新型コロナウイルスオミクロン株による新規感染者数が急増しています。現在、新型コロナウイルス感染症法上の「2類感染症」に相当する扱いとなっていますが、オミクロン株は感染力が強い一方で、「無症状や軽症で済むケースが多い」と言われていることから、ネット上などでは、季節性インフルエンザ相当の5類への引き下げを求める声が強まっています。東京都小池百合子知事は1月13日、5類引き下げの検討を国に求めました。

 ところで、2類相当から5類に引き下げた場合、どのようなメリット、デメリットが生じると考えられるのでしょうか。たけつな小児科クリニック(奈良県生駒市)の竹綱庸仁(たけつな・のぶひと)院長に聞きました。

制限緩和で感染対策困難になる恐れも

Q.感染症法に基づき、感染症を5つに分類する理由について、教えてください。また、2類感染症と同等の扱いをされている新型コロナウイルスについて、季節性インフルエンザ相当の5類感染症への引き下げを求める声が強まりつつありますが、両者は何が違うのでしょうか。

竹綱さん「数多くの感染症がある中で、5つに分類する大きな理由は、(1)感染力と重篤化(2)医療機関の対応(3)感染者および周囲の行動―の3点について、総合的に評価するためです。例えば、感染力については、1類、2類は『非常に感染性が強いウイルスで重篤化する危険性が高い』、3類は『さほど感染性は高くない』、4類は『人から人への感染がほとんどない(動物などを介して人に感染)』、5類は『発生動向から感染を予防する必要がある』とそれぞれ分類しています。

また、医療機関の対応については、1類、2類は『感染拡大による重篤化が懸念され、厳重な感染予防策が必要となる』、3類から5類は『1類、2類ほど感染予防策を行う必要はない』として分類。感染者および周囲の行動については、1類、2類は『患者数、重症者数を把握し、一定の行動制限を行う必要がある』、3類は『感染を拡大しうる職種への行動(就業)を制限する』、5類は『感染動向を把握し、感染者の登園などの日常生活への復帰の目安などを示す』として、それぞれ分類されています。

つまり、2類と5類の大きな相違点は、感染力と、重篤化の頻度です。2類は感染力が強く、総合的に判断して重篤化しやすい感染症であり、5類は重篤化の危険性はそこまで高くないものの、感染動向によって対策を行う必要のある感染症に位置付けられています。

この2つの要因から人々の行動制限の程度を判断し、2類では感染拡大時には緊急事態宣言などの人流を減少させる強い行動制限をする必要がありますが、5類では、2類ほど強力な行動制限を行う必要はありません。これまでの傾向から、感染性や重篤化率について、新型コロナウイルスインフルエンザなど他の5類の感染症とを比較した場合、数値上はそれほど変わらず、諸外国の感染状況改善などの条件付きではありますが、5類相当に引き下げても、個人的には違和感はありません」

Q.新型コロナウイルス感染者に対応する医師の中には、5類引き下げに反対する人もいるようです。2類相当から5類に引き下げた場合、どのようなメリット、デメリットが生じると考えられるのでしょうか。

竹綱さん「5類引き下げに反対する点については、2つの大きな理由があると考えられます。1つ目は、外国人や、海外から帰国する日本人の国内への流入です。各国とも感染予防策として、マスクの着用や人々の行動制限(ロックダウンなど)を行っていますが、感染率や重症化率は日本よりも欧米諸国の方が高い傾向にあります。

仮に、5類に引き下げた場合、国内では行動制限や渡航が緩和されて、欧米などから人の流入が増加する可能性があり、諸外国の感染症状がある程度落ち着かないことには、日本国内の新型コロナウイルスの感染をコントロールすることが困難となることが想定されます。

2つ目は、患者の医療費負担が増え、検査の受け控えが発生する可能性があることです。現在、新型コロナウイルスは指定感染症であり、新型コロナウイルスに関する検査、治療にかかる費用は国が助成し、診察料を除いて患者の直接的な負担(窓口負担)はありません。しかし、5類感染症に引き下げることで、指定感染症から除外された場合、新型コロナウイルスに対する抗原検査やPCR検査が保険診療となるため、患者が検査費用を負担することになります。

