「よっぽど悔しかったんでしょうね」そんな風に私が戸惑っていたのは土曜日、マハダオンダ(マドリッド近郊)でアトレティコの練習を見た後、帰りのバスの中でシメオネ監督の記者会見ライブ配信を聞いていた時のことでした。いやあ、確かに昔、「Xavi decía que el fútbol del Atlético no era para el estilo de los equipos grandes como Barcelona/チャビ・デシア・ケ・エル・フトボル・デル・アトレティコ・ノー・エラ・エスティーロ・デ・ロス・エキポス・グランデス・コモ・バルセロナ(チャビは、アトレティコサッカースタイルはバルサのようなビッグチームのスタイルではないと言った)」というのは、自分にも薄っすら記憶があったんですけどね。

それを「2016年のウニベルソ・バルダーノ(バルダーノ氏の世界というTV番組)の中で」と、シメオネ監督がいつどこでの発言だったのかまで特定していたとなれば、これは相当、根に持っている?ちなみに日曜午後4時15分(日本時間翌午前0時15分)から、カンプ・ノウでアトレティコを迎え撃つチャビ監督は、うーん、冬の市場でフェラン・トーレス(マンチェスター・シティから移籍)、アダマ・トラオレ(ウォルバーハンプトンからレンタル)、オバメヤング(アーセナルとの契約を解除)ら、3人もFWを獲得。契約延長をせずに居残ったため、シーズン残りはずっとベンチ外になるかと思われていたデンベレまで、戦力にできるのが自慢だったんですかね。

性懲りもなく、「No sería el estilo del Barça/ノー・セリア・エル・エスティート・デル・バルサ(バルサのスタイルではない)。ウチのファンは11人が自陣に引いて、エリア内で守るようなサッカーを理解してくれないだろう」と繰り返していましたが、大丈夫。だってえ、またしても私がグラウンドの外から覆い越しに伺っていたセッションでは、いやまあ、その日は40分間と極端に短いものだったんですけどね。昨年11月のバレンシア戦以来、リーガでゴールを挙げていないルイス・スアレスウルグアイ代表の2連勝に2得点で貢献したのが励みになったか、古巣に恩返しようとガッツリ、シュート練習に励んでいましたし、シメオネ監督から先発予告が出ていたジョアンフェリックスにもコーチたちから、「Bien, Joao!(ビエン、ジョアオ/いいぞジョアン)」という誉め言葉が何度も。

シメオネ監督就任前の2006年2月以来、カンプ・ノウで勝っていないアトレティコとはいえ、ここ5試合では3勝2分けと圧倒していますし、この中南米代表W杯予選のparon(パロン/リーガの中断期間)のおかげでヴァス(バレンシアから移籍)やレイニウド(同リール)、2人の新顔も十分、チームに馴染む時間が取れましたからね。グリーズマンマルコス・ジョレンテ、コンドグビアはまだリハビリ中とはいえ、今のアトレティコは決して引きこもっているだけのチームではなし。大体、昔そうだったのだって、「人生で1つのシチュエーションでしか過ごしたことのない者は他の状況がわからない」とシメオネ監督も苦言を呈していたように、アトレティコにはバルサのような華麗なパスサッカーができる選手がいなかった故の選択だったとなれば、一体、誰に文句がつけられる?

まあ、その辺はCL出場圏4位が懸かった日曜の試合で白黒はっきりつけてくれればいいんですが、とりあえず、ミッドウィークの報告もしておかないと。今週はまたコパ・デル・レイがあって、マドリッド勢はまず、水曜に弟分のラージョがマジョルカとの準々決勝をエスタディオ・バジェカスでプレー。それがどういう訳か、スタジアム入りするチームを大人数でbengala(ベンガラ/発煙筒)まで焚いてお出迎えし、マリオスアレスが感謝の言葉をメガフォンで伝えるまでの盛り上がりを見せていたブカネーロスが、その日に限って、グループ名の入ったシャツやマフラー、太鼓や旗などの持ち込みをクラブから禁じられたのだとか。おかげで前半30分ぐらいまで、fondo sur/フォンド・スール(ゴール裏南側席)には人っ子1人いないって、あまりにコパ準々決勝を舐めすぎじゃない?

