妻の連れ子で養子縁組をしている娘のAさん(当時14歳)と性交したとして監護者性交等に問われていた父親(年齢、氏名非公開)に対して、横浜地裁(鈴木秀行裁判長)は1月13日、父親に懲役6年の判決を言い渡した(求刑懲役7年)。

法廷では、被害者である娘が「なんてクソな親なんだろうと思いました」と話すほどに、両親の身勝手な発言が飛び出していた。(ライター・高橋ユキ

●他の家族の目を盗んで…

がっちりした体型、モノトーンのブルゾンにデニムというカジュアルな装いの被告人。親の名前が公開されれば被害者である子のプライバシーにも影響がおよぶため、監護者による事件は被告人名はおろか年齢や住所等も伏せられる。

風貌から年代を推測することしかできないが、40〜50代の働き盛りに見える。読み上げられた起訴状によれば、2021年5月に横浜市内の自宅でAさんと性交したとされるが、冒頭陳述からは、その数年前から性的暴力があったことが分かった。

Aさんの母親は、被告人と夫婦になったのち、被告人との間に5人の子をもうけた。被告人は6人の子、そして妻との暮らしの中で、他の家族の目を盗んで、少なくとも2017年以降から、Aさんに性的暴力を繰り返していたという。

●「父から犯されているんですけど」

そして事件当日、被告人はAさんを寝室に呼びつけ、マッサージをするように要求。Aさんの下着の中へ手を入れてから性交に及んだ。のちにAさんが学校へ相談したことから、児童相談所経由で被害が警察に伝わり、逮捕に至ったという。

「今年(2021年)の6月1日の放課後に聞いた。『先生ちょっと話があるんですけど……父から犯されているんですけど……』と話した」(Aさんの学校関係者の調書)

友人にはそれ以前の被害も告白していた。

被告人も起訴事実を認めており、またそれ以前の性的暴力も調書で認めていた。

「本件以外にも性的行為をしていた。体を触るようになったのは、中1の頃。被害者が高校生と交際しているのを知り、嫉妬心が沸いてきた。父親以上恋人未満の気持ちを抱くようになった」(被告人の調書)

●「被害者への独占欲が働いてしまって…」

2021年11月に行われた弁護側被告人質問でも「いけないことだと分かりながらも、僕の、被害者への独占欲が働いてしまって……。自分さえという安易な考えからこういうことになった」と、Aさんを独占したいという気持ちから犯行に及んだと語り、反省の気持ちも示した。

被告人が繰り返してきたのはAさんに対する性的暴力だけではない。Aさんだけでなく他の子に対しても、頭を叩く、体を蹴るなど身体的な暴力があった。さらには妻への暴力も繰り返してきたことが分かっている。妻への暴力は2017年には、通行人が目撃して通報に至ったこともあった。こうした暴力行為の背景には、独りよがりがあったと自ら分析する。

「家族に対しては、自分が間違っていないと思って行動していました……。家族への僕への対応だったり、当時は間違ってないと認識してしまってて、手をあげてしまう時や、口論が絶えないとか、口論で終わらないとき、手をあげたり、そういうところがあったことは、間違いないですし、本当に申し訳ない……」(被告人質問での証言)

粗暴な行為を繰り返してきた被告人だったが、法廷ではしきりに反省を示し、終始小さな声で証言を続ける。妻への暴力を家族が目の当たりにしてしまうことは“面前DV”にあたると弁護人が指摘すると、涙を流しながらこう語った。

「僕も小さい時、両親の喧嘩を見るの、嫌だったんで……こんな思いかと……どういうことなのか、気持ちはよく分かります……当時は自分は間違ってないと思って生活していました……」

