2021年のNHK紅白歌合戦の出演を最後に乃木坂46を卒業し、2022年にトップアイドルから女優や歌手として新たなフェーズに入った生田絵梨花ミュージカルの舞台を数多く踏んできたが、今後は映像作品でもその魅力を開花していきそうだ。最新出演作は、人気ドラマの映画化第3弾『コンフィデンスマンJP 英雄編』(公開中)で、コケティッシュな魔性の女役で新境地を開拓。オールスターキャストの本作で彼女はどんなものを得て、今後、どんな女優を目指していくのか?生田を直撃した。

【写真を見る】ゴンザレスの内縁の妻である畠山麗奈を演じた生田。濃いアイラインにタイトに流した髪型…大人の色気が新鮮!

欲望にまみれた人間たちから大金を騙し取るコンフィデンスマン=信用詐欺師たちの活躍を痛快に描く本作。今回の舞台は、世界遺産の都市、マルタ島のヴァレッタだ。いつもはチームで結託するコンフィデンスウーマンのダー子(長澤まさみ)、お人好しのボクちゃん(東出昌大)、百戦錬磨のベテラン、リチャード(小日向文世)たちだが、今回は当代随一の腕を持つコンフィデンスマンによって密かに受け継がれる〈ツチノコ〉の称号をかけ、3人が騙し合いの真剣勝負を始める。生田は今回狙うお宝の所有者で元マフィア大富豪ジェラールゴンザレス(城田優)の内縁の妻、畠山麗奈役を演じた。

■「『これがコンフィデンスマンJPの世界か!』という醍醐味を感じました」

常に観客を気持ちよく騙してくれる人気脚本家、古沢良太の脚本だが、今回は特にそのスキルがキレキレだ。時系列を巧みに操った予測不能のストーリーテリングで、観る者を感嘆させるが、その分、演じる俳優側は人知れず苦労をしていたようだ。

「今回、いままで以上に時制が巻き戻ったり進んだりするので、何度も台本をめくり直しました。いま、麗奈はどういう状況なのか?どこに居るんだっけ?と、演じる側としても混乱しそうになるんです。でも、田中(亮)監督から、その都度、すべてが本当のことだと思って演じてくださいと言われたので、『なるほど、これがコンフィデンスマンJPの世界か!』という醍醐味を感じました」。

麗奈はゴンザレスと英語でやりとりをする一方で、栃木県出身なので栃木弁を話すシーンもある。また、ベリーダンスを披露するくだりもあり、前準備することが多かったようだ。

「栃木弁と英語に関しては、指導してくださる方がいたので、音源を聴き込んで演じました。ベリーダンスも先生がいて1週間ぐらい準備期間がありましたし、動画を探して自分で練習したりもしました」。

加えて麗奈は、大富豪ゴンザレスを悩殺した魔性の女という設定だが、どうアプローチをしていったのか。「正直、最初はどうしようと思っていたのですが、ヘアメイクや衣装によって、自分を変えられた気がします。普段は絶対に着ないような衣装だったから、まさに“変身スーツ”をまとう感じで、それを着たらテンションが上がり、皆さんともたくさん話せるようになりました。また、ベリーダンスはかなり腰を動かすので、そのエッセンスも麗奈のセクシーに取り入れられたのではないかと。とてもチャレンジングな役柄でしたが、とても楽しかったです」。

■「長澤さんはいくつ引き出しがあるんだろう!と驚かされます」

長澤は、初共演となった生田について「すごく明るくてオープンマインドな方」という印象を口にしていたが、生田自身も「長澤さんを筆頭に、皆さんが仲間に入れてくださったので、初日から馴染めました」と笑顔を見せる。

「メインキャストのお三方が壁を作らず、ウェルカムな感じで迎え入れてくれました。長澤さんが、飲み物を賭けてみんなでじゃんけんしようといったゲームを提案してくれたりするんです。また、五十嵐(小手伸也)さんをみんなでいじる、という雰囲気も楽しかったです」。

番宣や舞台挨拶などで、常にムードメーカーとして全員を盛り上げているのが小手だ。「小手さんに絡むのは、みなさんの恒例行事になっていました。長澤さんが『全然遠慮しないでやっちゃって』と言ってくださったので、私も小手さんに対して思い切りいかせてもらいました。劇中で麗奈が笑いながら五十嵐さんをバンバン叩くシーンがありましたが、実は台本にはなかったんです」。

