(古森 義久:日本戦略研究フォーラム顧問、産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 アメリカのCNNテレビが崩壊とも評されるほどの衰退をみせている。看板キャスターが不当な情報活動を理由に解雇されたのに続き、今度は社長が社内での男女関係秘匿を理由に辞任した。しかもゴールデンタイムの視聴者数は1年前の10分の1にまで急落したという。

 ニュース・ネットワークとしてはアメリカだけでなく日本も含めて全世界で広く視聴されてきたCNNは、共和党のトランプ前大統領を叩き続け、民主党側を熱気をこめて応援してきた。だが、その偏向がこの人気急落にも大きくかかわっているようだ。

「同僚との親密な恋愛関係」の報告を怠った社長

 CNNテレビは2月2日、自社のジェフ・ザッカー社長の辞任を発表した。ザッカー氏自身は「社内調査の際に私が会社の同僚と親密な恋愛関係にあることを報告すべき義務を怠った」ことが辞任の理由だと説明した。

 ザッカー氏は相手の名を明かさなかったが、CNN内部からの情報でその女性はすぐに同社の営業担当幹部のアリソン・ゴルスト氏だと判明した。ザッカー、ゴルスト両氏とも離婚経験者でいまは独身だった。

 だがザッカー社長はCNN内部の特別調査に対してその親密な関係を隠したことが社内規則違反とされ、CNNの親会社ワーナーメディアから辞任への圧力を受けたとされる。

兄の窮状を救うために記者の立場を利用

 CNNでは昨年(2021年)12月に看板キャスターのクリス・クオモ氏が解任された。同氏はベテラン記者でもあるが、同年8月までニューヨーク州の知事だったアンドリュー・クオモ氏の実弟だった。

 クオモ知事は一時は全米レベルでの民主党の人気政治家で、コロナウイルス対策などでも共和党トランプ大統領に対抗する宣伝活動を続けていた。だが2020年後半ごろからクオモ知事がコロナウイルス感染の高齢者多数を感染者扱いせずに、高齢者養護施設に送り込んでいたことや、複数の女性たちにセクハラ行為をしたと非難されたことで2021年8月には辞任に追いこまれ、さらに刑事訴追捜査の対象ともなった。

 弟のクリス氏は兄の窮状を救うためにその刑事捜査への対策を練る内部会議に参加して、助言を与えたり、記者の立場を利用してセクハラ事件捜査に関する情報を集めたりした疑いを追及されるにいたった。CNNはこのクリス氏の行動を不正と断じて、解雇処分をとった。

会社ぐるみで民主党政治家の活動を支援

 クリス氏はまもなくCNNの解雇が不当だとする訴訟を起こした。CNN側はその訴訟への対策のために社内調査を始め、ザッカー社長にも一連の質問をしたところ、ザッカー氏は社内での男女関係を明らかにする義務を怠っていたことが判明した。その結果として社長「辞任」になったという。

 ところがこの経緯の背後にはさらに複雑な実態があった。

 ザッカー氏の恋愛相手のゴルスト氏が、CNNに入社する直前までアンドリュー・クオモ州知事の広報担当などの補佐官として活動し、CNNに移ってからも同知事への協力関係を保ち、さらにザッカー氏がその協力に加担していた、という情報が複数のアメリカのメディアで報じられたのだ。

 この報道が事実とすれば、CNNは社長以下、会社ぐるみで民主党政治家の活動を不当に支援していたことになる。期せずして、その実態に関する社内調査でザッカー社長の社則違反の「社内恋愛隠し」が明るみに出たわけだ。

 CNNではいま著名な記者やキャスターがザッカー社長の辞任の是非を論じ、親会社のワーナーメディアへの抗議なども重ねている。

極端な党派性偏向があだに

 ワシントンの中立系の政治雑誌「ザ・ヒル」は2月6日発刊の最新号に「CNNの崩壊は今や完全だ」と題するニュース評論記事を掲載した。

 メディア専門のジョーコンチャ記者によるこの記事は以下の骨子を述べていた。

 CNNは42年前の開設以来、最悪の危機と衰退を迎え、その実態はもはや崩壊ともいえる。その一例としてCNNはアメリカのニュース専門テレビ局の間で最大の視聴率を誇っていたのがこの1年ほどで最下位近くまで落ち、ゴールデンタイムの視聴者数は2021年1月の10分の1ほどになってしまった。

 CNNは政治的に民主党に密着して、リベラル支持を一貫し、共和党保守のトランプ氏を選挙戦中から攻撃し続けた。トランプ氏の大統領就任後も「ロシア疑惑」を大々的に報じ続けた。この極端な党派性偏向が一般アメリカ国民の不信や反発を買った。

 トランプ大統領を報道で取り上げ、その攻撃を続けている間はCNNの視聴率はそれなりに高かったが、トランプ氏が在野となってからはその報道を続けられず、視聴者の多くを失う原因となった。CNNは今では統率力を失った混乱の組織として漂流状態にある。

 CNNが以上のような苦境にあえぐ一方、現在、アメリカのニュース報道テレビ局では保守系のFOXが圧倒的な人気を集めている。2月はじめのメディア調査では1日平均の視聴者では首位のFOXが250万人、2位のUSAが140万、3位のMSNBCが130万、CNNは第18位で55万という数字だった。

 日本ではアメリカの動きに強い関心を持つビジネスマン、学者、ジャーナリストらの間でなお圧倒的な注視の対象であるCNNも、本家のアメリカではまさに落ちた偶像のような惨状なのである。もしその最大の原因がトランプ氏叩きの失敗、民主党陣営へののめりこみ、だとすれば、政治とメディアの絡み合いの研究対象としては、なんとも興味深い実例となるだろう。

[プロフィール]古森 義久(こもり・よしひさ)
 1963年慶應義塾大学経済学部卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムサイゴン特派員。1975年サイゴン支局長。1976年ワシントン特派員。1981年、米国カーネギー財団国際平和研究所上級研究員。1983年毎日新聞東京本社政治編集委員。1987年毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。
 著書に、『危うし!日本の命運』『憲法が日本を亡ぼす』『なにがおかしいのか?朝日新聞』『米中対決の真実』『2014年の「米中」を読む(共著)』(海竜社)、『モンスターと化した韓国の奈落』『朝日新聞は日本の「宝」である』『オバマ大統領と日本の沈没』『自滅する中国 反撃する日本(共著)』(ビジネス社)、『いつまでもアメリカが守ってくれると思うなよ』(幻冬舎新書)、『「無法」中国との戦い方』『「中国の正体」を暴く』(小学館101新書)、『中・韓「反日ロビー」の実像』『迫りくる「米中新冷戦」』『トランプは中国の膨張を許さない!』(PHP研究所)等多数。

◎本稿は、「日本戦略研究フォーラム(JFSS)」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。

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