(岩田太郎:在米ジャーナリスト

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 2021年1月20日共和党ドナルド・トランプ大統領を相手に選挙で勝利した民主党ジョー・バイデン氏は大統領就任式で、高邁で希望にあふれる癒しと団結のメッセージを米国民に送った。曰く、

民主主義において何より得がたいもの、つまり結束が必要である」
「勢力争いの中に引きこもり、内向きになってしまっては、答えは見つからない」
「農村部と都会を対立させ、保守派とリベラルを対立させる、この不穏な国内対立、このまともでない戦いを終わらせなくてはならない」
「心をこわばらせるのではなく、魂を開き、少し寛容になり、少し謙虚になれば、それは可能だ」
「皆さんに約束する。私はすべての米国人の大統領になると。そして、私を支持した人と同じくらい私を支持しなかった人のためにも懸命に戦う」

 しかし、バイデン大統領が実際にもたらしたのは、分断と非寛容の深化であった。つまり、公約違反である。好例が、大統領就任1周年を前にした2022年1月16日、投票権保護に向けて選挙改革法案の推進を訴えたフィラルフィアでの演説だ。米議会の議員たちを対象に話したその内容は、二元論を用いて分断をもたらすとして非難の的になった。

 バイデン氏は以下のように述べた。

「あなた方は、(公民権運動を率いた国家英雄の)キング牧師の側か、(南部アラバマ州知事を4期務め、公然と人種隔離政策を支持した元大統領候補の)ジョージ・ウォレスの側につきたいのか。(公民権活動の黒人英雄で南部ジョージア州選出の米下院議員であった)ジョンルイスの味方か、(アラバマ州の公安責任者として黒人公民権運動を徹底弾圧し、後に同州下院議員となった)ブル・コナーの味方なのか。(黒人奴隷解放令を発出した共和党大統領の)アブラハムリンカーンの側につくのか、(北部から離脱した南部の米連合国大統領を務めた)ジェファーソン・デイビスの側につくのか」

 共和党が、黒人やヒスパニック系の投票権を抑圧する法律を南部諸州で次々と成立させていることは事実だ。それはバイデン氏の言う通り、正されなければならない。だが、このスピーチバイデン大統領は、自分の味方となる選択を行わない者を敵として規定し、完全排除している。敵視する者を対話の相手と見做さない点において、国内融和に向けた選択肢を決定的に狭め、国民団結の可能性を閉ざしている。

 それは、昭和12年1937年)の支那事変の対応において、「爾後(じご)国民政府を対手とせず」と宣言して、日本の選択肢を決定的に狭め、破滅的な戦争拡大をもたらした近衛声明との類似性を感じさせる。

 またバイデン大統領は、連邦レベル新型コロナウイルスワクチン接種義務化を推進し、従わない者の解雇や社会的排除を推し進め、国の結束を乱した(民間企業への従業員接種の義務付けは、米連邦最高裁判所が差し止め判決を下した)。さらに、リベラル派の公式見解に反する言論を「誤情報」「有害言論」と規定して徹底排除する、米テック大手やリベラル系主流メディアを非難することもなかった。

 2020年大統領選で、バイデン候補(当時)がしきりに強調した「民主党共和党もない」という理想は、どこへ消えたのだろうか。

「新南北戦争」への道を着々と歩む米国

 バイデン大統領は、落しどころを作ってステーツマン(政治屋ではない、真に政治家らしい政治家)の手腕を発揮し、政敵をも包摂することで団結をもたらすのではなく、自らが1年前の就任演説で否定した勢力争いを煽り、保守派とリベラルを対立させる不穏な国内対立を助長し、自ら説いた寛容さと謙虚さを否定している。

 こうした自身のみを絶対正義と規定する独善性に批判が集まったため、ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は、「大統領は、法案に反対する議員を過去の人種差別主義者に結びつけようとしたのではなく、議員として国民の基本的な投票権を支持するか否かの選択に言及しただけだ」と苦しい言い訳を行った。

 だが実際には、バイデン大統領が自身の推進する法案に賛成する者を「正義」「味方」、反対する者(身内の民主党中道派であるマンチン・シネマ両上院議員を含む)を「悪」「敵」に分けたことは明白である。その思考メカニズムは、独裁者ヨシフ・スターリン毛沢東、さらにはウラジーミル・プーチン習近平の如く、「賛成者」「反対者」で善悪を二分する非寛容な粛清思想に突き動かされている。

 こうした中、バイデン時代の米国において米リベラル派の論調は、ますます内向きになり、保守派に対して好戦的になっている。

 2021年1月6日に発生したトランプ大統領支持派による米議会乱入事件から丸1年を迎えるに当たり、米国ではリベラル派と保守派の内戦が起こる可能性を論じた著名論客による書籍が何冊も売れ筋となり、『ニューヨークタイムズ』や『ワシントンポスト』紙をはじめ、リベラルメディアが詳しく報じている。

