オリジナルサウンドドラマ『メゾン ハンダース』は、それぞれ異なるフィールドで奮闘する若きクリエイター6人が集うシェアハウス「メゾン ハンダース」を舞台に繰り広げられる物語。ライブストリーミングプログラム「MixBox」やYouTube、ニコニコチャンネル「メゾン ハンダース<共用リビング>」で配信されており、楽曲やグッズなども展開されている。

【まらしぃ×堀江晶太×yuxuki waga シェアハウス談義から令和音楽への本音を語るの画像・動画をすべて見る】

登場人物は、駆け出しの声優・折川悠李(CV:仲村宗悟さん)、クールな作曲家・峰岸忍(CV:増田俊樹さん)、オラついた配信者・加賀谷晴輝(CV:古川慎さん)、気弱なアニメーター・四ノ森明希人(CV:西山宏太朗さん)、毒舌な脚本家・郡司薫(CV:斉藤壮馬さん)、ひとくせありそうなオーナー・佐山正宗(CV:江口拓也さん)の6人だ。




つくりたいものと求められるものの乖離、譲れないものがあるがゆえの共感と反発、創作という華々しくも苦難の道へ挑む彼ら。その物語は、第2弾主題歌「六色(むついろ)」と第14話挿入歌「結晶」を手がけた音楽クリエイターたちが共感するほどのリアリティを持つ。

国内外で人気のピアニスト/作曲家として活躍するまらしぃさん、PENGUIN RESEARCHベーシストでありボカロPkemuとしても知られる音楽家堀江晶太さん、fhánaのギターとして活躍するサウンドプロデューサー・yuxuki wagaユウキワガ)さん。

若きクリエイターたちの苦悩や喜びに、3人はいかにして心を寄せたのか。2022年2月23日に発売されるCDに収録される第2弾主題歌、そして第14話挿入歌を担当した3人の座談会を通じて、普段はあまり言葉を交わさないという楽曲へのこだわりや、クリエイターとしての矜持を聞いた。



取材・文:オグマフミヤ 編集:恩田雄多 撮影:寺内暁

『メゾン ハンダース』のようなログハウス構想



──今回は第2弾主題歌の「六色」と第14話挿入歌の「結晶」の作詞作曲を担当されたまらしぃさん、それぞれの編曲を担当された堀江晶太さんとyuxuki wagaさんに集まっていただきました。今までこうして集まることはあったのでしょうか?

堀江晶太 僕とまらしぃくんはもう10年来の友人です。wagaさんはお互いバンドをやってるのでイベントとかで顔を合わせますし、レコーディングにお互いプレイヤーとして参加することもあります。でも3人で集まるのは初めてかな。それぞれに会うのも結構久しぶりです。

──取材の前から会話に花が咲いていたようですが、クリエイター同士が集まるとどういう会話になるのでしょう?

まらしぃ クリエイター同士だからといって特別なことはなく、普通に近況報告とかですよ(笑)。

yuxuki waga 堀江くんのマイブームの話。

堀江晶太 そう、最近ログハウスブームがきてる

──ログハウスブーム?!


堀江晶太 一番インドアだった自分がまさかそうなるとは思ってなかったんですけど、最近家にいることが多くて何かできることはないかと考えた結果、「そうだ! 別荘だ!」と。

まらしぃyuxuki waga (笑)。

堀江晶太 クリエイターは家にひきこもりがちなんですよ。20代のうちはそれでもよかったんですけど、最近週の何回かは朝日と共に起きて、日没と共に仕事を終えるみたいな生活ができたら最高だなと考えるようになって。

最終的にはスタジオ機能を備えた別荘をつくって、クリエイター仲間で集まれるのが理想です。その実現のために、最近は週末とかにせかせか作業をしている……という話をしていました(笑)。



──期せずしてクリエイター同士がシェアハウスをする『メゾン ハンダース』に繋がるお話ですね。早速楽曲についてもうかがっていければと思います。

まず第14話挿入歌「結晶」は、駆け出しの声優・折川悠李と作曲家・峰岸忍が高校時代に影響を受けたバンドの曲という、なかなか珍しい立ち位置の楽曲です。作詞作曲のまらしぃさんと編曲のyuxuki wagaさんは、それぞれどのようなイメージで制作されたのでしょうか?

