都営バスにおける2020年度の系統別収支状況が発表されました。本数も利用者も多い看板路線やドル箱路線が、赤字のワーストに近い順位まで転落するという異常事態が起きています。

花形「都05」が赤字ワースト!? 都営バス2020年度の系統別収支でる

東京都交通局から「都営交通2021経営レポート」が2022年1月に公表されました。これには2020年度における都営バスの系統別乗車人員、収支などが詳細に発表されています。2020年度ですから、まるまるコロナ禍の営業の結果と見ることができます。乗車人員は年間約1億8300万人で前年度比21%減、乗車料収入は284億円で21.8%減、経常収益は95億4千万円の赤字ということです。

コロナ禍の影響は交通業界全体に共通しており、大都市圏、地方を問わず、乗合バスの乗車人員も乗車料収入も、2019年度末から2020年6月あたりまで平年に比べ50~60%減少しました。2020年後半は徐々に利用が戻り、その後上下はしますが、乗合バスは生活移動を担う関係で外出自粛やテレワーク普及といった移動自体の減少につながる社会的状況の中でも一定の利用者が確保でき、2020年度を平均的に見るとマイナス20~30%の範囲に収まる事業者が大半でした。したがって、都営バスの数字もだいたい平均的な数値といえるでしょう。

そうした中、同レポートのバス系統別収支状況の表を見ると、興味深い現象が確認できます。表によると、全129系統(運行受託系統を除く)のうち、黒字系統はわずか8系統、残る121系統が赤字を計上しています。注目すべきは、その順位の変動です。

赤字系統のうち、最も赤字額が大きい系統が「都05」晴海埠頭東京駅丸の内南口で、3億9千万円を超えています。次々とバスが来て、いつもかなりの利用者がいる基幹的な路線です。このほかにも「都01」渋谷駅前~新橋駅前、「都02」大塚駅前~錦糸町駅前といった、1980~90年代にいわゆる都市新バスシステムとして開業したメインルートや、「王40」池袋駅東口~西新井駅前、「白61」練馬車庫前~新宿駅西口など、突出して利用者の多い系統が、軒並みワースト20の中に入っています。

なぜ利用者が多い路線の赤字が大きいのか

コロナ前の2018年度のレポートを参照すると、黒字系統は30系統以上存在し、上記の「都01」「都02」「王40」「白61」などもすべて黒字系統でした。それだけコロナ禍による減収の影響が大きかったという分析もできます。

たくさんの乗客が利用し、運行便数が非常に多い路線はその事業者にとって収益の上がる、いわゆる「ドル箱」路線のようなイメージを持ちます。ところが、そのような路線ほど赤字がかさんでいるのはなぜなのでしょうか。そこには、全国的に路線バスに共通の要因と、東京という地域または東京都交通局という事業者に特有の要因、そしてコロナ禍による利用減という特殊要因がそれぞれ存在するように思われます。

普遍的な要因は、一定の利用があって高いサービスを提供している路線には、それに見合う多くの投資をしていることです。輸送力を確保するためには、それだけ車両と乗務員を張り付けなければなりません。つまり高頻度・高サービスの路線には結果的に他の路線より多くのコストをかけていることになります。

また、比較的距離の長い路線や、道路混雑などによって表定速度(運行距離/運行時間)が低い路線も、より多くの資源を投入しなければならず、コストがかかります。

一方、路線バスの認可運賃は、“公共料金”的な意味合いのもと、一定の利益が出る程度の範囲で抑えられています。ざっくり言うと利益率は1割前後でしょう。ですから、都営バスもそうですが、黒字系統と言えど営業係数(100円稼ぐのにかかるコスト)で見ると良くて85ぐらいと、おおむね1割以内の利益幅となっています。

そういう状況下で、コロナ禍による利用者減・減収が2割前後に達しました。コロナ前は黒字だった路線も単純に赤字へ転落する状況だったわけです。

取り巻く諸条件が影響する収支の悪化

では、黒字を確保した路線にはどのような要因があったでしょうか。

東京都区内の路線バス運賃は均一制をとっています。現在都営バスは大人210円(IC同額)、小児110円(IC105円)で乗車距離によらず同額です(一部路線除く)。したがって短距離の利用者が入れ替わりで多数利用してくれる路線が収支上よい結果を出すことになります。

たとえば、黒字系統の中に「新小21」西葛西駅新小岩駅があります(営業係数89)。それなりの距離・所要時間で高頻度運行のため、車両も乗務員もかなり投入していますが、東京メトロ東西線とJR総武線を南北につなぐ江戸川区のまさに基幹路線で、途中に都営新宿線船堀駅や江戸川区役所などの拠点があるため、各駅や区役所に集まる周辺住宅地の需要や駅間利用を拾い、こまめに乗降があって常に多くのお客さんが乗っている状況です。こうした路線が最も効率よく収益を上げていると言えるでしょう。

一方、今回の系統別収支の背景には東京都ならでは、あるいは公営ならではの要因もありそうです。そのひとつに都内在住の70歳以上の高齢者を対象とした「シルバーパス」制度が挙げられます。東京都(福祉保健局)の支援の下で(一社)東京バス協会が実施しているもので、所持者はパスを提示するだけで都内のバス(都電など一部軌道を含む)を利用できます。日中を中心にシルバーパス利用者は相当な割合に上るはずです。

シルバーパスの収入は一定の計算式のもとに各事業者に配分される形になるため、必ずしも利用者数と連動するわけではありません。実際に乗車している人数に見合った運賃分は得られていない可能性があります。推計あるいは配分による数字がベースなので正確とは言えないまでも、各系統の乗車料収入を乗車人員で割ると、だいたい1人あたり150円前後になります。これは東京都固有の要因と言えるでしょう。

コロナ禍で浮き彫りになったバス路線の収支の考え方 必要な施策は

2020年9月に京都市交通局が発表した2019年度の市バスの路線別収支でも、年度末にコロナ禍の影響が出たことから、黒字路線が一部赤字に転落し、84系統中約75%の63系統が赤字という結果でした。そして市交通局の分析として、管理の受委託(別の事業者に一部路線の運行にかかる業務を任せること)を行っていた民間事業者の一部撤退により、その分を交通局直営に戻したため、人件費が13%上昇したことを要因として挙げています。公営交通のコストの高さを浮き彫りにした結果とも言えますので、東京都の場合も公営交通なりのコスト要因もあるかもしれません。

コロナ禍を経てわかってきたことがあります。平常時なら多くの利用者があれば事業として成り立つバス路線も、コロナ禍のような事業者ではいかんともしがたい要因によって2~3割利用が減ると、事業として成り立たせるのが難しくなるということです。

それなりの利用があった路線は、地方の生活路線などとは異なり、国や地方自治体の補助なく、事業者が自主路線として維持してきましたが、このような状況になると、むしろ資源を投入している自主路線の方が赤字額も大きくなるため、維持が難しくなっています。

単純に公的資金を投入すればよいという話ではありませんが、コロナ禍を機に、地域の公共交通ネットワークの維持と最適化をきちんと行政・事業者・住民ともに議論し、必要なところには社会的投資の観点からの補助や利用促進などのソフト面を含めた支援の考え方が求められます。

渋谷~六本木~新橋を結ぶ「都01」。都営バスを代表する存在だが、2020年度の収支状況は129系統中127位に転落(中島洋平撮影)。