(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家

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小池知事が苦言、波紋を広げた尾身氏の発言

 政府の新型コロナ対策を議論する基本的対処方針分科会の尾身茂会長が、1都12県へのまん延防止等重点措置の追加適用を決めた1月19日の会議終了後に語ったことが波紋を広げている。

 尾身氏は、「オミクロン株の特徴にふさわしいメリハリのついた対策を打つ必要がある。人流抑制ではなく人数制限がキーワードだ」「ステイホームは必要ない。渋谷駅前の交差点がいくら混んでいてもほとんど感染しない」「対策をとれば飲食店を閉める必要はない」などと語ったからだ。

 随分と乱暴な発言である。いま日本を席巻しているオミクロン株は、感染力はこれまでにない強さだ。政府の関係者が「1日10万人を超えることもあるかもしれない」と語っているという報道もあった。

“感染力が弱いから人流抑制は必要ない”というなら理解できる。普通に考えれば、感染力が強ければ人流抑制が有効だ、ということになるはずだ。

 尾身氏が言うように、本当に満員電車や人がごった返す場所での感染はないのか。そんなデータが示されたことは一度もない。それでも人流抑制を強調してきたのは尾身氏ら専門家ではないか。感染力が強まっても人流抑制が必要でないと言うのなら、これは間違っていたと自己批判するのか。電車やバスは今でも少し窓を開けて換気しながら走行している。こういうことも必要ないと言うのだろうか。

 1月19日の分科会で了承された基本的対処方針には、重点措置を適用中の自治体でとるべき対策として、混雑した場所などへの外出自粛を明記している。また検査で陰性と確認された場合には、5人以上の会食を認めるなどとしている。尾身氏の発言と明らかに食い違う内容だった。自治体には困惑が広がっており、東京都小池百合子知事は1月21日記者会見で「国と尾身氏で整合性を取ってほしい」と苦言を呈したのも当然のことだ。

 尾身氏は、なぜこういう発言を行ったのか、その根拠は何なのか、などをきっちり国民に説明する責任がある。「対策をとれば飲食店を閉める必要はない」と言うのなら、飲食店への営業制限の要請や協力金の支出も必要ないということになる。なぜ尾身氏は、ここまで言わないのか。

国民は尾身氏ほど楽観的ではない

 確かにオミクロン株では無症状者や軽症者が多いようだ。国立感染症研究所の調査でも肺炎を発症する割合はデルタ株の約6分の1だという。肺炎にならなければ重症化を避けられるし、命に直結することも少なくなるであろう。

 ただそれでも重症化が皆無なわけではもちろんない。死者も出ている。国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長も、「高齢者や持病のある人が重症化することに変わりなく、油断は大敵だ」と指摘している。オミクロン株は、のどで増えやすいとされており、「のどの強い痛みで水や食事が取れず全身状態が悪化するケースもある。療養中は水分や栄養をしっかり取るよう心がけるとともに、基本的な感染対策を徹底してほしい」という警告も発している。この大曲氏の発言こそ、専門家としての責任ある発言だと言いたい。

 オミクロン株が大半を占めるようになったとは言っても、デルタ株での感染もゼロになったわけではない。デルタ株が多くの重症者、死者を出してきたことを考えても、楽観論を振りまくことは止めるべきある。

 国民はそれほど楽観的ではない。だからPCR検査や抗原検査に人が殺到してパンク状態になっている。なかには米兵と馬鹿騒ぎをして感染する若い女性もいるが、これは少数だ。テレビの街中でのインタビューを聞いていると、多くの若者が感染の拡大を正当に恐れている。

 慢性肺疾患という基礎疾患を抱え、来月74歳になる私も感染を大いに恐れている。軽症だ、無症状も多い、と言っても、それが自分に当てはまるかどうかは、感染しなければ分からないことだからだ。小さいとは言っても、運悪く重症になり、死亡するリスクだってあるのだ。

感染者の急増は必ず医療を逼迫させる

 ここ2日間、新型コロナ感染者の数は、全国で5万人を超えている。さらに増え続けるだろうというのが多くの専門家の見方である。厚生労働省によると、自治体公表の重症者は1月1日には51人だったが、新規感染者数の急激な増加に伴い増に伴い、1週間後には89人、2週間後には233人、1月23日時点の重症者は430人となり、1週間前の235人の1.8倍に増えた。重症者は第5波での過去最多の2223人(2021年9月4日)の約5分の1となった。死者もこの1週間で78人増えた。

 その結果、やはり危惧した通り、救急搬送が困難になってきている。搬送先を決めるのに東京では5回程度搬送先を探し、決まるまでに20分要している。全国では4回程度探し、決まるまでに30分もかかっているという。

 毎日新聞1月18日の報道によると首都圏の搬送困難事案(救急隊が医療機関に患者の受け入れを4回以上要請し、現場に30分以上滞在したケース)は、東京都2149件(前週比45%増)、横浜市209件(同70%増)、さいたま市158件(同39%増)、千葉市206件(同26%増)。関西では、大阪市352件(同34%増)、京都市70件(同56%増)、神戸市54件(同93%増)。札幌市145件(同29%増)、福岡市は50件(同178%増)となっている。

 厚生労働省1月20日新型コロナウイルスに感染した患者のための病床に、コロナ以外の救急患者も受け入れることができるとする通知を都道府県に出した。冬場はもともと救急搬送が多い傾向があるが、多くの病院がコロナ病床を確保していたところ、一般の患者の受け入れが難しいケースが増えているためという。しかし、このコロナ病床でそれ以外の救急患者を受け入れるには、感染対策の問題もあり、ある程度時間がかかるそうである。さらに言えば、今後、さらにオミクロン株患者が増えれば、コロナ病床が不足することもある。

非認証店に協力金を出さない千葉のやり方は合理的

 飲食店には、コロナ対策をした認証店とそうではない非認証店がある。この飲食店への協力金をめぐって非認証店の方が協力金の額が高く、認証店の方が低いということが問題になり、岸田政権はこれを同額にした。

 だが私はこの対応に強い違和感を持った。

 非認証店というのは、コロナ対策に協力していない飲食店ということのはずだ。少なくない店舗が自治体の要請を無視して酒類を客に提供しているはずだ。こういう店になぜ税金から協力金を出す必要があるのか。

 そう思っていたら千葉県の熊谷俊人知事が英断を行った。千葉県東京都などとともにまん延防止等重点措置の適用を受けた。そのため飲食店の営業時間を午後9時まで、同一テーブルは原則4人以内、換気の徹底などの感染防止策をとっている認証店と確認店に協力金を出すことを決めた。その際、非認証店は営業時間短縮、酒類の提供などについて県の要請に応じても協力金は出さないこととした。

 熊谷知事は、会議後の会見で「協力金はもともと国民の税金で、感染拡大防止に協力して対策が行われている店舗に支給するのが原理原則と考える」と説明した。他の自治体も同様の方式でやってもらいたいものだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  首長も内心「ただの風邪」と思っているから感染対策がぶれてくる

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