まらしぃ 僕は作品の背景やそれぞれのキャラクターに寄り添って制作するのが好きなので、「結晶」においてもそれは意識しています。

悠李と忍が影響を受けた曲という意味では、厳密には本人たちの曲ではないので確かに特殊な立ち位置の曲ではある。でも、僕もそうやって特定の一曲に大きな影響を受けることがあるタイプの人間なので感情移入はしやすかったですし、楽しく制作できました。

yuxuki waga コンセプトを見た時点で青春感のある熱い楽曲にしたいというイメージは浮かんでいました。

でもまらしぃさんからいただいたピアノと歌のメロだけの音源が、もうアレンジの完成形が見えてしまうほどに素晴らしいものだったんです。僕としてはその完成形を目指してつくり上げていくだけでしたね。

──制作の時点で互いにイメージは共有するものなのでしょうか?

まらしぃ それぞれの分野で活躍するクリエイターが集う『メゾン ハンダース』のようにではないですけど、僕は僕の領域で力を発揮して、アレンジはもうwagaさんにお任せです。

それぞれが自分のフィールドで出せる色を出した方がいいなと思ったので、アレンジに関して僕から何かオーダーをすることはありませんでした。

yuxuki waga この曲は『メゾン ハンダース』の楽曲でありつつ、まらしぃさんのことが好きな人も聞く曲だとも思いました。なのでピアノを活かすアレンジにしつつ自分の色も重ねたくて、まずはそのテイストを盛り込んだ上でワンコーラスをお送りしたんです。

そしたら直接のやり取りはなかったんですけど、僕のほしかったフィードバックをどんどんくれたんですよ! なので言葉の上でなにかやりとりはなかったんですけど、音でコミュニケーションしている感じはすごく楽しかったです



まらしぃ 僕の方こそこういうアレンジにしてほしいなって思っていたのがバッチリ反映されていたので、すごく嬉しかったです。

でもサビでギターのリフが鳴ってるフレーズとか僕の想像を越えてくる部分もあって、イメージ通りではあるけど、そこからさらにwagaさんの色や個性が見えるような感じに仕上げてくださったのが本当に感激でしたね。

yuxuki waga そもそもピアノ単品でもいけちゃうくらい素晴らしい楽曲だったので、アレンジするのはかなりプレッシャーだったんですよ

素材の味をなくしてはいけないし、いい感じに仕上げなきゃって。でもバンドサウンドにしようとすると、入れざるを得ないギターの音って鍵盤の音を殺しがちなので、そこのバランスを考えるのはかなり苦労しました。

──その点は第2弾主題歌「六色」の編曲を担当された堀江さんも同じく苦労された部分なのでしょうか?

堀江晶太 ピアノってリズム的なアプローチもできるし和音も鳴らせるしで、ひとつでなんでもできる万能な楽器なんですよね。だからピアノを中心に据えてしまうと他の楽器を合わせるのが難しくなってしまう。

せっかくまらしぃくんがつくった曲なのでピアノを活かすのが正解だろうとは思うものの、それを活かしながら外堀をいかに埋めるかはアレンジャーの腕の見せどころだったりします。

ピアノを美味しく活かそうっていうマインドは僕も同じだったんですけど、wagaさんの場合はそこにギタリストとしての目線が加わっていて、ロックに仕上げたのが面白かったです。

まらしぃくんが弾いたピアノの旋律という素材を、どう活かすかに工夫を凝らすという点では同じなのに、出来上がりは全く異なっている。同じ素材で腕を競っている料理ショー的な感じで、アレンジの面白さを改めて感じましたね

作家同士のバトンパスは楽曲で十分



──「六色」は作品における主題歌ということで6人全員が歌唱する楽曲です。美しいピアノの旋律が印象的で、透明感のあるポップソングですが、どのようなイメージで制作されたのでしょうか?

