迫稔雄によるシリーズ累計発行部数880万部突破の同名ギャンブル漫画を実写映画化した映画『嘘喰い』。天才ギャンブラー嘘喰い”こと班目貘を演じるのが、押しも押されもせぬ人気絶頂の俳優・横浜流星だ。


鋭い視点と強い意志で作品と向き合い、撮影の合間には飾らない素顔を見せたという横浜。作品作りの過程で「悔しいけど、今となっては彼が正解」とまで言わしめた彼の魅力を、メガホンを取ったジャパニーズホラーの名手・中田秀夫監督に聞いた。

原作の“核”になるようなものは外さないように

原作のある作品を実写映画化することの難しさを聞くと「小説であっても今回のように漫画であっても、メディアが違う。文字あるいは絵で描かれたものを、生身の人間が2時間くらいの長さで演じると、一対一で置き換えられるわけではないから、すべてが小説ないし漫画にすごく近くなるとは限らない」と中田監督。


そのうえで、大切にしていることは「ここはこういう風に変えざるを得ない、という部分はあっても、世界観、テイスト、肌触りや、主人公がどういう生き様、あるいは死に様を見せるかという“核”になるようなものは外さないように映画で描き切りたい」という思いだ。


今回の『嘘喰い』で描いたのは“知略”と“暴力”。貘については「漫画を読んだ印象では、貘はそんなに虚無的な人じゃなくて、仲間の梶も救うし、時々ひょうきんな面も見せる人」と分析した。


横浜流星は“頑固者”「悔しいけど、今となっては彼が正解」


中田監督が同作を手掛けることが決まった時点で、貘=横浜流星の配役はすでに決定していた。


彼の印象を尋ねると、中田監督は「最初は、言葉を選ばずに言うと“頑固者”だと思いました。いい意味で、ですよ。『こうしたい』『これはしたくない』というのが、すごくはっきりあった」と振り返る。


「まず『髪は染めたい』と。こちらとしては『髪を染めて本当に大丈夫か』と物理的なことを思うわけですよ。『横浜くんも、撮影期間中に他の仕事もあるよね』と。そういう時に黒に簡易的に戻す、というようなことをやりきれるのか。シルバーに髪染めをしても、若いから3日か4日で黒くなってきちゃうけど、それを頻繁に染めてもらえるのか、とか。カツラでやる案もあったんだけれど『貘に関してはそうすべきじゃないと思う』と、彼ははっきりと言った」。


また、こんなエピソードもある。


「台本に『とある小道具を持っている貘』とあったんです。原作には全くない設定です。それは脚本を担当してくれた大石哲也さんが面白いんじゃないかとオリジナルで入れてくれたんですが、僕も『いいんじゃないかな』と思っていたんです」。


しかし、原作にはない映画オリジナルの設定を、横浜は頑なに拒んだ。


「それをめぐる議論は3回ぐらいにわたってしました。『じゃあ持っているバージョンと持っていないバージョンと撮ってみないか』と言ったら『それも嫌だ』と。結局こっちが折れることになりました。『その貘は自分のイメージの中にない』『貘の小道具はカリカリ梅だけでいいんだ』ということだったんです」。


さらに中田監督は続ける。


「そこは悔しいけど、今となっては彼が正解だったと思う。横浜くんが無理だからと、同じ場面にいる他の役の人にも持ってもらったんですが、その小道具を持っているカットは全部切りましたから。結局、この画が合わなかったということなんですよね。彼はそこを見抜いていた。『違う』と」。


強い意志とは対照的に素顔は“飾りだてしない人柄” 「すごく好きになりました」


最初は「頑固」とすら感じた横浜とも、撮影を進めていくことで信頼関係が芽生えていった。


中田監督は「衣装合わせやリハーサルを通して、徐々に距離が縮まって、撮影が始まってからは監督と主演俳優として同じ方向に理解が向いたという感じでした。お互いの人間性や、貘のキャラクターをどう演じるべきかということはしっかり話し合いました」と振り返る。


また「撮影終わりや合間に佐野勇斗くんと、仕事と関係のない話をしている様子とかを見ると、芸能界っていう特殊な世界に10年もいながら、彼は素朴とも言っていいぐらい飾りだてしない人柄。僕はすごく好きになりました」とも告白。


【関連】横浜流星の“男気”を佐野勇斗が明かす「さすがにキュンときましたね!」


「素の横浜流星は、監督を、あるいは周りの他のスタッフも惹きつけるような磁場を持っている人。本当に素朴でいいヤツ。だからといって、人に媚びるようなことも一切無いので、これからどんどん、20代も突っ走れるでしょうし、30代、40代とすごく良い俳優さんになっていくのかなと思う。また機会があればぜひ、と思います」と優しい表情を見せた。


中田監督の思い描く、横浜流星の“アクション付きラブストーリー”


今後、横浜流星を起用した作品の可能性についても聞いてみた。


すると「横浜くんが吉高由里子さんと共演していた『きみの瞳が問いかけている』を観たんですよ。僕もこう見えてラブストーリーをやりたくて映画業界に入ったようなものなので」と『リング』をはじめとするホラー作品の名手から出たのは意外な声。


「彼はこれだけ丹精な顔立ちなので、そういう作品を撮ってみたいですね」とラブストーリーに意欲を示しつつ、「彼、今回はほとんどアクションを見せることがなかったんですよね。他のキャストのアクションシーンを見て『やりたいな』と言っていました。少年の時だけど、極真空手で世界一位でしょ。『きみの瞳が問いかけている』でも戦っていましたが、“アクション付きのラブストーリー”がいいのかもしれない」と思いを馳せた。


白石麻衣は“一生懸命に役と向き合える方”


今回のインタビューでは、中田監督作『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』にもヒロインとして出演していた白石麻衣についても聞くことができた。


「一生懸命な方と思います。テレビのバラエティだったりファッション雑誌の表紙だったり、モデル的なお仕事もある中で、映画女優を“いくつかある仕事の中のひとつ”とは決して思っていないんですよね。やるときは女優をとことんやる。すごく一生懸命に役と向き合える方だと思いますよね」とその姿勢を絶賛。


彼女の女優としての飛躍にも期待を寄せる。


「もちろん最初から真剣な取り組みをされている方だと思いますが、どんどん場数を重ねてこられているので、良い意味で少しずつ力が抜けてきたかなと感じます。よりいろんな役が楽しく演じられるようになってきているんじゃないかな。これからどんどん女優業が楽しくなってくると思いますよ」。


現在も、今後も活躍が期待されるキャスト陣で送る映画『嘘喰い』。原作ファンはもちろん、原作を知らない層も楽しめる“知略”と“暴力”を、ぜひスクリーンで体感してほしい。


取材・文:山田健史

ドワンゴジェイピーnews