中国に対する韓国人の反感が北京五輪を機に爆発している。

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 北京冬季五輪の開幕式で韓国の伝統衣装の韓服(ハンボク)と韓国文化が中国少数民族の文化として紹介する映像が流されたことや、韓国選手の金メダルが期待されていたショートトラック競技で釈然としない判定が相次いだことが、韓国社会の反中情緒に油を注いだ。韓国社会に燃え広がったこの反中感情は、1カ月も残っていない大統領選挙で、与党の李在明(イ・ジェミョン)候補にとって大きな悪材料となりそうだ。

中国選手の前を行く選手が次々失格に

大統領選挙は韓中戦!」。これは、7日夜、北京冬季五輪ショートトラック男子1000メートルの競技が終わった直後、韓国のオンライン上で熱く盛り上がったスローガンだ。

 同日の試合では、韓国男子ショートトラックの看板スターの黄大憲(ファン・デホン)と李俊瑞(イ・ジュンソ)が釈然としない判定で決勝戦にも立てなかった。黄大憲と李俊瑞は準決勝の別の組で登場し、それぞれ1位、2位でゴールしたが、審判がビデオ判定を通じて二人とも失格処分としたからだ。黄の失格によりその組では中国の2選手が、また李の組ではハンガリーと中国の選手が決勝に進出した。

 決勝戦でも波乱が起きた。1位でゴールしたハンガリーの選手が審判のビデオ判読の結果、進路妨害で失格とされ、2位と3位でゴールした中国選手がそれぞれ金メダル銀メダルを獲得する結果となったのだ。

不可解判定に韓国のネットが騒然

 この結果を見て、多くの韓国人は感情を爆発させた。「公正でない試合」と認識され、インターネット上にはショートトラック男子1000メートルを「公正ではない試合」とするコメントや、北京冬季五輪をあざ笑うような書き込みが続出した。

「今回、新しくできたオリンピックルールです! 中国選手を追い抜けば失格、中国選手にタッチされたら失格・・・韓国は失格!」

「襟が触れ合ったら失格、隣にいるだけで失格、同じ組だから失格、オリンピック失格パーティー!」

「これが東京オリンピックで発生したものならこうなっていただろう。駐韓日本大使に抗議→不買運動突入→市民団体の登板・・・」

 怒りを抑えきれなかった「ソウル新聞」の某記者はオンライン版の記事で、「いっそう、開催国の中国に金メダルを全部持たせてあげよう」という文章を10回繰り返して本文を満たした記事を掲載し、その後削除されるというハプニングも発生した。

 韓国の代表的な保守系メディアの「朝鮮日報」は8日付の朝刊で、1面上段に金メダルを取った中国人選手がハンガリー人選手の腕を引っ張る写真を掲載し、「これでも中国は金」という見出しの記事で審判の判定に疑問を示した。

 進歩メディアの「京郷新聞」も8日付の朝刊スポーツ面のトップ記事で、「中国選手と風が触れただけで失格、懸念が現実になった」という記事を掲載した。

 沸き立つ反中感情に政治家も賛同している。「共に民主党」の大統領候補・李在明氏はショートトラック競技の終了直後、フェイスブックに「不公正判定に失望と怒りを禁じ得ない」「韓国選手たちは落ち込まないでほしい。実力で最後まで最善を尽くした韓国選手団の皆さんが真の勝者」と書いた。

 李在明選挙陣営の対策委員長を務める宋永吉(ソン・ヨンギル)党代表もフェイスブックを通じ、「五輪精神はどこかへ行ってしまい、偏った判定だけが残ったのか」「北京冬季五輪が中国の国内スポーツ大会だと批判されないためには公正な審判が重要だ」と発言した。ほかにも、李在明陣営の選対委関係者たちは、先を争って中国を非難した。

「奪われたメダルで喜ぶその厚かましさに身を震わせる」「全世界が怒っているのに、中国だけが気づかない」「五輪ではなく中国運動会」「無鉄砲な判定は中国という国の威信を墜落させるだけ」

「五輪精神を無視するレベルを超えている」

 一方、「国民の力」尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補の選挙キャンプ関係者も一斉に中国を非難した。

「五輪精神を無視するレベルを超え、中国という国の国格を疑わせる破廉恥な行動」「これがスポーツ精神で五輪精神なのか。自分たちだけで全国体育大会でもしろ」

 尹錫悦候補自身も、8日午後に記者団に会った席で、「韓国選手の怒りと挫折に深く共感する。しかし韓国選手のオリンピック精神とスポーツマンシップは偉大なものであり、韓国選手が元気を出して最後まで最善を尽くしてほしい」と語った。