まらしぃ 「六色」はみんなの曲というか、『メゾン ハンダース』の曲って色が強くなると感じていたので、作品のコンセプトであるモノづくりの苦悩や喜びを出せるように意識しました。

僕はずっと一人で部屋の中で創作してきた人間ですけど、ハンダースのみんなは仲間と分かち合ったり助け合ったりしてますよね、それを羨ましく思う気持ちがあって、その憧れにフィーチャーして楽曲に思いを込めていったんです。

人は誰しも「あのとき違う選択肢を選んでいたらどうなっていたのかな?」とか、別の世界線に思いを馳せることはありますよね。僕もずっと周りのみんなが仲間と一緒に住みながら活動する様子を、自分には真似できないと思いながら見てきました。

でも「もしかしたら東京に出て、仲間とシェアハウスをして楽しく音楽をやる道もあったのかもしれない」なんて想像しながら曲をつくり上げていきました。

──堀江さんもそうしたイメージは共有していたんですか?

堀江晶太 詞と曲からある程度そういったイメージは感じ取っていましたが、僕らもやっぱり直接何か言葉でやり取りしたということはありません。作家から作家へのバトンパスは曲をもらえれば十分なので

加えて「六色」は主題歌として作品の真ん中に位置する曲になるだろうと思いましたし、そのために温かい雰囲気がほしいとは思ったので、そのポイントを意識しながらアレンジしてきました。

6人それぞれが個性を持ったクリエイターが集まっている作品なので、誰かの色に近づけ過ぎないようにとも意識していましたね。

なのでフラットに仕上がるようにしつつも、まらしぃくんのピアノを一番の特徴として活かす、様々なクリエイターがいてどんな創作でもできるっていう可能性の広がりを、ピアノの万能性で表現しようと考えたんです。なるべくまらしぃくんのフレーズが前に出てくるように心がけて、透明感を残した感じにできればいいと思いました。

つくり手が解釈の“正解”を説明しない理由



──作家同士のやり取りは楽曲で十分というお話は印象的ですが、詳細を共有しないことで不都合などはないのでしょうか?

堀江晶太 話した方がいいこともあるとは思うんですけど、恥ずかしいですからね(笑)。ダジャレの意味を説明するようなもので、つくった曲についてネタを明かすのは結構恥ずかしいことなんです

今回の座談会みたいに機会があるなら話せますけど、むしろ作品に込めた自分の奥底にあるものって自分だけがわかっていればいいって場合もあるんですよ。それを吐露してしまうことで「この曲はこういう曲だから絶対にそういう聞き方をしてね」と、楽しみ方を限定してしまうことはしたくない。

楽曲の楽しみ方は人それぞれでいいと思いますし、聞く人や演奏する人がそれぞれのアプローチで自分の心に響いたものを大切にしてくれた方がいいと思っているので、普段はそもそもあまり話さないようにしているんです。

まらしぃ もちろんいろんな考えや思いを曲に込めているんですけど、それを細かく伝えることって、実は僕らの間でもないんです。

堀江くんならきっと曲や詞から感じ取ってくれるだろうし、むしろ何をどう汲み取ってくれるかを楽しみにしている部分もありました。

堀江晶太 制作が全部終わった後なら話せることもありますけど、つくっている途中って半信半疑だったりするんですよ。

確実に良いものになるように頑張ってるけど、まだ完成してないから変わる可能性もあるし、あんまり詳細に語った後で出来上がりのイメージが違ったらアレ?ってなってしまうかもしれない。そういう配慮もあるのかもしれません(笑)。

──今回はそこをあえてお話していただいたわけですが、改めて互いに楽曲の感想を言葉にしてみて、いかがでしたか?

