文=のかたあきこ 写真=星野リゾート、のかたあきこ

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別府湾ビューの温泉旅館で自家源泉を堪能

 大分空港から車で約50分。「別府八湯」のひとつ・別府温泉に2021年7月、星野リゾートの温泉旅館「界 別府」が誕生した。宿は旧別府港の北浜地区に位置し、全70室が別府湾ビューだ。北浜地区は“別府はじまりの地”と言われ、明治時代の開港後は湯治客の玄関口として賑わい、温泉街の発展に大いに貢献したエリアである。

 フロント階の扉が開くと、和紙の提灯が照らす「湯の広場」と別府湾の絶景が広がる。ずらりと並ぶ「手湯」の桶には源泉が滔々と流れ落ち、温泉情緒を盛り上げる。併設する足湯からは、水平線や朝日が眺められ、くつろぎスポットになっている。

 客室はすべて、ご当地部屋「柿渋の間」だ。ご当地部屋とは温泉旅館「界」の特徴のひとつで、地域の伝統工芸などを取り入れた客室。別府名物・血の池地獄から着想を得た柿渋色で壁や襖が彩られ、窓一面に広がる海の色との対比が素晴らしい。色彩にアクセントを添えるインテリアは、伝統の「豊後絞り(ぶんごしぼり)」だ。照明やヘッドボード、フットスローに豆絞りや蜘蛛絞りなどの技法が使われていて、個性的なフォルムと優しい風合いが印象に残る。

 別府温泉郷は日本一の源泉数と温泉湧出量を誇る。「界 別府」は敷地内に自家源泉を2本所有する温泉自慢の旅館だ。30室には温泉の露天風呂が備わり、ある時は鳥の声や潮風に癒されながら、ある時は街あかりや星空を眺めながら、という風に、好きな時に好きなだけ温泉が堪能できる。

 露天風呂を備える大浴場が男女別にあり、湯船はぬる湯とあつ湯に分かれ、交互入浴で血行を促進する。泉質はナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉。体がぽかぽかと温まり、肌がすべすべになる美肌湯だ。

「ドラマティック温泉街に逗留する宿」

 夕食は、竹灯りが照らす半個室の食事処にて。大分の海の幸・山の幸が地域の器などで登場する会席料理だ。特別会席のメインは、魚介や鶏肉、牛肉を盛り込んだ鶏肉だしの「豊後なべ」。かぼすの爽やかさで食がすすむ。地酒とのマリアージュが楽しい。

 宿のテーマは「ドラマティック温泉街に逗留する宿」。設計・デザイン担当の建築家隈研吾さんは「“ドラマティック”は、朝・昼・夕方・深夜などの時刻や、季節ごとに変わるシークエンス(連続性)を表現するのにぴったり」とコメントしている。「館内を色々と歩きまわり、空気・風を感じて欲しい」とも。路地を模した石畳の廊下には暖簾が掛かるトラベルライブラリーや売店があるなど、そぞろ歩きが楽しめる。

 夜のラボでは、別府地獄めぐりにちなんだドリンクのサービスやスマートボールなどを用意する。注目は、別府八湯を知り尽くした「温泉まちあるき名人」の登場だ。別府の町あるきやオススメの温泉などを教えてくれる。湯の広場で開催のご当地楽「湯治ジャグバンド」の演奏もあるなど、スタッフ・地域が一体となり、温泉街の賑わいを演出し紹介する。

 総支配人の廣岡太郎さんは「別府に暮らして感じるのは、地元みなさんの生活に温泉が根付いていることです。地区ごとに共同浴場があり、温泉を中心に地域がつながっている印象を受けます。そうした別府の魅力を、お客様にお伝えしていきたい」と話す。

 明治時代より人・モノ・文化を運んで発展した別府港ゆかりの温泉街を、「界 別府スタイル」で再発見しながら温泉逗留ができる。楽しみ、癒される温泉旅だ。

 

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宿のコンセプトは「ドラマティック温泉街に逗留する宿」