生田は、ハイテンションなコメディエンヌぶりを発揮している長澤について「長澤さんは、『コンフィデンスマンJP』でいろんな役柄を演じていますが、声のトーンから走り方など、全部変えていらっしゃって、いくつ引き出しがあるんだろう!と驚かされます」と興奮しながら語る。

また、東出や小日向との共演も心から楽しんだようだ。「小日向さんは、あんなにもチャーミングな方だと思っていなかったです。以前『イチケイのカラス』でご一緒させていただいた時、小日向さんは裁判官役をされていたので、その役柄のイメージが強かったのですが、実は誰よりもよく笑うし、いつも話の中心にいて、たくさん笑わせてくださいました。また、東出さんはとにかくまじめな方でした。栃木弁で話すシーンでは、イントネーションを直前まで確認されていたし、私とやりとりするなかでも『やりづらいところはない?』と、すごく気にかけてくださいました」。

夫であるゴンザレス役の城田は、同じミュージカル俳優でもあるが、今作が初共演となった。「城田さんとはいろんな歌番組で共演させてもらっていて、すでに信頼関係が築かれていたので、なんでも相談できました。ゴンザレス夫婦はインターナショナルで、あまり日本人にはないカップルの雰囲気を出せればと思い、2人ですごく話し合いました。だから腕を組んで登場したり、意識して目線を合わせたり、ボディタッチを多めにしたりしたから、自然と魔性の女感に繋がっていったのかなと。本当に城田さんがゴンザレスでよかったです」。

■「舞台や映像など、土俵を超えて活躍できる人はやっぱりすごいなと思っています」

2022年に新たな一歩を踏み出した生田にとって、本作は乃木坂46卒業後初の出演映画となった。「いままではアイドルとして固定されたイメージを持たれていたと思いますが、麗奈のような振り切った役を演じられたことは、本当によかったです。自分にとっては挑戦だったし、こういう一面もあるんだと、知ってもらうきっかけにもなったかなと。というか、自分自身もそこに目覚めたような感覚もあります」。

生田は麗奈役に抜擢された当初は「果たして自分にできるかな」と不安に思っていたそうだが「やっていくうちに、こういう自分もいたんだと気づき、役を通して見える景色も変わっていきました。作品から影響され、変化していけたことがすごく楽しかったので、今後ももっといろんなことを知りたいです」。

実は、もともと生田は「人と距離を縮めるのに時間がかかっちゃうタイプ」だという。「ずっと乃木坂46という巣がある分、ちょっと外に出るだけで警戒しちゃうというか、壁を作ってしまうので、人とすぐに仲良くなれなくて。だから今回の麗奈役では、まずそこから変えていこうと思いました。元マフィアだったゴンザレスの妻で、海外で暮らしている麗奈は、きっと肝が据わっています。自分も今回、こんなにすごい先輩たちに囲まれていて、恐縮してしまいますが、まずは堂々といることが、役作りの1歩かなと思いました。そうすると、うっかりタメ口が出てしまったり、ガハガハ笑えるようになり、どんどん殻が破れていきました」。

生田は本作の撮影時に、アイドルとしてライブツアーも行っていたが、どんなふうに女優業と切り替えていたのだろうか?と聞くと「それぞれちょっとずつ影響されていた部分があったようです」と答えてくれた。「以前『イチケイのカラス』ではバレリーナの役だったので、アイドルとして歌番組に出演する時もいつになくスッキリした髪型で前髪もあげていたり、『コンフィデンスマンJP』の撮影時は、なんとなく目つきが鋭くなっていたりしたようです。自分で意識しているつもりはなかったけど、周りからそう言われたりもしました」。

さらに、ミュージカルに出演する時と乃木坂46でポップスを歌う時とでは、歌唱の仕方もまったく異なるという。「ミュージカルでは、すごく歌について勉強するので、グループの曲を歌う時も、ミュージカル歌唱のようになっていた時期もありました。でも、それは違うと途中で気づいてからは、歌い方も工夫するようになりました。また、気持ちの問題かもしれないけど、香水の匂いを変えてみたりと、自分なりに切り替えるポイントを少しずつ見つけていった気がします」。

近年、ミュージカルだけではなく映画やドラマでも露出が増えてきた生田だが、彼女はどんな俳優を目指しているのだろうか。「舞台や映像など、土俵を超えて活躍できる人はやっぱりすごいなと思っています。私も今後、皆さんに楽しんでいただけるような女優になれたらいいなと思います」。

取材・文/山崎伸子

『コンフィデンスマンJP 英雄編』で、魔性の女を演じた生田絵梨花/撮影/興梠真穂