まらしぃ 2人には、それぞれこう仕上げてくれたらいいなってイメージを持っていたので、まさしくそれに合致したアレンジをしてくれたことがわかって良かったですね。

こういう立場で楽曲を聞くことって僕にしかできないことなので、ある意味一番いいポジションで2曲を味わえたのかもしれないと思うとすごく嬉しいです。



堀江晶太 曲の話ってあんまりしないからね。せいぜい「良かったよー」とかLINEで言い合うくらいで、「スタンプが送られてきたからこの話はここでおしまいかな」っていう普段の会話と変わらない(笑)。

──確かになんとなくスタンプが会話の切れ目って感覚はありますが、それくらい自然に行われる会話の一部程度なんですね。

堀江晶太 もちろん思うことはいっぱいあるけど、お互いあんまり掘り返さないんです。リリース後は自分のものじゃなくなる感覚というか、出荷してしまったらもうユーザーのものだから、皆さんで楽しんでもらえたらいいなと。リリースを見届けたら気持ちはもう次の仕事って感じですね。

まらしぃ もちろんあのキャラクターを思って書いてますって部分はあったりなかったりしますけど、つくっている側の僕らが言うと、それだけが正解のように聞こえてしまう。それよりは聞いてくれる皆さんが、それぞれの考え方をしてくれた方がいいと思っています。

堀江晶太 しかも僕らの想定以上の解釈をしてくれる人もいるじゃない? それってリスナーさんならではの愛情の強さゆえだと思うし、そうやってリスナーさん同士で楽しんでくれているのは嬉しい

yuxuki waga 聞き手が好きに解釈してくれたらつくり手としてはそれでいいよね。頑固一徹なラーメン屋みたいに「高菜、先に食べちゃったんですかっ(激怒)?!」みたいなことは言いたくない(笑)。

堀江晶太 と言いつつも、知りたい人だけが知れるぶんにはいいから、ラーメン屋でメニューの裏にこだわりが書いてあったりするのはむしろ好き(笑)。だからこういう機会をつくって、曲について話すくらいが丁度いいのかもしれないよね。


一緒に住むのは無理、同じマンションは許容範囲



──『メゾン ハンダース』には皆さんと同じく作曲家という立場の峰岸忍も登場します。彼や作品自体にクリエイターとして共感する部分はありましたか?

yuxuki waga 忍が直面していたような、つくりたいものと求められてるものが違うってことはめちゃくちゃよくあるんですよ

ただ作中ではそれをあまり暗い感じに描いていなくて、そういう見せ方の工夫もいいなと思いました。クリエイター同士が集まるとこうなるよねっていう空気感も、すごいリアルに表現されていると思います。

堀江晶太 ものをつくる人同士だから生まれる友情や、ライバルとしての悔しさは確かに上手に描かれているよね。そういう熱いものを持った人が集まって、同じ時間を過ごしているとヒリヒリする場面もあると思うけど、そうしないと生まれないものもあると思う

僕らはクリエイターとして共感できるけど、作品を楽しんでいる人たちの中にも、クリエイター的な性質を持っている人は多いだろうし、そういう意味ではシンパシーを感じる瞬間はあるんじゃないかな。




──ちなみに『メゾン ハンダース』のようにクリエイター同士でシェアハウスができるとしたらしたいですか?

yuxuki waga ……ひとつ屋根の下はちょっと難しそうだけど、同じマンションに住むとかだったらやりたいです!

堀江晶太 わかる!!!

まらしぃ 同じフロアに住んでて、会いたいときにフラッと会いにいけたら理想的だよね。「ちょっとピザ余ったんだけど」って持っていったり。

堀江晶太 毎日顔合わせるのはちょっとね。1人で集中したい日とかあるし。

まらしぃ だから逆にハンダースのみんなはどうやって折り合いつけてるんだろうとは思う。

──シェアハウスとまではいかなくとも、クリエイター同士である程度の近さに住むことには意欲的なんですね。

堀江晶太 最初に話した別荘は、まさにそういう思想に基づくものだったりするんです。トキワ荘みたいに、志が同じクリエイター同士が近いところで生活することに憧れがあって。

スタジオを中心とした“クリエイター村”みたいなものをつくりたいと思って、別荘づくりに精を出しているので、気持ちはわかるというか、楽しいだろうなとは思っています。

──制作に関わった上で感じる『メゾン ハンダース』の魅力はどのような部分にありますか?

