
NASAの火星探査車「キュリオシティ」は、過去9年にわたり火星の「ゲール・クレーター」を探索しながら、たくさんのサンプルを回収してきた。
こうした調査からは、火星で発見された炭素は「炭素同位体の比率」に不思議な偏りがあることが明らかになっている。
偏りが生じた原因は、今のところわからない。だが、ペンシルベニア州立大学をはじめとする研究グループによると、生物学的なプロセスが原因である可能性も考えられるという。
ペンシルベニア州立大学のクリストファー・H・ハウス教授の説明によると、太陽系に存在する炭素同位体「炭素12」と「炭素13」の量は、太陽系が誕生した当初から変わらないのだという。
どちらも安定しており、あらゆるものに含まれている。だが、炭素12の方が早く反応するために、個々のサンプルを見れば炭素12と炭素13の量は異なる。
だから、両者の比率を調べることで「炭素循環」(さまざまな領域で交換・移動する炭素の流れのこと)を知ることができる。
火星の炭素13が少ない理由
キュリオシティがクレーター内を掘って集めた土壌サンプルからは、それが形成された時期や場所によって炭素12と13の量が大きく異なることが明らかになっている。その中には炭素13が極端に少ないものもあった。
それはいったいなぜなのか?いくつかの説が考えられる
1.生命体の活動説
じつは地球でも、27億年前の堆積物から炭素13が極端に少ないサンプルが見つかっている。
こうした地球のサンプルの場合、炭素13が少ない原因は、太古の微生物がメタンを消費したことだと考えられている。
であるなら、火星でも同じように微生物の働きで炭素13が少なくなったのかもしれない。
太古の火星でも、地下から大量のメタンが放出されていた可能性がある。なお、メタン自体も生物が存在する有力な証拠とされている。
そして、もしもかつて火星に微生物が存在したのなら(その可能性は十分にある)、それがメタンを消費し、その結果として炭素13が減少したのかもしれない。
だが生物学的になプロセス以外にも、炭素13が減る原因は考えられる。たとえば、紫外線がメタンを分解しても同じような結果になる。
・合わせて読みたい→かつて火星に生命は存在したのか?火星の土壌から地球のキノコ「トリュフ」の成分が検出される。(米・独研究)
火星に微生物が存在したという証拠は今のところ発見されていないため、炭素13の少なさは微生物ではなく、紫外線によるプロセスと考えた方が現実的かもしれない。
3.宇宙塵仮説
あるいは、採取されたサンプルが、もともとは宇宙を漂う塵だったという可能性もある。
太陽系は数億年ごとに分子でできた雲の中を通過する。だとすれば、それが火星に積もったとしてもおかしくはない。
もしキュリオシティが採取できるほどに積もったのだとすれば、それはまずまだ水があった頃の火星の温度を下げて、氷河を形成させたことだろう。
宇宙塵は氷河の上に堆積。やがて氷河が解けると、地表に炭素13が少ない塵の層を残した。
ただし、かつてゲール・クレーター内に氷河が形成されていたことを示唆する証拠は、今のところ限られている。
ほかにも、紫外線が二酸化炭素を有機化合物(たとえばホルムアルデヒド)に変換し、この過程で炭素13が減少したというシナリオも考えられる。
ハウス教授によると、紫外線によってこうした現象が起こると予測した論文があるのだという。

どの説が正しいのかは更なる調査が必要
一体どの仮説が正しいのか? それを確かめるには「さらなる調査データが必要」と、ハウス教授は話す。
噴出するメタンを検出し、そこの炭素同位体を測定できれば話は早い。あるいは過去に微生物がいたという証拠や、ゲール・クレーターに氷河が形成された証拠といったものでもいいだろう。
そんな人間の好奇心を満たすべく、嵐にも負けず、コロナにも負けず、キュリオシティは現在もサンプルの収集・分析を続けてくれている。
この研究は、『PNAS』(2022年1月25日付)に掲載された。
References:Newly Discovered Carbon on Mars: Origin May Be Biologically Produced Methane / written by hiroching / edited by parumo

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