池松壮亮伊藤沙莉がW主演を務め、松居大悟がメガホンを取った『ちょっと思い出しただけ』が、2月11日(金)より公開される。男女のほろ苦い恋愛模様を描いた本作は、第34回東京国際映画祭観客賞とスペシャル・メンションをW受賞、MOVIE WALKER PRESSが開催した試写会でも、観客から高評価が相次いだ。

【写真を見る】池松壮亮×伊藤沙莉『ちょっと思い出しただけ』に、かつての恋を思い出す人が続出…!

「ふといろいろなことを思い出すことができるステキな作品」(30代・男性)

「余韻がすごい。ありふれた日常でもこんなに美しく描けるなんて」(30代・女性)

など絶賛の声が数多く寄せられている本作の魅力を、一足早く作品を鑑賞した観客のコメントからひも解いていきたい。

■思わず引き込まれる、巧みな時間構造の妙

『私たちのハァハァ』(15)、『くれなずめ』(21)など、若者たちの青春模様を題材とした作品を作り上げてきた松居大悟監督にとって初の恋愛映画となった『ちょっと思い出しただけ』。足のケガでダンサーになることを諦めた照明スタッフの照生(池松)と、タクシードライバーとして働く葉(伊藤)の6年間が綴られていく。

2021年7月26日、夢を諦めステージ照明スタッフをしている照生は、34歳の誕生日もいつも通りダンサーに照明を当てている。一方、タクシー運転手の葉は、ミュージシャンの男を乗せ、夜の東京を走っていた。その途中、トイレに行きたいという男を降ろした葉は、どこからか聞こえてくる足音に吸い込まれるように歩いて行く。するとそこには、ステージで踊る照生の姿があった…。

「『ちょっと思い出しただけ』というタイトルが絶妙だと思いました」(40代・女性)という言葉通り、ヒロインの葉がふとしたきっかけで過去へ思いを巡らせるところから本作は幕を開ける。ユニークなのが、時系列をさかのぼりながら、照生と葉の過ごした日々が映しだされていく点だ。

別れた後の日常から、ケンカによる別れ、冗談を言い合うさりげなくも幸せな瞬間、出会った日…と、照生の誕生日である7月26日を1年ずつ逆行する構造で物語が展開していく。

「2人の別れから始まる映画は新鮮でした」(20代・女性)

「少しずつ出会った時に戻り、一つ一つの思い出をよみがえらせていて、こんな風に思い出せる人生を歩みたいと思いました」(20代・女性)

「時をさかのぼるごとにどんどん美しく輝く思い出になっていき、簡単に悲しめなくて苦しくなりました」(40代・男性)

「自然な会話劇と、どんどん過去にさかのぼっていく展開がおもしろかった」(20代・女性)

昔を懐かしむ葉の頭のなかとシンクロするような物語の組み立て方には、新鮮さやおもしろみを覚えたり、心を揺さぶられたりしたという人も多かったようだ。

「男女の別れを時間がさかのぼっていくことで描き、最後にすべてがつながり、満足した」(30代・男性)

「誕生日だけで、出会いから別れ、現在までの6年間を映しだしており、とてもおもしろかった。何度も観ることで様々な発見があると感じる作品でした」(30代・男性)

「ストーリーが進むにつれて、なるほどと思うところがどんどん増えて、最後の歌詞までもつながっていたので、改めてまた観たい。過去に戻っていくという発想がすばらしい」(40代・女性)

2人の6年間の思い出をさかのぼっていくという見事な描き方には、観返したくなるといったコメントも多数寄せられていた。

■過去を思い出す人も続出の日常的な恋愛模様

そんな本作は、クリープハイプの尾崎世界観がジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)に着想を得て作った楽曲「ナイトオンザプラネット」を基に、松居監督が書き上げたオリジナルストーリー

『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、5つの都市を舞台にタクシードライバーと客が織り成す、ありふれているがどこかおかしい悲喜こもごもの人間模様が題材の1作。この名作が根底にある『ちょっと思い出しただけ』もまた、日常や恋愛の機微がリアルかつユーモラスに描かれている。

