隣諸国にミサイル発射
北のミサイル実験では、射撃の方向は日本の場合が多い。逆に言えば、向けられているのは日本だけだ。
冷戦時代には、旧ソ連は、オホーツク海や日本を越えて弾道ミサイルを発射していた。その当時、旧ソ連は航行制限海域を各国に通知していた。
現在は、日本を越えてミサイルを発射してはいない。
現在、弾道ミサイルを開発しているインドやパキスタンはインド洋に、イランは国内に向けて発射するため、他国に影響を与えることはない。
ところが、北だけは、弾道ミサイルを発射する場合、日本に向けるか、極東ロシアの方向に向ける場合が多い。
ミサイルの撃ち込みは、海空軍の軍事演習とは違う。
EEZ(排他的経済水域)は公海だからといって、ミサイルを撃ち込むという暴挙が許されるものではない。
公海に、公海自由の原則があっても、何をやってもよいというものではないのだ。危険な行為により「公海自由の原則」が不当に侵害されてはならない。
日本のEEZにおいて、海洋天然資源の持続的な利用が妨げられてはならない。当然、活動する漁船に対して、危害や不安を与えてはいけないはずである。
つまり、この海域に、危害を与える可能性のあるミサイルを勝手に撃ち込むこと自体、日本国として絶対に許すべきことではないのである。
3.「遺憾である」だけで済む問題か
防衛大臣はいつも、北のミサイル発射を確認すれば、その情報を発信するとともに、「現在までのところ、航空機や船舶からの被害報告等の情報は確認されていない」と伝える。
そして、「我が国と地域の平和と安全を脅かすものであり、非難する」という声明を発している。
日本の方向に向けて発射されれば、日本のEEZ内に落下する場合もある。日本の漁船や船舶が活動している範囲である。
これまで、漁船などに命中しなかったからいいものの、漁船に命中する可能性があるミサイル発射を「遺憾である」だけで済ますのはどうか。
国民を守る自衛権を放棄しているといってよい。
日本は、平時であっても日本の上空を越え、あるいは日本に向かって飛来するミサイルをなぜ打ち落とさないのか。
自衛隊のミサイル防衛システムでは、通常軌道の弾道ミサイルであれば、ミサイル発射後の1分前後には、ミサイルがどこに弾着する予想がつくだろう。
今でも、日本に弾着する可能性があれば、ミサイルを迎撃すると聞いている。
しかし、北の極超音速ミサイルは、最大高度約が60キロ以下で、最大高度に到達した後は、徐々に下降するが、再び上昇し、方向を変更することができる。
これだと、日本は、ミサイル発射後に到着点が予想できない。
例えば、ミサイルが下降しているから、日本には到達しないと予想していたら、再び高度を上げて飛翔し、日本に到達するということが起こり得るのだ。
こうなると、このミサイル撃墜の判断、つまり迎撃ミサイルをいつ発射すべきなのかという判断が極めて困難となり、その上での決心が必要となる。
北が、平時、日本に向けてミサイルを飛翔させる時、日本は、日本の領土・領海には弾着させないだろうと、北朝鮮頼みの予想をするのだろうか。
国民の命は、北の金正恩委員長の意思次第というわけなのだろうか。
4.低空・変則軌道ミサイルの対処判断
低空で飛翔し、再び上昇して、日本に到達するかどうか分からないミサイルに対して、政府が撃墜の決心が出せるか、出せたとして、いつ決心するのかが極めて重要になってくる。
通常軌道で飛翔してくるミサイルは、1分後には、どこに飛翔してくることが分かる。日本に向かってくると分かった段階で、ミサイル撃墜の決心ができる。
通常軌道で飛来するミサイルの迎撃イメージ
だが、通常軌道から低空まで降下してくるミサイルまたは、低空で飛来してくるミサイルは、再び高度を上げて、日本に向かって飛翔してくる場合には、予測することができない。
予測できないと、低空のまま日本海に落下するのか、あるいは日本の領土に到達するのかが分からない。到達するのがわかるまで待ってしまうと、ミサイルが領土に到達する前に撃墜することができなくなる。
