現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一社であるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々広がっている。メインとなるほぼ毎日の生配信に加え、主導する企画への参加や監修、季節ごとに発売されるボイス販売、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテイメントなフィールドでアーティストとして陽の目を浴びる者も増加している。

 今回記すのは2月19日に誕生日を迎え、3人組ユニット「▽▲TRiNITY▲▽」のボーカルとしても活躍し、深夜帯に配信するにじさんじライバーとしても存在感を放つ葉加瀬冬雪はかせふゆき)についてだ。

【画像】常に怪しい薬品を持ち歩いている、実験大好き系女子高生の葉加瀬冬雪

 葉加瀬冬雪は2019年7月6日にYouTubeで初配信し、以前当連載でも紹介した夜見れな加賀美ハヤトらとともにデビューした。

 かなり流暢な標準語をしゃべりつつも時折関西弁が混ざってしまうという口調で、新規のリスナーを戸惑わせることも多いが、彼女曰く「関西生まれ」とのこと。

 デビュー当初はかなり丁寧かつ言葉を選ぶことが多かったが、現在ではハキハキとした口調で会話することが多く、さまざまなカルチャーや世の中のちょっとした変化に興味をもつ好奇心の強さや、突如生まれる斜め上なアイディアを披露することもあるなど、さまざまな配信でリスナーを楽しませてくれるタレントだ。

 にじさんじでは、近い日にちにデビューした面々を「同期」と数え、時として一つのユニットやグループとして配信活動を共にすることも多い。

 実験好きな葉加瀬冬雪、アイドルマジシャン夜見れな、玩具会社の社長である加賀美ハヤト、それぞれの出自である「Scientist・Magician・CEO」の頭文字から取った名を持つユニット「SMC組(すめしぐみ)」は、デビュー直後から配信頻度が高く、3人全員が揃わない日でもコンビを組んで配信をすることがよくあり、現在に至るまで非常に良好な関係をファンに示している。

 現在のVTuberにとって、生配信をするのに大切なスキルがいくつかある。そのうちの一つに「ゲームに対するカンや技術」が挙げられるだろう。

 素晴らしい技術とセンスでリスナーを興奮させる者、優れた洞察眼でシナリオやストーリーを解釈し、リスナーに新たな気づきを与える者、ゲームを楽しむ悲喜交々としたリアクリョンや姿でリスナーを巻き込んでいく者、その形は様々だ。

 0時前後からスタートし、深夜帯をメインにして行われる彼女の生配信は、マイペースにリスナーとの雑談やゲームを楽しみ、リスナーからの言葉をヒントにしつつプレイしていくタイプだ。

 『Minecraft』ではにじさんじサーバーで様々な建築物を建てるのを好み、主観の画像から自分の位置を推測するゲーム『geoguessr』では世界各地の都市に旅だってリスナーとともに自分の居場所がどこかを考え、にじさんじ内の大会を通じてハマった『雀魂』やこれまた定番な『ポケットモンスター』シリーズなど、これまでにも多数のゲームをプレイしている。このほかにも、カイロソフト社のシミュレーションゲームや、得意とするお絵描きを活かした『あつまれ!おえかきの森』で参加型配信をすることもある。

 そんな葉加瀬冬雪とゲームの関係性を語る上で、やはり触れなければいけない側面がある。VTuberとしてデビューしてすぐに『マリオメーカー2』をプレイした彼女、そのプレイングを見た同期の夜見れな加賀美ハヤト、多くのリスナーは一笑いしたあとに呆然とすることになった。あまりにもアクションゲームがヘタだったのだ。

 ゲーム性を理解するまでは速いがあまりにゲームテクニックに乏しいため、「どうしてそれがそうなる?」と思わずにはいられないプレイを連発し、最初は笑っていた人たちも段々と心配になってしまうほど。配信後、彼女のプレイをみた家族から「こんなにマリオが下手なやつがうちの家族から生まれるはずがない」と言われてしまったという。

 このように書いてしまうと、ストリーマーとして「ゲームがヘタ」なのは欠点であり、配信することも躊躇してしまいそうになる。だがそのプレイングが徐々に上手くなっていけば、そこにドラマが生まれていく。リスナーも思わず「がんばれ」と念じずにはいられなくなる。葉加瀬冬雪のゲーム配信にはそんな要素がところどころに現れるのが特徴的だ。

 彼女は数年に渡ってアクションゲーム関係のタイトルも遊びつづけており、『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』は「死んだら即終了」シリーズとして数年に渡ってプレイし、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』ではメインストーリーを進めるのを後回しにて、散歩と雑談をふまえながらマイペースに配信するなど、徐々にアクションゲームのスキルは向上している。