●検察官が厳しく追及「なぜそんな欲が生まれる?」

家族を自身の所有物であるかのように振る舞っていた被告人、法廷での涙は本物なのか、検察官が厳しく追及した。

検察官「あなた、今回の事件を起こした理由として『独占欲と支配欲』があったと言っていますが、意味が分からない。なぜそんな欲が生まれるんですか?」

被告人「……なんて言うんですかね……成長に伴い、背を向けられる寂しさ……それで独占欲が芽生え、手を出してしまった……」

検察官「独占欲って言って、結局何をしたかったんですか?」

被告人「……(小さな声で聞こえない)」

検察官「なぜそういう欲求が出るんですか?単なる性的欲求ですよね?」

被告人「違います……」

検察官「なぜ独占欲から性的興奮に繋がるんですかね?」

被告人「……どこか、血が繋がってないという意識あった……」

●「家族だから、一緒に暮らしているからいいだろうと…」

追及は止まらず、畳みかけるように質問が続く。

検察官「犯行から児童相談所に被害者が保護されるまで、どういう気持ちで被害者に接したんですか?」

被告人「後ろめたさ、正直ありましたが、当時は、すごい嫌がられてなかった、っていうのあったので……」

検察官「どういう気持ちですか? 嫌がってなかったら別にいいと?」

被告人「そういうわけではないです……」

検察官「あなた『家族だからハードルが低かった』とも言っていましたね。どういう意味ですか?」

被告人「一緒に生活してる関係で、犯罪意識が低下して、家族だから、一緒に暮らしてるからいいだろうと……」

●妻「被告人と娘、共に一緒に暮らしたい」

Aさんは公判当時、児童相談所に保護されており、他の家族とは離れて暮らしていた。被告人の妻でありAさんの母親が、どこまでAさんを守るつもりなのかも今後重要になる。しかしAさんの母は、被告人の情状証人として出廷し、被告人に寄り添い監督していくと証言した。そのうえAさんと皆で暮らしたいとも語った。

「早く帰ってきて話し合いがしたい。私は何年、何十年後でも一緒に暮らしたい。被告人と娘、共にです。被告人には帰ってきてもらいたいです」

一方で「娘の味方です」とも述べるAさんの母親には、再び検察官が真意を正した。

検察官「あなたも暴力をふるわれてきて、お子さんにも。しかも繰り返されていますよね。どう思ってるんですか?しつけだから構わないと?」

Aさんの母親「思ってません!!」

検察官「逮捕まで被告人の暴力的なところは直ってないんじゃないですか?」

Aさんの母親「いやでも、最近はありませんとは取調べで言いました!」

検察官「悪化してますし全然直ってないですよね。同じ女性としてあなたはどう思ってるんですか?」

Aさんの母親「把握してなかったので!」

検察官「あなたは娘さんの味方と言ってますが、被告人の逮捕当初は『Aさんのほうが嘘をついてる』と言ってましたよね。これはなぜなんですか?」

Aさんの母親「ありえないと思ったからです」

検察官「Aさんが嘘をつく理由はなんだと思ったんですか?」

Aさんの母親「何も言ってくれなかったからです!」

●「なんてクソな親なんだろうと思いました」

こうした両親の証言を、Aさんは検察官席の後ろにある衝立の奥から、被害者参加弁護士とともに聞いていたようだ。昨年12月に開かれた公判の意見陳述では、被害者参加弁護士がAさんの言葉を代読した。

「裁判を見て、なんてクソな親なんだろうと思いました。父だけでなく母にも思いました。私は母との面会で『お父さんが怖い、お父さんがいたら帰れない』と言いましたが、母は尋問で『言ってない』と言いました。なぜ、と思ったし、離婚する考えがないということにもすごく驚きました。おかしくね?

お父さんにも苛立ちました。私やきょうだいに手をあげてきたのに、子供たちが怪我をすることはなかったとも言っていました。いやいや、きょうだいは五針縫う怪我をしています。

母は父に『早く出てきてほしい』と言いますが、私は出てきて欲しくない。もし外で会ったら、何されるかわからない。なるべく長く刑務所にいてほしい」(Aさんの意見陳述代読)

自身も暴力をふるわれていながら、夫に寄り添うと宣言した母親。泣きながら反省を述べながらも、家族への暴力の実態を小さく話す父親。そんなふたりを目の当たりにしたAさんの絶望はいかばかりか。被告人は判決が言い渡された後、一旦は控訴したが、これを取り下げ、懲役6年確定している。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。

「父から犯されているんですけど」妻の連れ子に性的暴行、父親の身勝手な動機とは