韓国世論、「反日」よりも「反中」に

 政治家が国民の怒りに素早く反応するのは、日々高まる韓国内の反中情緒が、来る大統領選挙に影響を及ぼす可能性が濃厚になってきたためだ。

 2021年5月、世論調査機関の韓国リサーチは、韓国の成人1000人を対象に、周辺国に対する韓国人の感情温度を調査した。「非常に好意的」を100、「非常に否定的」を0にした場合、韓国人の感情温度は、米国が57.3、日本28.8、北朝鮮28.6、中国26.4の順だった。反日感情が高まった2019年下半期の同調査では、中国が35.6、日本が21.0だったのだが、それが2年ぶりに逆転したのだ。年齢別にみると、20代が15.9で中国に対する反感が最も強く、60代以上が31.8で最も弱い。

 経済専門誌『毎経エコノミー』が同時期に調査した「反中感情認識アンケート調査」によると、回答者86%が「最近、韓国社会で反中感情が大きくなっている」と答えた。

 韓国で中国に対する反感が本格化したのは、武漢市が発生源とされる新型コロナが決定的だった。さらに、韓国史の一部である高句麗を中国の歴史に編入しようという試みが含まれた中国政府の「東北工程プロジェクト」も、韓国人の怒りに火をつけた。

 まだある。キムチの元祖は中国のパオチャイ、韓服の元祖は中国のハンプ、イギリスプレミアリーグで活躍している韓国が生んだ世界的なサッカープレーヤの孫興民ソン・フンミン)の祖先は中国人――などといった韓国の文化や優れた人物を盗み取るような主張がすでに中国の一部で提起されている。

訪中した文在寅大統領への冷遇も「対中感情悪化」の要因

 文在寅政権の「親中外交」も韓国人の反中感情を刺激してきた。

 米中間の対立が尖鋭化する中でも、文在寅政権の外交スタンスは「経済は中国、安保は米国」という“バランス外交”を原則にしている。

 それなのに、2017年文在寅大統領が訪中した際には、屈辱的な待遇で迎えられた。文大統領は中国訪問中に10回の食事の機会があったが、うち8回は「ひとり飯」という有様だったし、さらに随行記者が中国側警備員に暴行を受ける事件まで発生した。こうまで冷遇されても、北京大学での演説では「中国は大きな峰、韓国は小国だ」と中国を称賛してみせた。

 韓国国民の屈辱は続いた。このような待遇を受けながらも訪中を成功させるため、文在寅政府は「THAAD追加配置をしない、米国のミサイル防衛システム〈MD〉体制に加わらない、韓米日軍事同盟を締結しない」の「三不」を約束した事実が明らかになったのだ。この時、韓国国民のプライドはズタズタにされた。

ここにきて李在明候補にさらなる逆風

 文在寅政権を継承しようとしている李在明候補も、大統領に当選した暁には、THAAD配置に反対し、三不政策を堅持するという立場を明らかにしている。2017年民主党大統領候補の党内選挙に出馬した際、李在明氏は中国国営CCTVとのインタビューで、「THAAD配置が韓国の国益を害するので廃棄する」「韓国は、中国との関係を強化し、戦略的パートナー関係に格上げすべきだ」などの主張を展開した。数日前のテレビ討論会でも「中国と経済協力関係のためには三不政策は維持されなければならない」などと発言している。

 一方、野党「国民の力」の尹錫悦候補は、親米・親日的な外交スタンスを強く表わしている。北朝鮮ミサイル挑発が続くと「THAAD追加配備」を公約に掲げ、数日前のテレビ討論会では「大統領になったら、一番に米国を訪問し、二番目に日本を訪問する」とし、対米・対日外交を優先するという立場を示した。

 昨年4月に行われた総選挙当時に、共に民主党は「悪化した韓日関係が選挙に有利」という内部レポートを作り、「総選挙は韓日戦」というスローガンを掲げた。共に民主党の候補は各地で、国民の力候補を「土着倭寇」(日本の肩を持つ売国奴)と追い込み、ついには国会議席の過半数を上回る180議席を獲得した。

 だが、投票日まで30日を切った今回の大統領選挙では、反日感情ではなく、反中感情が勝敗を分けることになりそうだ。韓国メディアでも、韓国民の反中感情が親中政策を続けてきた文政権や李在明候補に対する反感となり、国民の力に有利に働くだろうと分析している。

 北京五輪を契機に「大統領選挙は韓中戦」というスローガンがインターネット上で急速に広がり、李在明候補側は緊張を隠せなくなってきた。おそらく、国民の怒りを選挙に利用して大勝利を収めた自らの経験が頭の中にあるからであろう。

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2月7日に行われた男子ショートトラック1000メートル準決勝で、先頭を行く韓国の黄大憲がそのままトップでゴールしたが、その後のビデオ判定の結果、失格とされ、中国の任子威と李文竜が決勝に進出した(写真:ロイター/アフロ)