乃木坂46が今月、デビューから10周年の節目を迎えます。2011年夏に結成、翌2012年2月22日にファーストシングル「ぐるぐるカーテン」でCDデビューした乃木坂46は、特に、2010年代後半にかけて大きな知名度を獲得しながら、アイドルシーンの中心的な存在へと成長していきました。

 昨年12月には、10周年を記念する初のベストアルバム「Time flies」をリリース、今年に入ってからは新加入となる5期生メンバーの紹介も順次行われ、11年目以降への新たな歩みを進めています。

固有のブランドを確立

 現在では確固たるスタイルを築き、新メンバーを受け入れる体制も盤石になっている乃木坂46ですが、今日のような方向性が、結成当初から誰の目にも定かだったわけではありません。まだ独自の色を持たない組織が、模索しつつ道を切り開き、固有のブランドを確立したのが、この10年だったといえます。

 改めて振り返れば、結成当初「AKB48の公式ライバル」という看板が掲げられた乃木坂46には、すでにアイドル活況の中心的存在だった、AKB48から派生した文脈が用意されていました。とはいえ、日常的なライブイベントや、年を追って活発になるSNSに特徴づけられた当時のアイドルシーンにあって、相対的にライブやSNS運用の機会が少なかった乃木坂46はむしろ、そうしたアイドル界のトレンドとは、やや異なる足場のグループだったといえるでしょう。

 その一方で、例えば、CDパッケージに収録される映像作品は、デビュー当初から膨大な数を誇り、その中で実験的な企画や数々の映像作家とのコラボレーションを続けていきます。また、CDジャケットのアートワークや衣装などのバリエーションもまた、量・質ともに豊かに制作されていきました。

 もちろん、種々の映像作品などにしても、スタート時点ではその継続性のいかんは不確かでしたが、やがてグループ内に息づく独自の文化として蓄積され、年を追って注目されるようになります。

 メンバーは、乃木坂46単位での基幹的な活動としての楽曲リリースやライブパフォーマンスの他、それぞれに適性を探りながら強みを見つけていきます。グループ全体の傾向としては、舞台演劇などの俳優業やモデル業などがよく知られるところです。

 それぞれがグループ内の活動を通じて強みを探り当てていった成果として、2022年に入ってからの動向でいえば、大劇場のミュージカルなどで演技適性を磨いていった生田絵梨花さんが、グループ卒業後に太田プロダクションへ、ラジオパーソナリティーとして安定した語りの力を示してきた新内眞衣さんが、セント・フォースへ所属して活動を継続させるなど、オリジナルのキャリアを開拓しています。

 こうした足跡をたどっていく中で見えてくるのは、アイドルというフォーマットが、いくつもの方向に可能性を開く、複合的なエンターテインメントの土壌として存在しているということです。

 それは、メンバー個々が演者としての可能性を幅広く探る場所という意味でもあり、また、膨大な映像作品群などに代表されるように、さまざまなジャンルのクリエイターが可能性を投じる場所という意味でもあります。単一の要素に還元できない多様さが、このジャンルを特徴づけています。

“坂道シリーズ”の展開

 乃木坂46が、一つのグループとして社会に広く知られる存在になっていく一方、2016年に姉妹グループとして、欅坂46(現・櫻坂46)が、2019年には、当時の欅坂46から独立する形で日向坂46がデビューします。これら、ソニーミュージックレーベルズが手掛けるアーティスト群によって、“坂道シリーズ”という統一的な枠組みが確立されました。

 かつてAKB48の文脈から派生した乃木坂46は、自身のブランドを確立した後、今度は新たな色を派生させていく立場になったといえます。この10年のうち半分ほどは、“坂道シリーズ”が展開していく歴史でもありました。

 乃木坂46は、年数を重ねるにつれて表現するテーマ性もユニバーサルなものになり、成熟する姿を表現するようになりますが、櫻坂46は、よりクールなスタイリッシュさや、シリアスなたたずまい、ドラマチックな群舞を見せ、他方で日向坂46は、その両者とも性格の異なるバラエティー的な、にぎにぎしさやダンスの心地よさを体現するなど、後継の2グループはそれぞれ、早々に独自のカラーを表現していきます。

 その一方で、アートワーク面での豊潤さやメンバー個々のジャンル越境的な活動の幅など、乃木坂46にルーツを持つ特性も継承し、時に先達(せんだち)をしのぐような、さえを見せています。

 このような連続性を意識するならば、もとより、その源流にはAKB48グループがあります。組織の歴史に一日の長がある48グループだけに、グループで活動してきたメンバー個々がその後、俳優をはじめ、多方向に道を切り開いてきた例もまた豊富です。

 また、高橋栄樹さんや多くの映画監督などによって多様なアプローチがなされてきたMVにせよ、AKB48の衣装制作に端を発し、やがてより多岐にわたる衣装や企業・学校関連の制服等へと事業を拡大した、茅野しのぶさんを中心とした「オサレカンパニー」の発展にせよ、アイドルという土壌を礎にして花開いたものでした。

多様な可能性を投じる場

 所属するメンバーにとっても、各分野のクリエイターとして関わる人々にとっても、多様な可能性を投じるための場――。連続性を持ちつつ、歴史や立ち位置を異にする各グループの土壌としての共通性を捉えるとき、今日的な多人数グループが、どのような性格のエンターテインメントであるのか、その輪郭が少しずつ見えてきます。

 そして、現在のメジャーフィールドにおいて、最も代表的な事例が“坂道シリーズ”の実践ということになるでしょう。

 こうした共通の特性を取り出してみることは、アイドルという、その総体が極めて捉えがたいジャンルを、一つの様式を持った文化として認識するための、一助になるかもしれません。そのような、やや俯瞰(ふかん)的な視野は、アイドル固有の豊かさを評価する際にも、また、しばしば演者自身への理不尽な負荷として表れるような、慢性的なジャンルの問題点を問い返す際にも、踏まえられてよいはずです。

ライター 香月孝史

齋藤飛鳥さん(2021年12月、時事通信フォト)、秋元真夏さん(2019年12月、時事)