例えば、通常軌道から低空まで降下してくるミサイルに対しては、そのまま落下すれば、対応の必要はない。
だが、その後、上昇して日本に向かうミサイルに対しては、打ち落とさなければ、日本に到達して、日本国内に被害を及ぼしてしまう可能性がある。
そうなると、日本国民の安全を確保するためには、日本の監視ラインを越えて、日本のEEZに入る可能性があるミサイルは、日本に被害を及ぼすミサイルとし、この「EEZに突入するミサイル」については、予測できる時点で迎撃ミサイルを発射することが必要になる。
日本の監視ラインを越えると予想されるのが判明する時点の政治的決断は、
①ミサイルを撃墜する
②ミサイルが上昇するかどうかを確認してから、ミサイルを発射するの2つである。
①の場合、実験用のミサイルを破壊したとして、北から非難される可能性がある。かなり難しい政治的判断であり、特に早期の判断が必要になる。
②の場合、イージス艦から迎撃ミサイルを発射することはできるが、撃墜には間に合わない。その後、パトリオットミサイルPAC3に委ねることになる。
PAC3は防空空域が狭いために、日本の領土全域を防衛することができない。守られない都市や重要施設に、ミサイルが着弾することになる。
通常軌道から低空下降し再び上昇するミサイルへの対応イメージ
低空軌道から再び上昇するミサイルへの対応イメージ
その時、その時に、ミサイル防衛指揮官に判断を委ねられても、日本海を低空で飛行するミサイルを打ち落とす決心はできない。
日本海の中央付近で撃墜すれば、その後に日朝間で重大な対立が生じることになるからだ。
北のミサイルが、低高度であっても通常軌道であっても監視ラインを越えることが予想される場合、日本海の中央付近で撃墜するということについて、政治主導で、事前に決定しておくべきであると考える。
5.これまでとは対応を根本的に変えるべき
北は、ミサイルを日本の経済水域まで撃ち込み、日本人やこの海域を活用する人々を危険な状態に貶めている。
日本にとっては、本土に飛来するかどうかの予測が極めて難しくなってきたといえる。
同時に、難しい政治的決断をしなければならなくなった。
日本人に犠牲が出るのを防ぐために、日本に向かって飛来するミサイルを日本海の中央付近で撃墜するのか。撃墜すれば、日朝間で大問題が発生するのはわかり切っている。
では、日朝間の問題発生を防ぐために、PAC3で対応するのか。それでは、PAC3の制空範囲外には、ミサイルは弾着してしまう。そこまで、待つのか。
世界各国のミサイル実験で、他国の経済水域にミサイルを撃ち込んでいるのは、北だけだ。撃ち込まれているのは日本とロシア(許可を受けている可能性がある)だけだ。
今まで日本は、北に弾道ミサイルをEEZ内に撃ち込まれても、ただ「遺憾である」と伝えているだけだった。
日本が何もできないと想定しているから、何度も何度も日本のEEZ内にミサイルを撃ち込んでくるのだ。
もし、日本と米国が、ロシア、中国、北のEEZ内にミサイルを撃ち込めば、中露はそれを撃墜するか、あるいは、反対に中露が米国の経済水域内にミサイルを撃ち込むことになるであろう。
では、日本はどうすべきなのか。
これまでどおり、「重大な危害を及ぼす可能性がある」と強く非難、より厳しい安保理決議、制裁の実施を呼びかけるのはもちろんのことである。
加えて、「日本のEEZを超えると予想されるミサイルは、日本への飛来の可能性があり、撃墜する」と公表しておくべきだ。
それでも、継続して撃ち込むのであれば、実際に北のミサイルを撃墜する。
北は、ミサイルを破壊されれば、宣戦布告と発表するかもしれない。だが、日本は、北の発言に屈することがないように、併せて敵基地攻撃能力を保有すべきであると考える。
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