キングギドラと言えばゴジラシリーズに登場する架空の怪獣だが、ついに現実のものとなる日が来た。日本の生物学者たちがその夢を叶えてくれたのだ。
日本海の海底で発見された、体がいくつも枝分かれした新種の環形動物は「「キングギドラシリス(Ramisyllis kingghidorahi)」と命名された。
動物なのに左右の作りが非対称的であるなど、進化学的にも発生学的も興味深く、生物学の常識がくつがえる可能性もあるとのことだ。
キングギドラシリスは、東京大学をはじめとするグループによって、2019年に佐渡島の近海、水深十数メートルの岩場に生息する海綿の体内から発見された。
自分の体を鏡に映してみよう。きっと右半身と左半身はほぼ同じ形をしているだろう。このように普通の動物は、左右相称動物で、体が左右対称の作りになっている。
ところがキングギドラシリスはそうではない。頭から尻尾にかけて体が枝分かれしており、左右対称ではないのだ。
環形動物である「シリス科」は、このように体軸が分岐する仲間が2種いることで知られている。キングギドラシリスは、体が枝分かれする3番目のシリス科の仲間である。
遺伝子的には、オーストラリアのダーウィン近海に生息する種(Ramisyllis multicaudata)に近い。
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繁殖や栄養吸収に有利
映画のキングギドラは3つ首だったが、キングギドラシリスの頭は1つだ。代わりにお尻に向かうにつれて枝分かれしており、怪獣というよりも植物の根を思わせる。
だが尻尾ではない。枝分かれした体には、いずれも消化管や神経、筋肉までもがある。れっきとした体だ。そうした何本もある尾部を、海綿の体から外に出している。
このような体は、繁殖するための個体(ストロン)を放出する際に有利であるという。
また肛門につながる消化管にはびっしりと繊毛が生えており、それを使って体内に海水を取り込むことができる。枝分かれした尾部は、このときの栄養吸収効率を高める効果もあるそうだ。
キングギドラは生物の常識が覆す可能性も
体が分岐する動物は、進化学的にも発生学的にもきわめて興味深い存在であるとのこと。
かつて日本海では、同じく体が分岐する「カラクサシリス」が発見されたこともあったが、最近では見つかっておらず、この不思議な動物の研究は完全に暗礁に乗り上げていたのだという。
しかし新たにキングギドラシリスが見つかったことで、再び研究が行えるようになった。
あまりにも奇怪なキングギドラシリスの体の秘密を調べれば、左右相称動物の進化プロセスを探る手がかりが得られるかもしれない。それどころか、これまでの生物学の常識がくつがえる可能性も高いとのことだ。
この研究は『Organisms Diversity & Evolution』(2022年1月19日付)に掲載された。
オシリカジリムシも現実の生物に
キングギドラが現実の生物となった時と、ほぼ同じくして、鹿児島県で発見された新種の甲殻類には、「オシリカジリムシ」という和名がつけられた。
鹿児島県出水市の干潟で採集した「チワラスボ」と呼ばれるハゼの仲間の尻びれにくっついていたそうで、おしりにかじりつくようなその姿からこの名前が選ばれたという。
オシリカジリムシは体長1.3ミリほどで、茶色の体に甲羅を持ち「カイアシ類」のグループだという。
今後も生物学者の遊び心溢れるネーミングセンスで、様々な架空の生き物が現実となりそうだ。いいなー。私も何か発見してすんごい名前つけたいなー。
References:Ramisyllis kingghidorahi n. sp., a new branching annelid from Japan | SpringerLink / 東京大学 大学院理学系研究科・理学部 / written by hiroching / edited by parumo
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