
今回は、昨今“ブラック校則”として取り上げられている「ツーブロックが校則で禁止」されている件について。様々なブラック校則が「何のために?」と議論される中、髪型に関する「ツーブロック禁止」については、不思議と美容師側の意見は出てきませんでした。
ですので、美容師を代表して、私がツーブロック禁止がいかに不合理か、論じたいと思います。
そもそも、ツーブロックとは?まず大前提として、「ツーブロック」はカットの技法であって、ヘアスタイルの名前ではありません。つまり、「刈り上げの仕方」の名前である、ということです。
「ツーブロック」とは、上図のように、刈り上げた下部分と上部分を繋げずに、髪のブロックが二つに分かれる状態のことを指します。耳上の部分でも後頭部でも、上下が分かれていればツーブロックと呼びます。分かれた上の髪の部分は、下の部分よりも長くなります。
ツーブロックは、むしろ清潔感アップ「ツーブロック」は「耳周り」や「襟足」を短く刈り上げるため、清潔感のある印象になります。そのため、ビジネスヘアにも用いられますし、昨今のメンズヘアに定着しています。
ちなみに、Twitter上には「現天皇陛下も、昭和天皇もツーブロックじゃん」などと指摘する沢山のツイートと画像が投稿されています。つまり、それほどフォーマルなヘアスタイルにも用いられているのです。
そのため、この見た目が「校則違反」と言われても、我々美容師や理容師には理解し難いのです。「むしろ推奨するべきでは?」と考えています。
つまるところ、ツーブロックだけでは学校が取り締まりたい“ワル”にはなれません。ですが、学校側の目線で見ると、ある時期に現れた「ツーブロック“ヘア”」なるものが“不良”っぽく、“イキった”印象であったから、取り締まるようになったのでは?と想像します。
では、ツーブロックが校則違反になったきっかけは、どこにあったのでしょうか?
ツーブロックが生まれたのは90年代初め90年代初め、吉田栄作や福山雅治を筆頭に、前髪をセンター分けにするヘアスタイルが流行しました。この頃に前述の刈り上げ方が「ツーブロック」と呼ばれるようになった、とされています。
当時流行したヘアスタイルは、上部分は長めですが下はスッキリしていて、今の流行に近いです。そして当時の彼らも、爽やかで清潔感に溢れています。
このヘアスタイルを学校で禁止にするのは、少し不可解です。ですが、実は同じ頃に、「ツーブロック」の技法を使った別のヘアスタイルが広まっていました。
ヤンキーに愛された「ジャンボカット」それはジャンボ尾崎の「ジャンボカット」です。トップやサイドの短さに対して、襟足が長いのが特徴です。
僕が参照した写真での90年代のジャンボ氏は、サイドは短いものの、刈上げとは呼ばないくらいの長さでした。一般的な「ジャンボカット」のイメージ的には、もっとサイドを短く刈り上げているスタイルとして浸透しています。
ちなみに襟足の長さは、ゴルフ中の「首の日除け」効果を狙っていたそうです。そんな、ゴルフに集中できるヘアスタイルとして開発されたであろう「ジャンボカット」ですが、彼自身の破天荒な人柄もあってか、90年代以降、これが“ワル”のヘアスタイルの代名詞として広まっていました。
“子供にジャンボカット”現象僕が少年期の90年代後半~00年代、地元埼玉では、なぜかヤンキーの子供は「ジャンボカット」にする現象がありました(髪を明るく染めている子も多かったです)。
この文化が全国区かどうかは分かりません。ですが、少なくとも当時の北関東には、“子供にジャンボカット”現象は、確実に不良カルチャーとして根付いていたと思います。
悪を体現した漢、天山広吉【天山広吉】プロレスラー。90~00年代には数々のタイトルを獲得するなど、華々しい経歴を持ちます。荒々しいファイトスタイルや啖呵を切るような言動、そして何しろこの強面です。不良も憧れるわけです。
彼の最大の特徴は、ヒール(悪役)を象徴する見た目です。サイドを短く刈り込んだ「ツーブロック」と長い「襟足」、そしてラインをなぞる金髪。これはジャンボカットの派生版と言わざるを得ません。
不良っぽさ、ワルっぽさはこの“天山ヘア”の影響を強く感じます。当時の“子供のジャンボカット”も、この見た目に近い印象です。
90~00年代初めまでは、試合がテレビのゴールデンタイムで放送されていたこともあり、彼のビジュアルは全国区で知られていたはずです。
実際のところ、時系列的に“天山ヘア”が先か、後かは分かりませんが、[サイドのツーブロック + 襟足長め]はワルっぽく見えやすく、学校が取り締まりたかった「ツーブロック“ヘア”」はこちらだった可能性があるのではないでしょうか。
[サイドのツーブロック + 襟足長め]は、ワルの象徴的なヘアスタイル2007年のヤンキー映画「クローズZERO」では、小栗旬演じる「滝谷源治」はトップの長さを強調したヘアスタイルをしています。サイドがツーブロックなのでトップが盛り上がって見え、リーゼントの様なシルエットになり、ワルを印象付けています。
また、原作にあたる90年代のヤンキー漫画「クローズ」の主人公「坊屋春道」も、ツーブロックではないものの、[リーゼント + 長い襟足]のヘアスタイルをしています。
このことから、ワルそうに見えるのは「ツーブロック」ではなく、[サイドのツーブロック + 襟足長め]だと言えます。
学校の先生は髪のプロではない生活指導の先生から、癖っ毛なのに「パーマをかけているだろ!」と言われてしまったり、元から髪色が明るいのに「黒染めしなさい!」と怒られる“学校での理不尽なエピソード”は、どの世代のお客様からも聞いています。
しかし、生活指導の先生は髪の毛のプロではありません。もし、同じように「ツーブロック“ヘア”」について勘違いしているのだとしたら、仕方がない事です。
ですが、間違いを「潔く認めて、正す」ことに、Z世代は敏感に反応しています。その昭和スタイルは「誰得?」なことばかりですし、令和ではそれは「教育的指導」とは呼べません。
この記事によって、「ツーブロック禁止」の校則が撲滅されることを願っています。
(操作イトウ)

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