 インディアナ大学政治学部のオア・コレン助教は、「不満は必ずしも即、暴力に変化することはなく、米国で内戦が起こる可能性は低い」との見解を示しているが、ジャーナリストフィンタン・オトゥール氏は『アトランティック』誌で、「内戦(小文字のcivil war)の予言は、自己成就する可能性があるゆえに危険なものだ。それが不可避なものであると皆が信じるようになると、『やられる前に先制攻撃を』という思考に結びつくからだ。相手側も、当然そう考える」と警鐘を鳴らした。

終結していなかった南北戦争

 1861年4月に火蓋が切られた南北戦争(大文字のCivil War)でも、奴隷制廃止を強要されることを怖れる南軍が先制攻撃を行ったことによって始まった。80年前の真珠湾攻撃も、中国からの完全撤兵を米国から要求された日本が自存を否定されることを怖れて踏み切ったものだ。戦争不可避論が先行していた事例に鑑みると、新たな米国内戦もまったくの与太話とは言い切れない。

 人口よりも銃器の数が多く、農村と都市、エリートと非エリート、持てる者と持たざる者、リベラルと保守の火種がくすぶる米国であれば、なおさらだ。

 特に、バイデン大統領トランプ派を内敵と見做し、就任演説で「真実を守り、嘘を打ち倒す義務と責任」について言及したことは、民主党の熱烈な支持者には理解できる犬笛であり、「民主党の推進するグローバル化に異議を唱える白人労働者階級(ナショナリスティックトランプ派)を黙らせる」という攻撃性は高まり続けている。だからこそ、「白人至上主義者」という、仮想敵との内戦の自己実現予言的な言説が取り沙汰されるわけだ。

 リベラル派にとって打倒すべき敵は今や、外敵であるイスラム過激派や中露ではなく、内敵の白人至上主義者(トランプ派)だ。それは、1861年から1865年にかけて62万人以上の犠牲者を出した南北戦争イメージと重なり合う。南北戦争は北軍の勝利で終結したが、その基本的な対立構造は157年前の終戦においても崩壊することなく、現在も維持されているのだ。

 政治や選挙における対立だけでなく、「主義主張の違う人たちとは別の地域・国に住みたい」という、南北戦争直前の南部諸州の動きと同様の現象が再び顕在化していることに、それが見て取れる。

 南北戦争の重大な教訓は、「諸州が国として独立することは永久に許さない」であったため、現代の運動は独立を求めるのではなく、都市部を中心とするリベラル居住地域と農村部を中心とする保守居住地域の線引きをやり直そうという形で出現している。

保守の天国「大アイダホ州」構想の実現度

 米国西海岸オレゴン州では、一部住民が東隣の内陸アイダホ州への統合を求め住民投票運動を繰り広げている。保守派住民が多いオレゴン州の東部と南部が分離し、保守的な「大アイダホ州」に合併され、日本でもポテト産地としておなじみのアイダホ州が海に面した州になるという奇抜なアイデアだ。現実には州境が動く可能性は低いものの、多数派の都市部リベラル派が州政治を牛耳る現状に不満を抱く田舎の住民は、あきらめていない。

 この「大アイダホ州を支持する市民連合」と名付けられた運動を主導するマイク・マクカーター氏は、「われわれと、リベラルポートランド市住民との共通点はほとんどない。彼らは、田舎者のわれわれを人種差別主義者で白人至上主義の信奉者だと決めつけて見下している。不幸にも、人口力学の上でわれわれは彼らに圧倒されているため、彼らが望むものを手に入れられる一方、われわれの意思を政治に反映させることは難しい。われわれが、自分たちの代表者を選べないことが問題だ」と語る。

 オレゴンを離脱してアイダホに統合されることを求める住民たちは2020年から2021年にかけ、東部および南部の7郡において、法的拘束力のない住民投票を実現させた。これらの郡では、2020年大統領選でトランプ氏が圧勝している。

 また、南部では今なお南軍の旗を掲げ、人種差別主義者の銅像やシンボルを守ろうとする人が多い。歴史的に独立精神が旺盛な南部テキサス州にも独立運動があるほか、北部でもニューヨーク市を除く州の北部や中部、西部からなる、いわゆるアップステート・ニューヨークの保守派は、リベラルニューヨーク市からの分離を主張する人が少なくない。

 米国人の心がバイデン政権下で、団結や統一からますます遠ざかっていることは動かせない事実だ。そして、口先で団結融和を唱えたバイデン大統領が推進する、「自分たちと意見を同じくしない者は内敵」との非民主的な粛清の論理により、南北戦争当時の対立構図が武力衝突を伴わない冷戦的な環境で再現している。

 就任演説で、「お互いの声を聞こう。お互いを見よう。お互いに敬意を示そう」と呼びかけたバイデン大統領の任期の1年目はこのように、「新南北戦争」への歩みを早めただけに終わった。公約が破られたことは明らかであり、その事実は今年11月の中間選挙や、2024年11月大統領選挙で、民主党に不利に働くと思われる。

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