Netflixで全世界同時配信中、全6話のシリーズを前後編で分けた『地球外少年少女 後編』(公開中)が2週間限定で劇場上映中のオリジナルアニメ地球外少年少女」。本作は特に“ある世代”に爆発的な話題性を持っている。2007年にNHK教育テレビにて放送された不朽の名作「電脳コイル」にハマっていた世代だ。それもそのはず、「地球外少年少女」と「電脳コイル」はいずれも磯光雄監督が手掛けており、テーマも“子ども×近未来”と共通性がある。両作品から、「地球外少年少女」の魅力や見どころに迫っていく。

【写真を見る】主人公となるのは、月で生まれた最後の子ども(「地球外少年少女」)

アニメーター、監督、脚本、演出…マルチに才能を発揮する磯光雄

まずは磯光雄監督がどのような作品を作ってきたのか知っておきたい。実は磯が監督した作品は「電脳コイル」と「地球外少年少女」の2作のみ。磯はフリーアニメーターであり、監督よりもアニメーターとして参加して、原画などを手掛けていることのほうが多い。携わった代表作は1986年の「機動戦士ガンダムZZ」、1988年の「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」、1995年の「新世紀エヴァンゲリオン」のほか、2003年の実写映画『キル・ビル Vol.1』のアニメパートに原画として参加している。もちろんアニメーターとしての腕も一流で、業界人からも非常に高い評価を得ている。

しかしそれだけには留まらない。「電脳コイル」「地球外少年少女」はもちろんだが、「新世紀エヴァンゲリオン」(第13話)やSFアニメ「ラーゼフォン」(第15話)などでは脚本を担当。そのほかにも演出、デジタルエフェクトなど、とにかく一介のアニメーターの枠には収まらない多才な活躍を見せているのだ。

■緻密なストーリー構成で子どものみならず大人も魅了した「電脳コイル

そんな磯の監督デビュー作となったのが前述の通り、オリジナルテレビアニメ電脳コイル」。2007年に全26話で放送され大ヒットとなった。初監督であるだけでなく、原作、脚本、キャラクターデザイン原案など、多くの作業を自ら担当し、そのマルチな才能を存分に発揮している。AR(拡張現実)もVR(仮想現実)もほとんど知られていなかった15年前に“ARがある暮らし”を描いたこの作品は、子どもだけでなく大人も引き込んだ。その結果、第29回日本SF大賞をはじめとする様々な賞を受賞するなどの功績を残している。

本作の舞台は、“電脳メガネ”と呼ばれる、いまで言うAR技術に対応したメガネ型のデバイスをはじめ、電脳技術が普及した近未来の世界。そのレンズを通すことで見ることができる映像や、電脳ペットと戯れる世界観に、当時視聴していた子どもたちは心を躍らせた。もともとメガネをかけていた子どもは、それだけで“電脳コイルごっこ”の主役になれたものだった。

また、電脳空間の違法電脳体を駆除するオートマトン“サッチー”の存在や、電脳空間に関する様々な噂など、ストーリー的にもビジュアル的にも子どもには少し怖い演出の数々もインパクト抜群。“ミチコさん”に関する都市伝説を語りあう第9話や、“ヌル”と呼ばれる黒い人影のコンピューターウイルス(イリーガル)に襲われる第19話などは、いまもなお“トラウマ回”として語り継がれることも多い。

そんな子ども向けの枠を超えた設定や、近未来を舞台にしながらも懐かしさを感じさせるノスタルジックな風景など「電脳コイル」の魅力は多くあるが、なにより注目したいのは、少年少女の成長や友情を描くドラマが秀逸なことであり、そして人気が衰えない理由でもある。

■より新しく、さらに舞台を広げた「地球外少年少女

そんな「電脳コイル」の大ヒットから15年後の今年。磯の2作目の監督作として作られたのが「地球外少年少女」だ。

“ARがある暮らし”を描いた「電脳コイル」に対し、本作のテーマは“AIがある宇宙での暮らし”。舞台は2045年の近未来。宇宙空間にある日本製の商業用ステーションで大規模な事故が発生し、子どもたちがそこに取り残されてしまう。取り残された子どもたちは、ネットの切断、空気の漏洩問題、マイクロマシンの暴走など、様々な問題に立ち向かいながら生存と脱出を目指す。さらに後編となる第4~6話ではAIについてより踏み込んだ物語が展開され、本作のテーマが深掘りされていく。

宇宙空間での事故から始まる緊張感のある展開、ドローンやAIにまつわるリアリティのある設定が満載。要所要所で挟まるくすっと笑える会話や小ネタ、マスコットキャラのゆるいデザインなど、「電脳コイル」が好きならきっと刺さるであろうポイントも多数存在する。

また、キャラクターデザインを担当したのは「交響詩篇エウレカセブン」や「ガンダム Gのレコンギスタ」のキャラクターをデザインした吉田健一。メインアニメーターに「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「魔女の宅急便」などに原画として参加し、「電脳コイル」では総作画監督を務めたスーパーアニメーター井上俊之氏を起用するなど、作画面でも圧倒的なクオリティを実現。“SFは堅苦しい”と敬遠しがちな人にとっても気軽に楽しめるのはうれしいポイントだ。

■磯光雄監督作に共通する“子ども×近未来”というテーマ

冒頭でも書いたように、磯が監督した「電脳コイル」と「地球外少年少女」には、“子ども×近未来”という大きなテーマが共通している。主人公は個性豊かな少年少女。どちらの作品でもその時代に適応した子どもたちが持つ無限の未来や想像力、純粋な想いの力といったものを感じさせてくれる。子どもが観れば同世代の主人公たちに憧れを抱き、大人が観れば自分の子ども時代に想いを馳せられる。だからこそ子どもから大人まで、幅広く愛される作品となったのだろう。

そして彼ら、彼女らは近未来の、実現がごく近い“電脳メガネ”や、コミュニケーションが図れるほか生活に寄り添う様々な機能を持つAIといったものを生活の一部として過ごしている。この設定はあまりにも魅力的で、“こんな時代がもうすぐ来るかもしれない”と視聴者をわくわくさせてくれる。

当時「電脳コイル」を観ていた世代が大人になった現代では、VRやARが日常的な現実となった。いま「地球外少年少女」を観た子どもたちが大人になった時、どんな未来が待っているのだろうか。視聴者だった子どもが大人へと成長し、アニメで描かれた未来が現実になっていく瞬間を体感できるのも、磯監督作品が長く、そして根強く愛される秘訣なのかもしれない。

文/リワークス(加藤雄斗)

赤崎千夏の崎はたつさきが正式表記

「地球外少年少女」「電脳コイル」の監督、磯光雄はどんな人物なのか?/[c]MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会