コロナ禍による業績悪化などで、早期退職や希望退職を募集する上場企業が2年連続で80社を超えました。東京商工リサーチによると、2021年に早期・希望退職者を募集した上場企業は84社(2020年は93社)。募集人数は、人数を公表した69社で計1万5892人(2020年は1万8635人)に達しており、2年連続で1万5000人を超えました。募集企業の半数以上に当たる47社は募集直近の本決算で赤字を計上し、アパレルを中心に募集が目立ちます。

 一方で、募集人数が1000人以上の企業は5社でしたが、このうち4社は募集直近の本決算で黒字でした。赤字企業が早期・希望退職者を募集する事情は分かりますが、なぜ、黒字企業も募集するのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

事業構造見直しで組織再編

Q.そもそも、リストラ、早期退職、希望退職のそれぞれの意味について教えてください。

大庭さん「リストラという言葉は『Restructuring(リストラクチャリング)』という英語の略語で、『事業の再構築』という意味合いがあります。事業の再構築というのは、企業が生き残りを図るために事業や人員の構成を見直し、事業構造を変化させることです。

その一環として、今後の事業構造に見合った適正な人員構成にする目的で余剰人員の削減に取り組むことがあります。余剰人員を削減するための方法として、現在雇用されている従業員を対象に、退職金を割り増し支給することを条件に早期退職や希望退職を募る対応が行われることがあります。

早期退職と希望退職ですが、本来は異なる概念です。早期退職は、会社の恒常的な制度として、従業員のライフスタイルの充実化などを図ることを目的として、本人が自主的に定年前の退職を選択できる(定年を早める)ことができるようにしたものであり、所定の退職金に対する上積みもあります。希望退職は、会社が期間を限定して、主に人員整理の目的で従業員に退職を促すものであり、退職金を割り増しで支給します。

従って、近年活発化しているのは、本来、『希望退職』の募集というべきなのですが、世間ではリストラの延長線上にあるものとして同列的に扱っているケースが多いです。今回の私の回答も便宜上、早期退職と希望退職を同列に扱うことにします」

Q.2021年は募集人数が1000人以上の企業が5社ありましたが、そのうち4社は募集直近の本決算で黒字を計上しました。なぜ黒字の企業が募集を行うのでしょうか。

大庭さん「たとえ直近の業績がよくても、市場成長の見込める事業分野へ進出するために、あるいは組織を効率化した上で採算性の高い事業分野に集中するために早期退職や希望退職を実施するケースもあります。

企業は既存の事業分野が成熟化、または市場が縮小傾向になった場合、そこから撤退した上で市場成長の見込める事業分野への進出を図ります。このとき、特殊な技能や最新の技術力を持った人材を一定数確保する必要が生じる場合があります。そういった必要な原資を確保する目的で、賃金水準の高い中高年齢者を対象とした早期退職や希望退職を実施することがあります。

また、ネット通販の台頭という事業環境の変化に見舞われているアパレル業界が、店舗販売を縮小し、ネット通販事業に注力するというような事業構造改革を行うにあたり、組織を再編成する目的で特定の層を対象とした早期退職や希望退職を実施することもあります」

Q.早期退職者、希望退職者を募集しても想定内の人数が集まらなかった場合、企業はどのように対応するのでしょうか。

大庭さん「事業の構造改革を行うなどの目的で早期退職や希望退職を実施する企業の場合、退職者数が予定人数に達しなかった際は、いったんそのときの従業員数で事業構造改革に着手した上で、時機を見て再度、早期退職や希望退職を募るケースが多いです。

一方、業績不振による人員カットを行う目的で早期退職や希望退職を実施する企業の場合は、従業員の残業の削減、レイオフ(一時休業や一時解雇)、賃金カットなどの対応を行い、それでも事業の継続が厳しい場合に整理解雇を行います。整理解雇というのは、企業側が解雇者を指名することです」

Q.社員の立場で見ると、早期退職、希望退職制度は得なのでしょうか。それとも、デメリットの方が多いのでしょうか。

大庭さん「対象となった人の環境によって、メリットやデメリットが発生します。例えば、定年間近だったなどある程度の年齢に達している人の場合、通常よりも多い退職金を手にした上で早めにリタイアし、第二の人生を謳歌(おうか)しているケースもあります。

一方、家族のために働き続けなければならない人の場合、『再就職先が見つからない』『再就職先が見つかっても給与水準が大幅に低くなり、仕事のやりがいも得られない』などの状況に陥るケースもあります」

Q.退職金などを割り増しで支払う企業もありますが、企業としてはメリットがあるということでしょうか。短期的には経営が苦しくなるのではないですか。

大庭さん「割増退職金の支払いなどで、一時的に財務上のダメージが発生します。大幅な特別損失が発生することで、その年の決算が赤字に陥るケースもあります。しかし、企業にとって人件費は最大の固定費であるため、人員を削減した後に利益を出しやすくなるというメリットが生じます。あるいは、従業員の若返りを図ることで社内が活性化し、成長する事業分野への参入が円滑に進むというようなメリットが生じることもあります」

Q.新型コロナウイルスオミクロン株による感染拡大など、厳しい状況が続きますが、早期退職、希望退職の募集は2022年も増えそうでしょうか。それとも、減少しそうでしょうか。

大庭さん「新型コロナウイルスの影響で業績不振に陥った企業が早期退職や希望退職を募集するケースは2022年も増えると思います。

ただし、コロナ禍以前から、人口減少による国内市場の縮小化、グローバル経済化の進展による海外企業との競争の激化、インターネット社会の進展による消費構造の変化など、企業を取り巻く経営環境が変化し続けており、時代に即した事業構造改革に取り組む企業が増えています。今後、新型コロナウイルスが収束に向かっても、組織の再編成を目的とした早期退職や希望退職を募集する企業は、一定数存在するのではないでしょうか」

オトナンサー編集部

黒字なのに希望退職募集、なぜ?