【おとな向け映画ガイド】

今泉力哉監督と城定秀夫監督がコラボしたR15+のラブストーリー『愛なのに』『猫は逃げた』相次いで公開

ぴあ編集部 坂口英明
22/2/20(日)


今週(2/23〜26)の映画公開は19本。うち全国100館以上で拡大公開される作品が『ドリームプラン』『ナイル殺人事件』『シラノ』『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』の4本。中規模公開、ミニシアター系が15本です。今回は、今泉力哉と城定秀夫という気鋭の監督がタッグを組み、相次いで公開される2本の映画『愛なのに』(2/25初日)と『猫は逃げた』(3/18初日)を紹介します。

“L/R15”というあらたなプログラムピクチャー

できれば、あまり鼻息荒く、超大作!とか撮らずに、小さくても味わいのある作品をしなやかに連打する、そんな存在でいてほしいと思うのが今泉力哉監督だ。『愛がなんだ』『街の上で』……いずれも、若い人の共感をよんだ愛をめぐる映画。年配が観ても愛すべき作品ばかりだ。その今泉監督が、城定(じょうじょう)秀夫監督と組んで、面白いコラボレーションを始めた。

城定監督は、ユーモアセンスのあるピンク映画で人気となり、『アルプススタンドのはしの方』という、高校の野球試合を舞台にしながらゲームシーンのないユニークな青春映画で話題になった。いま売れっ子の監督だ。

このコラボ、具体的には、お互いが監督、脚本を受け持ち合うという試み。名付けて「L/R15」。つまり、「15歳未満は観られない、濡れ場があるLOVEストーリーにしましょう、といっても、ごく自然な、必然性があってのベッドシーンですよ」って、そんな軽いお約束で作られた2本。

ともに、くすりと笑えるライトなラブコメ仕立て。そろそろあきてきたタイムワープもののような荒唐無稽な設定もなく、難病のヒロインも登場しない、ごく普通の男女の物語。「そういうことってあるある」と感じられるリアルさが魅力だ。

『愛なのに』

先に公開されるのは、城定監督で今泉の脚本『愛なのに』。主人公は古本屋の店主(瀬戸康史)、30歳でひとり暮らしをしている。部屋にお父さんらしき遺影があるので、家業を継いだと思われる。のんきに、早川のポケミスを読みながら店番をしていると、目の前で女子高生(河合優実)が万引き。逃げたところを追いかけ、捕まえて事情をきけば、どうやら彼のことが好きで、気を引くために万引きをしたようだ。

この、突然16歳の女子から告白されるという年の差ラブと、店主の元カノ(さとうほなみ)との焼けぼっくいラブストーリーが平行して進行する。元カノは、別の男性(中島歩)と結婚直前なのだけれど、その婚約者はなんと、ふたりの式を担当するウェディングプランナー(向里祐香)とできていて……。と、イタリア喜劇のような、艶笑コメディの展開に先がよめません。

トラブルにどんどん巻き込まれていく生真面目で人の良さそうな店主が、かわいそうであり、考えようによってはうらやましくもありって感じです。

『猫は逃げた』

次に公開される今泉監督で城定の脚本『猫は逃げた』も、不器用で、なんか一生懸命な男女のもめごとの話です。こちらは離婚寸前、レディコミ漫画家の妻(山本奈衣瑠と)作家をあきらめて週刊誌記者をしている夫(毎熊克哉)のカップルが主人公。愛猫の「カンタ」をどちらがひきとるかが争点で、その決着がつかず、やむをえず同居している、という設定。

ふたりにはそれぞれ浮気相手がいて……。妻の方は担当編集者(井之脇海)、夫には年下の同僚(手島実優)。そこに、タイトルのとおり「猫は逃げた」事件がおきるのです。

猫「カンタ」を演じるのはオセロという名の、人気猫タレント(ドラマ『ミステリと言う勿れ』にも出ている! )ですが、おとなしくって、とてもいい子。演技もとびきりうまい。実は「カンタ」は『愛なのに』の方にも出演しているのです。古本屋の店主のところへ「ごはん」をもらいに遊びに来ていました。つまり、この2作は、ご近所で起こっているできごとってわけ。どこでもありそうな、いろいろ悩みをかかえ生きている男と女の、ちょっとしたできごと。

劇的なドラマがあるわけでもないけれど、しみじみ、ほのぼのとしていて、まるで昭和の日本映画のプログラムピクチャーのような味わい、といいましょうか。

【ぴあ水先案内から】

笠井信輔さん(フリーアナウンサー)
「……インディペンデント映画界のドリームマッチとはこのこと……」

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(C) 2021「愛なのに」フィルムパートナーズ
(C) 2021「猫は逃げた」フィルムパートナーズ