yuxuki waga クリエイターならではのリアルに踏み込んでいる一方で、何気ないことで盛り上がるといったような日常的な面も描かれているのが面白いですよね。

なかなかそこにフォーカスした作品って珍しいですし、アニメだとドラマチックに描かないといけないがゆえに仰々しくなりがちな部分を、サウンドドラマという形式だからライトに表現できるのもいい部分かなと感じます。




まらしぃ 僕らもこうして和気あいあいとしていますけど、創作においてはお互いに譲れない部分があるように、クリエイター同士だからこそわかる気持ちが上手に描かれているなとは僕も感じていました。

ものづくりは華やかに見える一方で苦しい面もある世界だけど、そうしたクリエイターの日常を描くことで身近に感じてもらうきっかけにもなるでしょうし、そうして何かの創作に挑んでから見ると、また別の角度でも楽しんでもらえると思います。

堀江晶太 僕も昔は作曲家とか小説家って人間じゃないと思っていたので……

まらしぃyuxuki waga どゆこと?!

堀江晶太 いや変な意味じゃなくて、もう自分とは完全に違う存在だと思ってたってこと! だから『メゾン ハンダース』でクリエイターも普通の人間なんだよって描かれているのはかなり興味深いです。

外からは華やかな世界に見えがちなので、きっとクリエイターは特殊なインプットをしているんだろうなと僕も思っていたんです。でもいざ自分がなってみたら、ただ友達とゲームしたり話したりっていう日常の中に見つけた感覚を作品としてアウトプットするだけなので、何も特別じゃないんですよね。

そういうことを僕らが自発的に言う機会もないから、こうして作品で描いてくれるのは面白いですし、ということは自分にもできるんじゃないかと思ってもらえるきっかけになるんじゃないかと思います。

刺激を受けてから「やってみよう」までの流れが一瞬



──作中ではアニメーターの四ノ森明希人がバンドのMV制作に参加するなど現実の音楽シーンが反映されたような描写があります。実際に現在はアニメーションMVが流行したり、ボカロシーン出身のクリエイターがメジャーで活躍したりしていますが、そうした音楽シーンを皆さんはどのように捉えていますか?

yuxuki waga 世代でくくるものでもないとも思いつつ、今クリエイターとしてバリバリやってる世代って、小中学生の頃からもうニコニコ動画とかが当然のように身近にあって、様々なエンタメを摂取してきた人たちだと思うんですけど、彼らって僕らとは比較にならないくらいインプットの質も量も違うんですよ。

クリエイティブに挑む上での下地が違うし、そうなると平均のレベルも上がっていて絵が上手い人や歌が上手い人なんてたくさんいる。その中で切磋琢磨するわけですから、必然的にレベルの高いものが生まれているんだと思います。

そう考えると、あの頃のニコニコ動画の盛り上がりが今のエンターテインメントに繋がっているようにも感じられますね。

まらしぃ 実際面白かったですからね。その頃から活動している僕としては、ただみんな面白いものをつくろうとしているっていう根底の思想は変わっていないと思っていて、それがより多くの人に共感されるようになって、今に繋がっているんじゃないかって。

とはいえ今の世代には僕らにはない視点もあるなとも感じています。今まで積み上がってきたものに新しい価値観が加わって、より洗練されたクリエイティブが生まれている。それにネガティブな感情は全然ないですし、むしろ今が一番熱い状態なんじゃないでしょうか。



堀江晶太 僕らが積み上げてきたものに若い感性を組み込んでいるわけですから、彼らと正面からやり合ったところで勝てるわけがないんですよ。でも全く勝ち目がないかというとそうではなく、僕らには僕らのやり方がある。

こうした状況にあって自分らしく、楽しく面白いことをやり続けるためにはどうすればいいかは考えがいがあると思っていて、ガッツリやり合うというよりは、肩の力を抜いて自分の面白いと思うことを突き詰める方にシフトしていきたいなと思っています。

──以前と比べてインプットの質も量も異なる現在のクリエイター。その特徴はどのような部分にあると思いますか?

