代替テキスト
(写真:共同通信

急速に広がるオミクロン株。軽症の人が多いとはいうが、実際の危険性はどれほどで、どう対処すればよいのか? 感染症に詳しい医師が教えてくれたーー。

「感染力の強いオミクロン株が引き起こしている第6波は、一日の新規感染者数が2万6,000人近くにのぼった第5波よりも感染者数が激増する恐れがあります。すでにイギリスでは、オミクロン株によってデルタ株流行時の3〜5倍の感染者が発生しているんです。日本でも同様の事態が起きてもおかしくありません。最悪の場合、国内で1日に20万人規模の新規感染者が出ることも考えられます」

こう警戒するのは、高知総合リハビリテーション病院院長で感染制御ドクターの小川恭弘先生だ。

ついに日本でも、猛威をふるいはじめたオミクロン株。東京都は12日に、直近1週間の新規感染者の8割がオミクロン株に感染している疑いがあると発表した。さらに12日以降、大阪府千葉県では、オミクロン株感染疑いの死者が相次いで発表されている。

埼玉医科大学総合医療センター・総合診療内科・感染症科教授の岡秀昭先生も、感染者の急増に危機感を募らせる。

「重症化率が低いからといって、新規感染者が増えていることに目をつぶるのは間違いです。感染者数の爆増によって、重症化リスクの低下分が相殺され、結果的に重症者の数が増える可能性があります。また、仮に重症者数が低くとどめられたとしても、医療従事者が感染者になることで、通常の医療体制の維持が困難になることも考えられるのです」

現に、ここ1カ月の感染状況を見てみると、感染者数増加に伴い、重症者数も増えている。

「もちろん現在はワクチン接種も進んでいて、治療薬もあるので重症者数を抑えられる可能性もあると思います。今後オミクロン株がどのようなシナリオを描くのかわかってくるには、もう2週間ほどかかるのではないでしょうか」

オミクロン株の実際の脅威はどれほどのもので、家族を守りこの波を乗り越えるためにはどうすればいいのか? 感染制御のスペシャリストである小川先生と岡先生に、最新の知見を教えてもらった。

【Q1】オミクロン株は風邪と同じ?

「初期症状が咳、鼻水、のどの痛みなど風邪症状であることや、現段階では重症者数が少ないことを強調して『ただの風邪と同じ』と言う人がいるようですが、それは危険な考え方です。日本における現在の重症者数は確かに少ないですが、そもそも重症化は発病から遅れて起こります。また現在の感染は若い人が中心ですから、今後高齢者が感染した場合の動向を注視していかなければいけません。感染者が激増すれば、基礎疾患のある人など重症化しやすい人が感染する可能性も高まります」(岡先生)

現に、11日に沖縄県疫学統計・解析委員会が公表した報告によると、沖縄県では「80歳以上の新規陽性者の69.3%が中等症」だというのだ。

「中等症とは、すでに肺炎を起こしている状態です。しかもコロナにおける“重症”は『瀕死』や『危篤』を表します。軽症や中等症でも十分につらい思いをする可能性はあるのです」(岡先生)

【Q2】ワクチン接種済みでも感染してしまう?

ワクチンを2回接種した人でも、多くの人がオミクロン株に感染しています。デルタ株のときと比べて、ワクチンの免疫効果が大幅に下がっていることがわかっているのです」(小川先生)

北里大学の片山和彦教授らの報告によると、ワクチン2回接種の3カ月後には、オミクロン株の血中中和抗体の値はデルタ株と比べて、ファイザーワクチンで平均72%減、モデルナ製で平均82%減と、大幅に低下しているという。

「これほど大きく低下しているとなると、よりブレークスルー感染が起きやすくなることが考えられます。高齢者以外の2回接種が完了した人も、ブースター接種(3回目の接種)が大事になってくるでしょう」(小川先生)

【Q3】重症化に注意が必要なのはどんな人?

「やはり基礎疾患(がんや糖尿病、心疾患、肥満、呼吸器不全など)のある人やお年寄りは、コロナの重症化のほか、二次感染、持病の悪化や別の病気の誘発などに注意が必要です。ウイルスに感染した箇所は傷つきますし、そこから入ったばい菌が肺炎や蓄膿症などを起こすリスクもあります。特に高齢者の場合、感染により食欲が減って、水分摂取が不足するだけで腎臓に大きく負担がかかって腎不全を起こす可能性があります。同様に、発熱などで心臓に負担がかかれば心不全の恐れがあり、ぜんそくのある人はぜんそく発作を誘発することも。このように持病が悪化したり、それによって死亡することも十分考えられるんです」(岡先生)

感染力の強いオミクロン株の場合、特に自分だけでなく周囲の人に、重症化リスクのある人がいないかも確認しておく必要がある。

「病院や介護施設などにご家族が入院している方は、うつしてしまわないように細心の注意をはらってください」(小川先生)

【Q4】どのように対策をすればいいの?

「1人の感染者から最大50人が感染するというオミクロン株。かからないに越したことはありませんが、もし感染してもワクチンの3回目接種を受けていれば、重症化リスクを約90%下げることができます」(岡先生)

小川先生は「怖がりすぎず対策を立てるべきです」とアドバイスをくれた。

「通常の社会生活、経済を回しながらでいいですから、これまでどおりの対策を続けるのが肝心。手洗い、うがい、鼻まで覆ってマスク着用、3密を回避、接種可能なタイミングでの3回目のワクチン接種と粛々と続けていきましょう」 後編では、治療薬やオミクロン株収束の予測についてのQ&Aを紹介しています。そちらも併せてご覧ください。

PROFILE

小川恭弘先生

高知総合リハビリテーション病院院長で感染制御ドクター。著書に『免疫療法を超えるがん治療革命』(光文社)など

岡秀昭先生

埼玉医科大学総合医療センター・総合診療内科・感染症科教授。著書に『感染症プラチナマニュアル』(メディカルサイエンスインターナショナル)など