(オセラビ:作家・コラムニスト)

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 韓国社会の発展速度は、世界史の中でも非常に稀な現象だ。現在のシニア世代は後進国に生まれ、産業発展の時期を経て、先進国時代に突入した。そうかと思えば、10代や20代は、生まれた時から先進国入りした時代を生きている。そのため、経験した社会システム、考え方、ライフスタイルなどが、大きく異なる。

 韓国の社会学者はみな、このような特徴を持っている国は韓国が世界で唯一だと述べている。すなわち韓国社会は、政治的および社会的な摩擦要素が数多く存在する、まさに「摩擦共和国」なのだ。

 そんな韓国社会における昔からの慢性的な弊害として、「亡国病」とも呼ばれる地域摩擦がある。東側地域の慶尚道と西側地域の全羅道の地域間摩擦だ。これは、政治的支配権を巡る摩擦が主な原因で、選挙があるたびに、東西間摩擦は頂点に達した。

 この東西間摩擦は、20年前までは本当に深刻だったが、現在はほとんど緩和されている。特に青年世代では、地域摩擦現象をみることはほとんどない。これは、韓国経済が成長し、上手く地域バランスが取れるようになったからだろう。

 地域摩擦が緩和される一方で、急進的なフェミニズム運動が勃発したことで、男女間摩擦が数年前に最高潮に達した。

 私は、紙面で何度も、韓国フェミニズム運動の問題点と、それによる青年層の男女間摩擦に関する記事を執筆してきた。フェミニズム運動は、世代間ギャップを克明に示している。特に、50代、60代の男性がフェミニズムを積極的に擁護し、20代、30代の男性と激しい対立構造を形成したことが特徴的であった。

 50代、60代、70代の男性たちは典型的な男児選好思想、男性中心主義時代を生きてきた。相対的に、同世代の女性には犠牲と抑圧の日々があったのは明らかだ。それで、50代、60代、70代の男性の心の奥深くに、女性に対する負い目が存在しているのだ。

 私も、そのような時代を生きてきた。

何事にも触れすぎる韓国のフェニミズム運動

 私が10代の頃、韓国人のほとんどは貧しかった。今でも鮮やかに目に浮かぶ光景がある。男子はカバンを持って学校へ行き、女子は弁当を包んだ風呂敷を持って靴工場に行く姿だ。

 私の暮らす町内から遠くないところに、靴工場がたくさんあった。靴工場で働く工員の70%が、幼い女工だった。もちろん、当時は経済的に貧しい家庭が大多数で、子供は平均5人ほどいたため、息子には学業をさせ、娘は工場で働き、男兄弟の学費と家族の暮らしのためにお金を稼がねばならなかった。それは、不可避な状況だった。

 アイロニーな点は、経済的な繁栄を享受し、豊かな青春時代を送り、男女差別なしで平等に成長した20代、30代の女性が、フェミニズム運動に没頭したということだ。

 1970年代の米国式の急進的フェミニズムモデルを、そっくりそのまま輸入した20代、30代の女性は、女性差別を叫び、男性たちに向かって、加害者、圧制者、潜在的性犯罪者と追い込んだ。

 50代、60代の中壮年女性たちは生きてきた時代環境によるもので仕方がなかったと認めていたが、50代、60代の男性たちは違った。マスコミにしばしば登場する知識人男性たちはフェミニズムを積極的に支持し、20代、30代の男性を、潜在的加害者、潜在的性犯罪者と規定し、20代、30代の女性の肩を持った。

 その声を味方に、文在寅ムン・ジェイン)政権の主な支持勢力の一つである左派女性団体は、親和的な女性政策と法制化に力を注いだ。各分野における女性の割当制(クォータ制)をはじめ、女性に対する親和的システムをさらに強化させた。

 政界での女性割当制は2000年から法制化されて、国会・地方議会における比例代表の公認時には、50%を女性に割り当てるよう「義務化」している。既に議会に進出したフェミニスト女性議員の強固な支援もあり、フェミニズム運動はこの上なく大きな成果を成し遂げたのだ。

 その反動で、今度は20代、30代の男性たちの不満が爆発した。2016年から猛烈に燃え上がったフェミニズム運動は、2018年に韓国社会で燃え上がった「Me Too運動」を巻き込み、男性に向けた過度な性規制によって、性差別問題は深刻な様相にまで拡大した。また、10代の青少年にまで影響を及ぼし、「性戦争」と呼んでも差し支えがないほどになった。