yuxuki waga なんといってもトレンドを汲む感覚がすごすぎますね。たとえば今の曲ってめちゃくちゃ短い曲があったりするんですけど、ストリーミングで聞かれることを前提に考えるとそれって自然な変化なんです。

僕らは一曲4〜5分あって当たり前と思って生きてきたので、理由を聞かないとそこまで短くする意味を理解できないんですけど、今の子たちはそれを感覚で正解だと理解している。

そういったことも含めて、僕らが躊躇してしまうようなことでも平気で踏み込んでいくのが驚異的です。

ある程度流行りの曲調はあるけど、そもそもの音のクオリティが上がっていますし、トレンド感を狙わずに出せるのが本当にすごい。僕らがやるとどうしても狙いすぎ感が出ちゃう(笑)。

堀江晶太 たぶん10年前は僕らも自然にできていた側だったんだと思うよ

その進化というか変化は、発信する敷居が下がったのが大きいんじゃないかと考えています。何事も発信すると上達のスピードが圧倒的に速くて、人に見せよう、見せなくちゃいけないと思うと上手くなるんですよ。



堀江晶太 今はスマホひとつあれば何かをつくって人に見せるという行為が簡単にできるし、それをやっている人が当たり前に存在している。そういう発信していいんだよって環境があるのはかなり大きいんじゃないでしょうか。

今の若い音楽クリエイターってデフォルトで歌も上手かったりするんですけど、それもやっぱり発信することが当たり前になっているから。僕らは上手い歌を聞いても「上手いなー」と思って終わっていたけど、今は発信していい空気があるから自分も歌ってみようとなる。

何か刺激を受けてから自分もやってみようまでの流れが一瞬なので、その結果、当たり前になんでもできるクリエイターが生まれている。


まらしぃさんのLINE知ってんすか?!」って言われる



──確かに近年、曲もつくる、絵も描く、歌うなど、いわゆるマルチクリエイターが多くなった印象はあります。

堀江晶太 でも彼らには彼らの良いところがあるように、僕らにも僕らにしかできないことがありますし、そこを活かしてかっこいいところを見せたいとは思っています。

まらしぃyuxuki waga おぉ〜!

堀江晶太 最近若いクリエイターさんに会うと「昔からずっと憧れてました」って言われるんです。

僕より楽器できるしかっこいい曲つくってるのにとは思うものの、それを言っても仕方ないし、彼らに失望されたくないから、その憧れに応えつつも自分がやりたいことをやる。そういう折り合いをつけれるようなクリエイターでありたいですね。

まらしぃ 僕も昔から見てましたって言われる機会がすごい増えたんですけど、彼らは僕の何を楽しんでくれていたのかなって思うと、自分らしさについて考え直すいい機会にもなっているんです。

堀江晶太 まらしぃくんは音楽クリエイターからの尊敬もそうだけど、ピアノYouTuber界の中でも崇められてるんじゃない?

まらしぃ そうなのかな?

堀江晶太 若いピアノを弾ける人たちのまらしぃくんリスペクトは結構すごくて、僕もたまにそういう子たちと話してると「まらしぃさんのLINE知ってんすか?!」って言われるし、インターネットピアノ大聖堂があったら一番大きい壁画に描かれるレベルだよね。

まらしぃ 嬉しいけど、そんなに徳を積んできたわけじゃないから(笑)。あくまでも、やりたいな、面白いなって思ったことをやっていて、たまたまその年月が他の人より長かっただけだと思ってる。でもそう尊敬してもらうからには、恥ずかしくないようにありたいね。



──対抗心を燃やすという感じではないんですね。

まらしぃ 音楽って勝ち負けというよりは好き嫌いだと思っているので、あんまり対抗心って感じではないです。

自分がやってきたことから何か影響を受けた人たちが活躍しているのは素直に嬉しいですけど、そこに僕が加わっていくのはちょっと違うなと思います。やっぱり僕も自分のできることを大事にして、自分のかっこいいと思うことを大切にしていきたいという思いがあります。

