新型コロナウイルスの治療薬としての使用が認められていない駆虫薬「イベルメクチン」を、受刑者らの同意なく投与したとして、アメリカ自由人権協会が受刑者に代わり、アメリカ、アーカンソー州ワシントン郡刑務所と医師を提訴した。
イベルメクチンはその有効性が不確実であると、WHO(世界保健機関)並びにアメリカの疾病予防管理センター(CDC)や食品医薬品局(FDA)などが警告を促している。
刑務所内では、コロナに感染した受刑者たちが、単なるビタミン、抗生物質などといった虚偽の説明を医師から受け、同意を得ずに大量投与されたことで、深刻な健康被害を引き起こしている。
2022年1月13日、アメリカ自由人権協会(ACLU)アーカンソー州支部は、ワシントン郡の刑務所、同郡保安官ティム・ヘルダー、刑務所医師のロバート・カラス氏を相手取り、受刑者の代理として訴訟を提起した。
訴訟内容は、刑務所の医師が去年8月にコロナで陽性となった受刑者4人に対し、虚偽の説明をして同意を得ずにイベルメクチンを投与したというものだ。
“They used us as an experiment”: Arkansas inmates who were given ivermectin to treat COVID file federal lawsuit against jail https://t.co/NENBE4t5Lv
— Prison_Health (@Prison_Health) January 18, 2022
イベルメクチンはもともとは家畜用の寄生虫駆除薬だが、疥癬、毛包虫症の治療薬として人間にも使用されていた。
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しかし、新型コロナウイルスにも効果があるとする不確実な情報が拡散され、アメリカ国内では使用者が続出した。
だが、これまでの臨床試験ではその有効性が明確でないと発表されている。そのため、WHO(世界保健機関)や各国の保健局、メーカーなどは警告を促しているといった状況だ。
アメリカでも、疾病予防管理センター(CDC)や食品医薬品局(FDA)も、「あなたは馬や牛ではない。使用をやめるべきだ」と呼びかけている。
You are not a horse. You are not a cow. Seriously, y'all. Stop it. https://t.co/TWb75xYEY4
— U.S. FDA (@US_FDA) August 21, 2021
イベルメクチンの大量投与により受刑者の体調に異変
ロバート・カラス医師は、2020年11月からイベルメクチンをコロナ感染した受刑者らに投与していたが、今回訴えを起こした4人の場合、寄生虫駆除として承認されている用量を大幅に超えていた。1人は3.4倍、もう1人とは6.3倍という分量が投与されたていたのだ。
投与された受刑者は体長に異変をきたし、視力の問題、下痢、血便、発熱、胃痙攣、嘔吐、吐き気などの副作用に苦しんでいたという。
これまで250人以上の囚人らに投与していた
去年9月、カラス医師の弁護士から州の医療委員会の審査官宛てに送られた手紙の中で、カラス医師は受刑者254人に対してコロナの治療のためにイベルメクチン投与をしていたことを明らかにした。
カラス医師は、去年8月に投与した受刑者4人に対しても、イベルメクチンの性質や内容、また潜在的な副作用に関して、事前のインフォームドコンセントを取ることなく、「単なるビタミン剤」「抗生物質」「ステロイド剤」と虚偽の説明をし、投与したもようだ。
こちらの映像は、その4人のうちの1人、エリック・フロリアル・ウーテン受刑者(30歳)のものだ。
"They said they were vitamins": When this inmate at a Washington County, Arkansas jail had COVID, medical personnel offered him pills to help him “get better” — but, he says, nobody told him it was ivermectin https://t.co/qn9bWONwHX pic.twitter.com/Yq1OAsVmHG
— CBS News (@CBSNews) September 7, 2021
今回の提訴で、ACLUゲイリー・サリバン法務部長は、カラス医師とともに事実を黙認していたヘルダー保安官を厳しく非難し、このように述べている。
刑務所の保安官は、囚人の健康と安全に責任を持つべき立場であるはずです。受刑者であっても、騙されて人体実験を受けるなどということは誰にもあってはならないのです。
原告は、イベルメクチンがコロナに対する効果的な治療法ではないことや大量投与が危険であることを、FDAやCDC、また信頼できる医療専門家などが同意しているにもかかわらず、信じられないほど高用量のイベルメクチンを受刑者たちに投与していました。
投与されたものが何であるか、また潜在的な副作用がどんなものかを事前に説明されていれば、受刑者たちはおそらく服用を拒否したことでしょう。
保健当局らが使用の危険性を警告
副作用で健康状態が悪化した囚人たちは、その後健康診断を受けたが、その費用は自分たちで支払わなければならないことを伝えられたそうだ。
カラス医師の行為については、現在州の医療委員会が調査中であり、2月の会議でその結果が発表される予定になっている。
また、米国医師会、米国薬剤師会、および米国薬剤師会も、コロナウイルスを治療するためのイベルメクチンの処方と使用を直ちに終了するよう求めている。
Arkansas inmates were given ivermectin to treat COVID without their consent, lawsuit alleges
References:"They used us as an experiment": Arkansas inmates who were given ivermectin to treat COVID file federal lawsuit against jail / written by Scarlet / edited by parumo
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