ようやくハーフタイム近くになって、全員、上半身裸で雪崩込んできたんですが、そのせいで前半の大部分、場内は「皆、ピッチ以外のことばかりを気にしていたようだった」(イラオラ監督)という異様な雰囲気に。スタンドの他の部分に座ったファンも恒例のカンティコ、「Presa vete ya/プレサ・ベテ・ジャー(プレサ会長、出て行け)」や「Bukaneros/ブカネーロス」ばかりを唱和していたせいか、選手たちも集中できなかったんでしょう。大したチャンスもなかったんですが、ウルトラたちが定位置についた後の43分、敵エリア内でアルバロ・ガルシアがルッソに倒され、ラージョはPKをゲット。

トレホが決めたこの1点がモノを言い、後半残り10分にはマジョルカも当日、日本からマドリッドに着いたばかりの久保建英選手まで投入して反撃したものの、辛くもラージョは1-0で勝利。コロンビア代表からの帰還が間に合わなかったファルカオ抜きで、40年ぶりの準決勝進出を勝ち取ったとなれば、もちろん、試合後は選手全員がスタンドを前にして並ぶ中、「La vida de pirate/ラ・ビダ・デ・ピラタ(海賊生活)」をファンたちが歌って、恒例のお祝いで幕を閉じましたっけ。

ただ、諸手を挙げて喜べないのは、イラオラ監督も週末のセルタ戦が日曜から土曜に繰り上げられたことに文句を言っていたんですが、苦手のリーガのアウェイでラージョはブライス・メンデスに2発を浴びて2-0と敗戦。降格圏とは勝ち点差13あるとはいえ、一時はEL出場圏内だった順位が徐々に下がっているせいなんですが、それでも金曜の抽選会では監督の希望通り、来週水曜の準決勝ベティス戦1stレグをホームで開催できることになりましたからね。昨季の昇格プレーオフ準決勝レガネス戦、決勝ジローナ戦、どちらもバジェカスで先に戦って、見事、1部復帰を達成した彼らですし、コパに優勝したってELには行けるんですから、今度こそ、ファンもキックオフから全力の応援をしてくれるといいのですが。

そして翌木曜には兄貴分のレアル・マドリーがサン・マメスでアスレティックとのコパ準々決勝に挑んだんですが、アトレティコが16強対決で負けたレアル・アレナでレアル・ソシエダに0-4と大勝したベティスは例外で、やっぱり一発勝負だと、ホームチームが有利なんですかね。まだ負傷のリハビリ中だったベンゼマを使えなかったこともあり、「Vinicius y Rodrygo tienen 20 años, no 60 como yo/ビニシウス・イ・ロドリゴ・ティエネン・ベインテ・アーニョス、ノー・セセンタ・コモ・ジョ(ビニシウスとロドリゴは20才、60才の私のようではない)と、ブラジル代表帰還組2人の体力を過信したアンチェロッティ監督も悪かったんですが、CFにヨビッチではなく、falso nueve/ファルソ・ヌエベ(シャドーCF)にアセンシオを入れた前線が、まったく点を取れないんですから、困ったもんじゃないですか。

メンディのケガ、マルセロの出場停止処分でアラバが左SBに移ったのもマズかったようで、前半は散々、19才のウィリアムス弟に苦しめられたマドリーでしたが、そのニコが43分に全力疾走からtaconazo(タコナソ/ヒールキック)でのパスという負荷のかかるプレーをして負傷。残り2分を10人で凌いだマルセリーノ監督は、0-0のままで始まった後半頭からベレンゲルを入れたんですが、災い転じて福とはまさにこのことでした。

いえ、ビニシウスは15分に、クロースは30分にガソリン切れとなって、それぞれ、イスコとカマビンガに代わっていたんですけどね。まさか、「Estaba pensando cambios para la prórroga/エスタバ・ペンサンドー・カンビオス・パラ・ラ・プロロガ(延長戦での交代を考えていた)」アンチェロッティ監督がそれ以上のカードを切らずにいたところ、44分になって、ベレンゲルにゴールを決められてしまったから、さあ大変!それも2度、3度とマドリーが自陣エリアからのボールクリアに失敗した後、最後はやはり、ブラジル帰りのカセミロがベスガにパスを奪われ、アシストを許してしまってはねえ。実は彼にはその10分程前、フリーのシュートをGKアギレサバラに弾かれ、先制点のチャンスを逃すという負の巡り合わせも。

結局、この日は根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)モードも発動せず。ベイルアザールも出番のないまま、1-0で負けてしまったとなれば、準決勝以外、全て一発勝負の対戦方式になって以来、1度もサンティアゴ・ベルナベウでコパの試合を見ていないマドリーファンから、アンチェロッティ監督の采配ミスを批判する声が上がったのも当然だった?