 たしかに彼女はゲームが下手かもしれない。だが持ち前の察しの良さを活かしつつ、感情豊かにプレイしている姿は楽しげであり、ゲームをプレイしないファンやリスナーでも一緒に楽しめる配信が多い。

 少しだけ話が逸れるが、「ゲームがヘタでも構わない。ヘタでもゲームをして楽しむ姿を見てもらおう」という配信の在り方・見せ方、その先駆者と言えばキズナアイであろう。そんな2人は、犬山たまきしぐれういと共に「ゲーム下手くそVtuber」というストレートすぎる組み合わせで対談、4人でゲーム配信をしたこともある。

 2月26日スリープ状態に入るキズナアイのラストライブにも出演する葉加瀬冬雪、彼女もまた、キズナアイから少なくない間接的影響を受けていた人物ともいえよう。

 葉加瀬冬雪が好きなものを一つ挙げるとすると、やはり漫画ではないだろうか。デビュー当時のSNSや雑談配信のなかでも、何度となく漫画について語ってきた彼女。

 『呪術廻戦』『ブルーロック』『ブルーピリオド』といった大人気作品を筆頭に、『東京エイリアンズ』『灼熱カバディ』『ひゃくにちかん!!』『たいようのいえ』など、幅広いジャンルを読んでいるのがわかる。

 にじさんじにも漫画好きは多く、SNSでオススメ作品を投稿したり、フォロワーからおすすめ漫画を教えてもらったりすることも頻繁にあるほか、「漫画」をネタにした配信をするなど、その愛情はやはり強いといえる。

 集英社の協力のもとに配信された「ニジマンガ編集会議」にも登場。自身のオススメマンガをストーリーへの理解力、そして想像力を活かして面白くPRしてみせた。

 「1人でどこまでいけるかというと、カラオケ・焼肉・映画・水族館・動物園に行ったことがある。東京ディズニーランドだって1人で行ってみたい」というほどのアクティブな行動力、関西人らしさを感じるノリの良さ、あれやこれやとアイディアを出せる発想力。

 配信内容に引っ張られるようにどうしてもインドア趣味が集まりがちなにじさんじにあって、アクティブな行動力を持っている。そんな彼女とフィーリングが合ったのが先輩の鷹宮リオンだった。

 2019年8月に2人でコラボ配信をすると、ゲーム配信などでうかがい知れる「おバカキャラ」「ポンコツキャラ」ということでユニット名が「金のバカ銀のバカ」とリスナーからの公募で決まり、少しずつ2人での配信が増えていくことになる。

 2020年2月1日フレン・E・ルスタリオがデビューすると「ポンコツ気味なキャラクターで銅色に近い髪色が2人にピッタリなので、ぜひ3人コラボしてほしい」というファンの声に応じるようにして、3人揃って「金銀銅のポン」、のちに「▽▲TRiNITY▲▽」として活動していくことが増えていった。

 3人コラボでのゲーム配信のみならず、鷹宮のノリで「オリジナル曲を出そう」と3曲のオリジナル曲を制作したり、3人がプライベートの時間を共にすることも多いなど、持ち前のアクティブな行動力と仲の良さが人づてに伝わり、スタッフから告げられたのがNBCユニバーサル・エンターテイメントからのメジャーデビューだった。

 3人個々が甲乙つけがたい歌声を持つが、葉加瀬は3人の中でも柔らかでクリアな声色でボーカルワークを彩る。それまでにも頻繁に歌ってみた・カラオケ配信をしており、ボカロ楽曲やアニソンを中心に披露してきた歌声はどこか切なさを感じさせる質感で、多くのリスナーに好まれている。

 メジャーデビューを果たした▽▲TRiNITY▲▽として、現在では文化放送の『A&G ARTIST ZONE THE CATCH』で火曜日のメインパーソナリティを務めており、2021年10月6日にはデビューアルバム『PRiSM』を発表。TeddyLoidGARNiDELiAtoku、Q-MHz、sasakure.UKと豪華な作曲陣が参加した充実のデビュー作だ。

 メジャーデビューから1年が経過し、VTuberとしても年輪がまた一枚厚くなるなかで、彼女が度々口にするのは「アーティストとして活動をしながらも、配信者としても休まず活動していく」こと。VTuberとしてデビューしながら、シンガーであり、ストリーマーであるという、彼女の見せる姿はバーチャルアーティストの一つの見本のよう。2月19日に誕生日を迎える葉加瀬冬雪。メンタルや体力を大切にしながら、自分のペースで長く活動してほしいタレントだ。(文・草野虹)

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