中東や南アジアなどの一部の地域では、婚前交渉や親の決めた相手以外と交際する女性を家族の恥と見なし、親族に殺害されるといった殺人事件が度々起きている。このほどパキスタンで2016年に「名誉殺人」で妹を殺害した男が無罪となり、刑務所を出所することとなった。『New York Post』『The Guardian』などが伝えている。

2016年7月15日パキスタンを拠点にインフルエンサーとして活動していた当時26歳のカンディール・バローチさん(Qandeel Baloch)が、兄のムハンマド・ワシーム(Muhammad Waseem、一部メディアではワシーム・アジーム(Waseem Azeem)と報道)に殺害され、翌朝にパンジャーブ州ムルターンの自宅で死亡しているのが家族によって発見された。

その後、ムハンマドは逃走したものの父親から告訴されたことにより、警察がその日のうちに発見し逮捕していた。殺害されたカンディールさんは「パキスタンのキム・カーダシアン」と呼ばれ、SNSで度々セクシーな写真を投稿して多くのファンを魅了していたという。

またカンディールさんは“カンディール・バローチ”の名前で女優やモデルとしても活躍し、地元のテレビ番組にも度々出演していたことから名の知れた存在だった。そんな彼女はFacebookで「パキスタンの典型的な正統派の考え方を変えたい」などと記して、女性の権利を求めるような投稿をしていたという。

ところが兄のムハンマドは、そんなカンディールさんのことを日頃から“家族にとって不名誉”な存在と感じていたようだ。ムハンマドは逮捕後、カンディールさんに錠剤を与えて体の自由がきかなくなった後に首を絞めて殺害したことを認めたが、逮捕後の警察が手配した記者会見では自分の犯行を「恥じていない」と答えていた。

その後、ムハンマドは2019年に有罪となり一度は終身刑が下されたが、両親がイスラム法に基づいて彼に恩赦を与えたことにより、裁判で無罪となった。彼の母親であるアンワル・ビビさん(Anwar Bibi)は「息子が無罪になったのは嬉しいが、やはり娘が亡くなったことは今も悲しい」と語っている。

『The Guardian』によると、パキスタンでは毎年1000人近くもの女性が恋愛や結婚に対する保守的な規定に反したとして親族に殺害される「名誉殺人」が起きているそうだ。家族の名誉のためといえども殺人事件とみなされるが、パキスタンイスラム法では被害者の家族が犯人の罪を許すことで有罪判決を受けた後にもかかわらず刑罰を免れる場合があるという。

しかしカンディールさんが殺害された数か月後には、事態を重く見たパキスタン議会が「名誉殺人」について「被害者の親族が加害者を赦免したとしても、有罪を受けた犯人は無期懲役か懲役25年を義務付ける」という法案が満場一致で可決した。

今回、ムハンマドが無罪になった理由は両親の恩赦と伝えられているが、さらなる詳細については報じられていないようだ。このたびの判決に疑問を呈するパキスタンの女性人権活動家ニガット・ダッドさん(Nighat Dad)は「国はこの事件の当事者であり、今日起きたこと(無罪になったこと)について責任をもって説明する義務があります。名誉殺人に対する新法導入後になぜ犯人が無罪になったのか、きちんと理由を明らかに必要があります」と訴えている。

画像は『Daily Record 2016年7月17日付「Brother has ‘no regrets’ after killing his sister – Pakistani social media queen Qandeel Baloch」』『The Guardian 2022年2月14日付「Pakistan court acquits man who killed sister after parents’ pardon」(Photograph: Asim Tanveer/AP)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher)

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