新型コロナウイルスオミクロン株による新規感染者数が激増する中、高校受験や大学受験が本格的に始まりました。志望校の合格を目指し、ラストスパートをかける受験生も多いと思います。ところで、高校受験や、大学の推薦入試の際は、中学校や高校の教諭が生徒の出願書類を志望先の学校に提出することが多いのですが、過去には教諭が願書を出し忘れて、生徒が受験できなくなったケースもあります。教諭が願書を出し忘れて進路が決まらなくなった場合、生徒は学校に補償を求められるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

「出願すれば合格」の因果関係必要

Q.高校受験や、大学の推薦入試などで、教諭が期限内に願書を提出しなかったことで受験できなかった場合、学校側に法的責任はありますか。

牧野さん「民事で見ますと、学校の使用者である教諭が、過失によって生徒や両親に損害を与えたことになり、学校側は民法715条の使用者責任を問われる可能性があります。一方、刑事責任は該当する法律がありません」

Q.受験できなかったことで浪人が決まってしまった場合、あるいはその後の入試ですべて落ちて浪人が決まった場合、予備校の学費や翌年の受験料、慰謝料などを学校側に請求することはできますか。

牧野さん「考えられる損害としては、第1志望を受験できなかった精神的損害や、それにより浪人を強いられて余分な出費が必要となったという損害がありますが、請求するためには『出願していれば確実に合格した』であろう因果関係を証明することが必要です。例えば、推薦入試の場合でいうと、『過去の推薦者は全員合格していた事実』といった関連性の高い証拠が求められます」

Q.受験できずに第2志望以下への進学が決まり、その入学金や授業料が、受験できなかった学校より高い場合、ミスした学校に差額分を請求することはできるでしょうか。

牧野さん「確実に合格したであろうと見込まれるのに、公立学校に出願できなかったことで私立学校へ入学し差額が出る場合、損害として差額分を請求できる可能性があるでしょう」

Q.願書を提出し忘れた教諭個人が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

牧野さん「願書の提出の委託を受けていながら、過失(不注意)で提出しなかった場合は、『準委任契約違反』(民法656条)になる可能性があり、同時に、民法709条の不法行為になる可能性もあります。出願ミスとそれによって生徒側に発生した損害との因果関係が証明されれば、個人として損害賠償責任が発生する可能性があります」

Q.過去には、教諭が願書の提出を忘れた際に、「書類に不備があって受理されなかった」と、生徒側にうその説明をしたケースもあったようです。自分のミスを隠蔽(いんぺい)し、受験できないうその理由を生徒側に伝えていた場合はどうなりますか。

牧野さん「単なる出願ミスに比べ、損害額が多めに認定される可能性があると思います」

Q.教諭のミスで志望校を受験できなかったことに関する過去の事例・判例はありますか。

牧野さん「2019年11月に滋賀県内の公立高校の教諭が私立大学の推薦入試の願書を提出するのを忘れ、当時高校3年だった生徒が受験できなかった事例があります。結局、生徒は別の私立大学の一般入試に合格し、進学しましたが、その後、生徒の保護者が県に賠償を請求しました。2021年10月、県は元生徒側に賠償金約190万円を払うことで和解する方針を決めました。

本来、入学願書は、本人が自らの意思で責任を持って提出すべきです。国際的に見ても、入学願書を学校が管理するという仕組み自体が珍しく、個人的には、この仕組み自体を変えるべきだと思います」

オトナンサー編集部

願書を先生が出し忘れたら?