男女間摩擦が世代間対立につながりつつある韓国

 摩擦が深刻化すれば、嫌悪に発展する。現在の若い世代における男女間摩擦も、お互い同士の悪口合戦だ。極端な発言と嫌悪表現だらけである。

 私は以前から、このような社会的現象をとても心配していた。私は2018年に、韓国社会を取り巻く極端なフェミニズム現象を批判した書籍『そのフェミニズムは間違っている』を出版した。以後、メディアとのインタビューで、男女間の摩擦が遠からず世代間摩擦、老人嫌悪につながると憂慮した。嫌悪というものは、まるで伝染病のようなもので、嫌悪対象が弱くなれば次の嫌悪対象を探すようになる。

 私の予測は当たった。相変わらず男女間摩擦は現在進行形だが、既に世代間摩擦が起こり始めている。韓国社会が、本格的な世代間摩擦の局面に差し掛かったのだ。

 これは主に、選挙の時に明確に表れる。政治家は有権者の支持を得るために、この摩擦を巧妙に利用する。一例として、2021年4月に行われたソウル、釜山市長の補欠選挙を挙げる。当時の投票指向は、若い層の男女と世代間のギャップがはっきりと結果に表れた。

 この現象は、来る3月9日大統領選挙を控え、激しくなり始めている。社会的な現象が爆発的に展開するには、トリガーの役割を果たす契機がある。それが、50日余りに迫った大統領選挙での支持政党候補に対する世代間対決だ。もちろん、大統領候補が掲げる選挙公約によって世代間に相互交差する部分もあるが、概して世代間摩擦が表面的になることだろう。

 冒頭で話したように、シニア世代は、後進国、すなわちとても貧しい時期を経験し、産業化時代を経て先進国に突入した。私が生まれた時、韓国の1人当たりの国民所得はわずか100ドルほどだった。1977年に1000ドル、1995年に1万ドル、2007年に2万ドルを突破して、2022年現在、1人当たり3万5000ドルの時代を生きている。現在の若者が生まれた時は先進国に仲間入りした時期で、世代間の経済的経験の差は、次元が違うほど異なる。

 韓国の20代、30代は旧世代の大家族による集団生活から抜け出し、個人主義、利己主義が極度に発展した世代である。旧世代を理解するためには、まだまだ経験不足であり、どうすることもできないだろう。

 さらには、韓国経済が沈滞期に陥り、新型コロナまで重なって、昨年の実質GDP成長率は1%台を記録した。低成長により働き口がほとんどなく、韓国経済は停滞する。若者の失業率は30%に肉迫し、文在寅政権になって住居価格は暴騰した。ソウルの住居価格は文在寅政権の初期より93%上昇しており、若者たちは「今の時代、自分の家を持つことは夢のまた夢」と挫折感を抱いている。

健康保険制度を揺さぶった「文在寅ケア」の現実

 その上「文在寅ケア」の無謀な拡大で世界最上級の健康保険制度を揺さぶり、数年内に健康保険積立金は枯渇すると言われている。国民年金制度が現行通りに維持される場合、基金は2054年には枯渇するだろう。1990年以後生まれの国民は、国民年金の枯渇によって、一銭も受けとることができない状況になるということだ。

 文在寅政権がスタートした当時、10兆ウォンに達した雇用保険基金の積立金は、無謀な失業給与拡大で赤字に転換し、借金によって何とか工面しているのが現状だ。国民年金や健康保険、健康保険など国民の基本的な社会安全網が危険な状況になり、青年層の不満は高まった。これが世代間摩擦の深刻化の実態だ。

 韓国は、昨年から、60代人口が20代人口を追い越している。2~3年後には、65歳以上のシニア人口が全人口の20%を突破し、1000万人に達する超高齢化社会となるだろう。

 世代間の所得不平等は摩擦を生み、不満を持っている青年層は「これらすべてのことが旧世代のせいだ」と老人に矛先を向けている。インターネット上では、シニア人口に対する憎しみと嘲弄表現が蔓延しているのだ。代表的な例が、老人を「トゥルタク」と蔑称することだ。「トゥルタク」は、入れ歯(「トゥルニ」)とカチカチ(「タクタク」)の合成語である。

 世代間摩擦はあら探しの末、往々にして老人嫌悪に直結するだろう。青年たちの間で、すべての出来事が人口の多くを占める老人たちのせいだという不満が広まるのも時間の問題だ。韓国の老人の相当数は、産業化時代を経て生きてきたので、富を成した人物が多い。青年の怒りが、世代間摩擦となってどこへ向かうのか、どんな社会的混乱を生むことになるのか、とても恐ろしい。

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文在寅政権が韓国における男女間摩擦を助長したという声も根強い(写真:YONHAP NEWS/アフロ)