人間をはじめ、多くの生物が呼吸できるのは「酸素」のおかげだ。それは太陽の光の力を借りて、光合成を通じて作られている。だが、そんな常識がくつがえる発見がなされた。
光が届かない真っ暗闇の中でも、自力で酸素を作って生きられる微生物がいることが明らかになったのだ。
これまで知られていなかったこの意外な生物学的プロセスは、『Science』(2022年1月6日付)で報告されている。
今回、暗闇でも酸素を生成する能力を持つことが判明した微生物は、「ニトロソプミルウ・マリティムス(Nitrosopumilus maritimus)」という微生物と、その同類である「アンモニア酸化古細菌」の仲間だ。
新たに発見された能力ではあるが、海の中にうじゃじゃいる。海水をバケツですくえば、そこに含まれる細胞5個のうち1個は彼らのものであるくらい一般的だ。
南デンマーク大学の微生物学者ベイト・クラフト助教によれば、そうした微生物は「海洋の窒素循環」に大きな役割を果たしているという。だが、一つ大きな謎があった。
「そのためには酸素が必要です。なのに酸素がまったくない海にも豊富に存在します。これが長年の謎でした。ただ、そうした海を漂っているだけなのでしょうか? それとも幽霊のようなものなのでしょうか?」
自ら酸素を生成する微生物、ニトロソプミルウ・マリティムス / image credit:genome.jgi.doe.gov/
自ら酸素を生成して生き延びていたことが判明
研究グループは、そうした微生物が光も酸素もない環境でどうなるのか、実験で確かめてみることにした。
すると驚いたことに、彼らが水槽の中で酸素を使い果たすと、水槽の「酸素濃度が再び上昇」したのだ。光もないのに、自力で酸素を作り出したということだ。
現時点で、彼らがどうやって酸素を作っているのかわからない。だが、気体の「窒素を作り出すプロセスと関係」しているようだ。
微生物は、エネルギーを代謝するために、「アンモニア(NH3)」を「亜硝酸塩(NO2-)」に変換する。そのためには「酸素」が必要なのだが、実験では副産物である「窒素ガス(N2)」と一緒に、わずかな酸素が検出されている。
海の窒素循環について再考を迫る発見
このプロセスによって、環境からは生物が利用できる窒素が取り除かれてしまう。
これは、あらゆる生態系を支える窒素循環において、これまで知られていなかった側面だ。この新事実の影響は広範囲に及ぶだろうという。
「こうしたライフスタイルが、海で広く見られるとしたら、海洋の窒素循環について再考を迫られることは間違いありません」と、クラフト助教は説明する。
研究グループの次のステップは、光と酸素が乏しい環境で実際に何が起きているのか、世界中の海で確かめることであるそうだ。
References:Microbes produce oxygen in the dark / written by hiroching / edited by parumo
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