誰もが経験したことのあるような恋愛の喜びや痛みが、さりげなくちりばめられているだけに、思わず過去を思い出したという人も多かったようだ。

「一緒にケーキ食べるシーンは昔の恋人とあんなシーンがあったなと思い出した」(30代・女性)

「タクシーの中でのケンカのシーン。自分の気持ちをお互いにぶつけることしかできなくてすれ違っていくところで、同じような経験をちょっと思い出しました」(30代・男性)

「何気ない日常だが、皆、過去に戻れないことを実感した」(30代・女性)

「観たら甘酸っぱいけど、思い出したらほろ苦い」(30代・女性)

「言葉で伝えないとわかり合えない。若い時は気恥ずかしかったり、見栄を張ったりして、素直に伝えられないこともありました」(40代・女性)

また、本作はコロナ禍の描写を筆頭に、時代性にこだわった1作。マスクやタクシーの飛沫防止用シートといったアイテム、タクシーの形の変化など、いまではすっかり日常となったコロナ禍での生活から、コロナ以前の生活まで丁寧にさかのぼっていく。そんなさりげない描写にも「コロナ禍になる前を思い出しました」(10代・女性)という共感も寄せられていた。

池松壮亮×伊藤沙莉×松居⼤悟が見せた新たな魅力

効果的な構造や親近感を覚えるストーリーに加え、作品にグッと引き込ませる大きな要因がキャストたちの自然な芝居だろう。例えば、夢を諦めた元ダンサーという独特の雰囲気を持つ役を演じた池松は、ダンスシーンでの抜群の身体表現やさりげない表情、声色で心情を見事に浮かび上がらせている。一方の伊藤も、いきなり踊りだすなど感情をダイレクトに表現する葉を大胆かつ繊細に体現しており、2人の演技の巧みさには、以下のような言葉が集まっていた。

「池松さんは役というより素で演技されているような気がしました。すてきでした」(20代・女性)

「踊っている池松さんもステキですが、タクシーで葉ちゃんに告白するシーンがたまりません」(30代・女性)

「役が伊藤さん自身ではないかと思ってしまうくらいハマっていてすてきでした」(10代・女性)

「演技力が高く、引き込まれた。前半の笑わないところ、後半笑顔が増えていくところの移り変わりがすばらしかった」(30代・男性)

「素直な気持ち、本音での行動、道はわからなくても歩もうとする思いが、ある種フツウの女性として共感できた」(30代・女性)

さらにまったく同じタイミングで笑いおどけ合う様子からケンカでの気まずい空気感まで、恋人同士という役柄をナチュラルに体現した2人の抜群のアンサンブルを称える感想も見られた。

「池松さんと伊藤さんの声とお芝居、雰囲気がとてもよかった。2人の世界観に一緒に連れていってもらったようないい時間を過ごせた」(20代・女性)

「本当に心に響くすてきな作品でしたが、お2人のアドリブ?セリフ?見分けられないほどの自然な演技に感動の2時間でした」(30代・女性)

また、そんな役者陣の魅力的な演技を引き出している松居監督には「ヒロインをかわいく見せる、心に残る恋愛映画と言えば松居監督だと思っています。いつも池松さんの新たな魅力を引き出してくれます」(30代・女性)、「男性の色気を引き出すのがいつも上手い!」(30代・女性)と演出に対するコメントも。

さらに「時間軸の使い方や音を大切にする部分が松居監督らしいと感じました」(20代・女性)、「現在から過去にさかのぼるところ、そして現在に戻るところや間を大切にしているところに松居監督らしさを感じた」(30代・男性)など、多くの人がその手腕を称えていた。

昔を振り返るようなほろ苦い恋愛映画が、このところ多く作られているなか、オリジナリティがありながらも、しっかりと共感もできる稀有な1作となっている『ちょっと思い出しただけ』。劇場で鑑賞して「せつないけどあったかくて、リアルで、幸せな気持ち」(20代・女性)を味わってみてはいかがだろうか。

構成・文/サンクレイオ翼

リアルな恋人の日常を描いた本作に、観客も「ちょっとしたシーンも、いろいろ思わせてくれた」/[c]2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会