例年通り、サンダンス映画祭が1月20日から30日まで行われた。例外だったのは、今年も完全オンラインのバーチャル映画祭だったこと。開催10日前までは、ユタ州パークシティの会場とオンラインのハイブリッドで開催する予定だったのが、オミクロン株の爆発的感染を危惧し、急遽オンラインのみに切り替わった。そのため、上映予定作のなかには『カメラを止めるな!』仏語リメイクである『Final Cut』など、出品を取りやめる作品もあった。

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1月28日に発表された受賞結果では、84本の全上映作品のなかから、観客賞や審査員賞が発表された。USドラマ部門審査員賞には、セネガル出身女性がNYでナニーとして働く姿を描く、ニキャス・ジュス監督『Nanny』が受賞。観客賞にはシングルマザー(ダコタ・ジョンソン)と彼女の娘と奇妙な友情を結ぶ青年の物語の、クーパー・ライフ監督『Cha Cha Real Smooth』が選ばれた。USドキュメンタリー部門では、ベン・クライン監督とバイオレット・コロンバス監督が、天安門事件を追うドキュメンタリー作家に迫る『The Exiles』が審査員賞を受賞。観客賞は、ダニエル・ロアー監督がロシアの反権力者アレクセイ・ナヴァルニーを追ったドキュメンタリー『Navalny』が受賞している。

2021年のUSドラマ部門観客賞・審査員賞・監督賞(シアン・ヘダー監督)受賞作『コーダ あいのうた』(公開中)や、USドキュメンタリー部門の観客賞・審査員賞受賞の『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(21)は、3月27日に行われる第94回アカデミー賞の有力候補作となっている。これらの作品は、1年前のサンダンスでお披露目されたのち、じわじわと評判と支持を得て、翌年の賞レースにたどり着いている。そういった意味でも、1月のサンダンス映画祭で上映、評価される作品は、今年の映画界の時流を読むうえでも重要だ。

アメリカおよび世界のインディペンデント映画の登竜門として、新しい才能をピックアップする場所であるサンダンス映画祭は、各配給会社、配信業者が新作を購入する場でもある。観客賞受賞作の『Cha Cha Real Smooth』はApple TV+が購入している。サーチライト・ピクチャーズは、「ふつうの人々」に主演したデイジー・エドガー=ジョーンズと、『キャプテン・アメリカ』シリーズのウィンターソルジャー役で知られるセバスチャン・スタンが主演するホラー作品『Fresh』や、エマ・トンプソン主演のセックス・コメディ『Good Luck to You, Leo Grande』を購入し、2作品とも北米ではHuluで配信される。ダコタ・ジョンソンとソノヤ・ミズノ主演の友情物語『Am I OK?』はHBO Max、アフリカから奴隷として渡った最後の船に乗っていた人々の子孫を追った『Descendant』は、バラク・オバマ大統領夫妻の制作会社ハイヤー・グラウンドがNetflixと共同で配給する。

今年のサンダンスで、おもしろい傾向がある。日本の作品や日本人監督作品はないのに、日本に関連する作品がとても多いことだ。ブラッドリー・ラスト・グレイ監督の『blood』は、日本ロケ作品であり、コゴナダ監督のA24作品である『アフター・ヤン』(2022年公開予定)では、音楽をASKA(アスカ・マツミヤ)が手掛け、坂本龍一小林武史、Mitskiが参加している。黒澤明監督の『生きる』(52)をビル・ナイ主演で英国リメイクしたオリバー・ハーマナス監督の『Living』、普賢岳噴火の火災で亡くなったフランス人火山研究家を描いたサラ・ドーサ監督のドキュメンタリー『Fire of Love』、米系韓国人の冤罪を訴え無罪を勝ち取った米系日系人らのグループのドキュメンタリーであるスー・キム監督『Free Chol Soo Lee』、そして出品が予定されていたミシェル・アザナヴィシウス監督の『カメラを止めるな!』仏語リメイクである『Final Cut』など、日本の姿はなくても、どこかに日本の影を感じる作品が多く揃っていた。

純粋な日本映画が出品されていたのは、2019年に審査員特別賞・オリジナリティ賞を受賞した長久允監督の『ウィーアーリトルゾンビーズ』(19)まで遡る。この“日本周辺ブーム”は、サンダンスが扉を大きく広げて待ちかまえている現れなのではないだろうか。そろそろ日本からもサンダンスに挑戦する作品が出てくることを願う。

文/平井伊都子

2年連続のオンライン開催となったサンダンス映画祭が閉幕(写真は黒澤明監督『生きる』の英国リメイク『Living』)/Courtesy of Sundance Institute.