いえまあ、今季はアスレティックにリーガ2試合、スペイン・スーパーカッフ決勝と3連勝しているとはいえ、その勝因はベンゼマの4得点でしたからね。その彼が出られないのでは、こういう結果も仕方ないところがあるんですが、予断を許さないのは、この日曜午後9時(日本時間翌午前5時)からのグラナダ戦。というのもマルセロは戻るものの、ベンゼマがまたお休みだからで、何せ、それこそ彼が負傷交代したエルチェ戦では、直前にはコパ16強対決で勝利した相手に2-2と引分けていますしね。同様に1部残留が目標のグラナダには、お隣さんもアウェイとはいえ、12月に2-1の惜敗という痛い目に遭っているとなれば、たとえ、ホームゲームとはいえ、決して油断はできないかと。

ちなみにアスレティックの方は来週木曜のコパ準決勝で、メスタジャでウーゴ・ドゥーロが決勝ゴールを挙げて、カディスを2-1で下したバレンシアと当たるんですが、え?今のヘタフェは、ボルダラス監督が河岸を変えたのも、ドゥーロがレンタル移籍してしまったのも全然、痛くも痒くもないんじゃないかって?いやあ、その通りでシーズン前半は降格圏にどっぷりはまっていたマドリッドのもう1つの弟分は、まあ、コパこそ、2回戦でアトレティコ・バレアレス(RFEF1部/実質3部)に5-0で負けるという、情けない早期敗退ぶりだったものの、一足先の金曜にプレーしたリーガ23節でホーム4連勝を達成。

最下位のレバンテをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎えたその試合ではキックオフ前に花火まで上がり、平日開催にも関わらず、ファンがムードを盛り上げてくれたおかげもあったんですかね。何と開始43秒にはアランバリの蹴ったCKをエネス・ウナルがヘッドで叩き込み、速攻で先制点を挙げたかと思えば、29分にもオリベイラのパスを受け、エリア前でクルリと回って、見事なgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を入れてくれるんですから、まったく有難い。期待されてビジャレアルから加入した昨季は5得点で終わった彼ながら、今季はもうリーガで9ゴールも挙げていますからね。キケ・サンチェス・フローレス監督も「El acierto también se entrena/エル・アシエルトー・タンビエン・セ・エントレナ(シュート精度も鍛錬できる)」と言っていたように、まさに地道な練習の賜物だったかと。

更に後半ロスタイムには交代で入ったボルハ・マジョラル(ローマからレンタル)がアレニャにアシストして、最後は3-0で快勝したヘタフェだったんですが、唯一、残念な点があるとすれば、後半15分にオスカル(同セビージャ)と代えようとした矢先にオリベイラが脚を、40分にはGKダビド・ソリアが空中戦の接触プレーで肩を痛めて、どちらも負傷交代になってしまったことですが、やっぱりマドリーより、休みが1日多いのが良かったんですかねえ。というのも試合前、キケ監督が「オリベイラ、ダミアンアランバリは1回しか練習できなかった」と文句を言っていたのはどうやら、ヘタフェが各国代表選手の取り扱いに不慣れだったせいで、実はウルグアイ代表勢はラ・リーガのチャーター便で水曜午後にはマドリッドに到着。

それがわかっていたマドリーアトレティコはその日の練習を夕方にして、バルベルデは午後5時のバルデベバス(バラハス空港の近く)でのセッションに間に合わなかったものの、午後6時からだったルイス・スアレス、ヒメネスなど、マハダオンダで自転車漕ぎをしていたんですが、ヘタフェは午前中にやっちゃいましたからね。おかげで木曜しか、3人には練習機会がないまま、先発したというオチなんですが、この辺の学びは3月の代表戦週間の後に役立てくれたらいいかと。

そう、この勝利で降格圏と勝ち点差7をつけたヘタフェはコンフェレンスリーグ(今季から始まったUEFA第3の大会)出場権のもらえる7位のビジャレアルまでも同じ7差に。キケ監督も「el equipo solo piensa en seguir escalando y subiendo/エル・エキポ・エオソ・ピエンサ・エン・セギール・エスカランドー・イ・スビエンドー(チームは順位を上げていくことだけを考えている)」と言っていましたしね。首位と勝ち点差15あるバルサが逆転優勝を諦めていないのを見れば、もう世の中、何でもありかと思いますが…とはいえ、次節がワンダメトロポリターノでの兄弟分ダービーというのはちょっと、私も応援しづらいところでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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