堀江晶太 年齢的にサイクルが回ってこうなったのかなと思っていたんですけど、ふと昔の仲間が今何をやってるんだろうって調べてみたら、別のジャンルで新しいチャレンジをはじめていたり、ガッツリYouTubeで頑張っていたりするのを知ることも増えたんですよ。

それにめちゃくちゃ勇気づけられましたし、若い世代が元気だからと言って、僕らが頑張っちゃいけないわけじゃないんだなと気づかされました

頑張ろうという気持ちとアイディアが合致すれば、いつでもそこからまた新しい動きは生み出せるし、世代とか時代に関係なく自由に創作して発信できる世界になったんだなって思いますね。

yuxuki waga じゃあさ、堀江くんもログハウス系YouTuberどう?

堀江晶太 つくってる様子をVlog的に公開するだけでも面白そうだし、焚火を囲んでクリエイター同士で喋ってるのも……いけるかも

「頑張って生き残ってこれた」生存確認の座談会



──別荘から『メゾン ハンダース』、そして最後はまた別荘と、非常にきれいにまとめていただきありがとうございます。今回初めて3人集まっての座談会ということでしたので、最後に率直な感想をうかがってもよろしいですか?

yuxuki waga こうやって集まって話す機会ってないので、本当に勉強になりました。クリエイターって結構似た性質の人たちが多いですけど、その中でどうやって個性を出していくかってそれぞれが苦労している部分ですし、だからこそ似た部分と違う部分があって、それをたくさん知れたのが嬉しかったです。

堀江晶太 こうして集まることでお互いの生存確認にもなるんですよね。俺たち、頑張って生き残ってこれたなって(笑)

ただ続けているだけで生き残れる世界ではないので、こうやって顔馴染みと再会できるのはシンプルに嬉しいですし、ホッとします。また会えるといいなって思いますね。

まらしぃ 2人に限った話ではないんですけど、やっぱり僕は自分が持ってないものを持っている人に対してすごく尊敬を感じるんです。

きっとハンダースのみんなもそうなんだろうと思うんですよ。お互い人間として大好きだろうけど、ふとしたときに出てくるクリエイターとしての尖った部分に魅力を感じ合ってるんだろうなって

こうやって他のクリエイターとご一緒させていただくのは、自分の持ってないものを知れるすごくいい機会なのでとても嬉しくなっちゃいました。

──ちなみに皆さんが活躍を続ける上で貫き続けているクリエイターとしてのこだわり、尖った部分はどういう点ですか?

まらしぃ 僕はやっぱり自分が好きかどうかを一番大切にしています。たとえば最近は、ピアノに限らず演奏動画の場合って楽しんでいる表情も含めて映すのがトレンドになっていますよね。でも僕は演奏している楽曲に余計な情報を付け加えたくないという思いがあるので、いまだに顔を出していないんです。

世間やトレンドがどうあれ、僕はそう思ってますっていうこだわりを変えるつもりはないし、共感してもらえる人にだけ共感してもらえたらいい。単純に自分がここは譲れないって部分は大事にしたいですし、そうやって自分が前向きに取り組めるかどうかをこれからも大切にしていきたいです。



堀江晶太 僕もほとんど同じなんですが、昔から、子どもの頃の自分が見て胸を張れる仕事をしているかどうか、子どもの頃の自分がかっこいいねって言ってくれる曲をつくれているかどうかを基準にしていますね。

何をするにしても自分の心が動くものをつくり続けるのは変わらないですし、それさえ変えずにやっていけば自分らしくいることができると思っています。

yuxuki waga モノづくりを続けていくうちに、自分のできることとできないことがだんだんとわかってくるんですが、以前はなんでも自分の手中に収めたいと思っていたのが、最近は自分のできないことは他人に任せてみんなでいいものをつくっていこうってマインドに変わったんです。

自分の譲れないものは大切にしつつ、肩の力を抜いて楽しめる曲をつくる、そうして移動中でも自分の曲を聞きたくなるくらい、自分でも好きな音楽をこれからもつくっていきたいです。



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『メゾン ハンダース』まらしぃ×堀江晶太×yuxuki waga 座談会