2022年1月から新型コロナウイルスに対する検査費用(保険点数)が下げられましたが、実際に保険診療を行うとなると、患者1人につき数千円の費用負担が発生することになります。その影響で検査を受けない人が増えた場合、正確な患者数や感染の動向が不明瞭になり、適切な感染制御を行うことが困難になると想定されます。

一方、5類に引き下げた場合、(1)強力な行動制限を行う必要がなく、経済を停滞させる事態になる可能性は低い(2)保険診療となるため、検査費用や治療費用は患者が負担する分、国は財政負担を軽減できる―というメリットが生じると考えられます」

3連休後、子どもの感染も急増

Q.オミクロン株が流行して以降、子どもの感染も急増していると聞きます。子どもにおけるデルタ株とオミクロン株の感染力の違いについて教えてください。

竹綱さん「年明け以降、特に1月8日から1月10日までの3連休を契機に大人だけでなく、子どもの感染者数も増加していると感じています。実際、当院でも3連休前までは感染者数は1人もいませんでしたが、3連休を境に、1日数人の子どもの感染者を確認しています。

昨年流行したデルタ株でも子どもの新型コロナウイルス感染者は数人いましたが、そのほとんどは親からの感染でした。さらに、幼稚園や保育園でデルタ株の感染者が発生した際に、感染者と同じクラスの子ども数十人を濃厚接触者と判断し、PCR検査を行ったところ、感染者数はほぼゼロでした。

ところが、現在流行しているオミクロン株では、幼稚園や保育園で新型コロナウイルスに感染した子どもから、同じクラスの別の子どもに感染が広がっており、今までは見られなかった子ども間での感染が多数確認されています。また、家族内感染が多いことはデルタ株でも見られましたが、子どもから大人へ感染させる、デルタ株と逆の感染経路も散見されており、デルタ株よりオミクロン株の方が、大人、子どもを問わず、感染力が高いと考えられます」

Q.3回目のワクチン接種を前倒しする自治体が増えていますが、3回目のワクチンを接種することで、オミクロン株の流行は抑えられるのでしょうか。

竹綱さん「接種後の効果をしっかり検証しないと分かりません。ただし、1、2回目の接種から日数が経過していて、ワクチンの抗体価(体内に侵入したウイルスに対する抵抗物質の量)が低下していると考えられるため、3回目のワクチンを接種した場合、抗体価を上げ、感染率や重篤化を減少させることができると想定できます。

また、例年行っているインフルエンザの予防接種のように、流行する株を想定してワクチンを製造、接種することでインフルエンザに対する重症化リスクを軽減している点を踏まえても、3回目の接種は十分でないにしろ、有効なのではないでしょうか」

Q.新型コロナウイルスを2類感染症相当から5類感染症に引き下げる場合、どのような条件が必要なのでしょうか。効果的な治療薬が承認されない限り、引き下げるべきではないのでしょうか。

竹綱さん「先述のように、日本と諸外国の感染率、重症化率は異なっており、世界保健機関(WHO)をはじめとした諸外国も、新型コロナウイルスは引き続き、世界的に感染をコントロールする必要のあるウイルスであると位置付けています。これまで、デルタ株やオミクロン株のように、日本から感染率や重症化率が高い変異株は発生していませんが、海外で発生した株の国内への流入により感染が拡大していることから、5類引き下げの目安は、諸外国での流行がある程度収束してからだと思います。

また、日本国内で感染を制御しつつ、5類に引き下げるためには、諸外国が新型コロナウイルスを、インフルエンザと同様の感染症であると認識することが必須ではないでしょうか。幸い、日本ではワクチン接種により感染率や重症化率が軽減されていると考えられるため、新型コロナウイルス重症急性呼吸器症候群SARS)などのような重篤化しやすいウイルスではないと想定できます。社会経済活動を停滞させないことを踏まえても、治療薬の承認が必須条件にはならないと、個人的には思います」

オトナンサー編集部

新型コロナ「引き下げ」てもいいの?