鶏卵、牛乳、エビやカニといった甲殻類、ソバ、小麦など、さまざまな食べ物が原因となって引き起こされる「食物アレルギー」。アレルギーを持つ人が、原因となる食べ物を口にすると多臓器にさまざまな症状が出現する他、アナフィラキシーショック(重篤なアレルギー症状)に陥ると最悪の場合、命に関わる危険もあるため、口にしないよう十分な注意が必要です。

 しかし中には、相手が食物アレルギーを持っているのを知っていながら「食べれば治る」という誤った情報を信じて無理やり食べさせようとしたり、アレルギーを持つ子どもに「好き嫌いはよくない」と無理に勧めたりするケースもあるようです。これについて、「命に関わるって知らないの?」「症状が出るのを分かって食べさせようとするのは悪質すぎる」「殺人と変わらないじゃん」「もし症状が出たら、罪に問えるのでは?」といった批判的な意見が上がっています。

 食物アレルギーの人に、原因となる食べ物を無理やり食べさせる行為は「犯罪」となり得るのでしょうか。弁護士の藤原家康さんに聞きました。

殺人罪、傷害罪の可能性も

Q.食物アレルギーを持つ人に対して、「(相手が)食物アレルギーを持っている」ことを知っていながら、原因となる食べ物を無理やり食べさせようとする行為について、何らかの法的問題は考えられますか。

藤原さん「相手が食物アレルギーを持っていることを知っているにもかかわらず、無理やり食べさせようとした場合、民事では不法行為(民法709条)となり、それにより損害賠償責任を負うことが考えられます。一方、刑事では、無理やり食べさせられたことによってアレルギー症状が生じた場合、その結果により、その行為が殺人罪(刑法199条)や傷害致死罪(刑法205条)、傷害罪(刑法204条)となることが考えられます。なお、人の生理的機能を害する行為は傷害罪に当たり、アレルギー症状を引き起こす行為もこれに該当します」

Q.相手が「食物アレルギーを持っている」ことは知っていたものの、原因となる食べ物を口にすると「重い症状が出る可能性がある」「命に関わる危険性がある」ことを知らなかったケースではどうでしょうか。

藤原さん「現代では、食物アレルギーの危険性は一般常識と考えられます。食物アレルギーを持っていることを知っていれば、通常、原因となる食べ物を食べると重い症状が出る可能性があることや、命に関わる危険性があることを認識できると考えられ、仮に『命に関わるとは知らなかった』と主張しても、結論としては先述と同様に法的責任を問われ得ると考えられます」

Q.相手が食物アレルギーを持っていることを知らずに、「好き嫌いはよくない」などとその食べ物を無理やり食べさせたり、食べるよう強引に勧めたりするケースではどうでしょうか。

藤原さん「事前に知らなかったとしても、食事の直前や食事中に食物アレルギーであることを認識し得た場合、民事では、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任が生じる場合があります。この場合、刑事では、アレルギーが生じた場合、その行為が故意による場合は、症状が出た結果によって殺人罪(刑法199条)や傷害致死罪(刑法205条)、傷害罪(刑法204条)、過失による場合は、過失致死罪(刑法210条)、過失傷害罪(刑法209条)となることが考えられます」

Q.中には、「食物アレルギーは、無理にでも食べれば治る」という誤った情報を信じ込み、「(原因となる食べ物は)入っていないから」「絶対治るから」とだますなど、“よかれと思って”故意に食べさせようとするケースもあるようです。この場合の法的問題はどうでしょうか。

藤原さん「『“よかれと思って”で責任が軽くなる』ことは基本的にないと考えられます。極端な例ですが、“よかれと思って”人を殺した場合に、その責任が軽くなることがあり得ないのと同じことです」

Q.仮に、食物アレルギーを持つ人が、原因となる食べ物を無理やり食べさせられて症状が出たり、命を落としたりした場合、治療費、慰謝料といった損害賠償はいくらぐらいになるのでしょうか。

藤原さん「損害賠償の金額は、症状や損害の内容によってさまざまです。治療費については、基本的には実際にかかる額となります。また、慰謝料については、傷害のケースでは入通院期間により決まることが多く、例えば過失による場合ですと、入院2カ月で約100万円、通院2カ月で約50万円と考えられます。故意による場合は、さらに高額となるでしょう。また、死亡したケースでは、過失による場合、おおよそ2000〜2800万円程度の慰謝料となることが考えられます。これも、故意による場合は、より高額となるでしょう」

Q.食物アレルギーの人に食べ物を無理やり食べさせたケース、またはそれに類似するケースで事件・事故となった事例・判例はありますか。

藤原さん「『食べ物を無理やり食べさせた』という食物アレルギーの事例ではありませんが、民事事件での、アナフィラキシーショックに関する最高裁判所の2004年の判決があります。点滴による抗生剤の投与開始直後に、患者がアナフィラキシーショックを発症して死亡したケースについて、薬物などにアレルギー反応を起こしやすい体質であることを患者が申告していたにもかかわらず、医師は、看護師に『投与後の経過観察を十分に行う』『発症後に迅速かつ的確な救急処置を行う』といった指示をすべき注意義務を怠った過失があるとされました」

オトナンサー編集部

食物アレルギーなのに、無理に食べさせると…