笠井叡新作 天使館ポスト舞踏公演『牢獄天使城でカリオストロが見た夢』が2022年3月3日(木)~6日(日)世田谷パブリックシアターにて行われる。

天使館は、舞踏家・振付家の笠井叡によって1971年に設立され、以後50年にわたり国内外で活躍するダンサー、振付家を多数輩出してきた。この度は山田せつ子、大森正秀、山崎広太ら出身者も集い、18世紀に一世を風靡し数奇な人生を送ったアレッサンドロ・ディ・カリオストロに想を得た新作を発表。ピアニストの島岡多恵子も出演する。

笠井はダンス界のレジェンドとして旺盛な創作活動を展開している。澁澤龍彦原作の『高丘親王航海記』(2019年)、師事した大野一雄とのデュオ作品を川口隆夫と笠井瑞丈に対してリ・クリエイションするなどした『DUOの會』(2020年)、大植真太郎、島地保武、辻本知彦、森山未來、柳本雅寛という気鋭たちと共演した『櫻の樹の下にはー笠井叡を踊る―』(2021年)といった話題作を連打。今回も新旧の天使館メンバーと共に生み出す稀有な機会だけに注目が集まる。

笠井叡 コメント 

もし人類が突然、
この地球から蒸発していなくなったら、
残された大自然はどうなるか。
翌日から、目に見えぬ速度で、
枯れ始めるだろう。
もしこの地球上で、突然
すべてのダンサーたちがダンスすることを辞めてしまったら、
やはり翌日から
自然に属する人間の肉体そのものが
枯れ始めるだろう。

僕はいまだにダンスすることに
一抹の「恥ずかしさ」と「後ろめたさ」を感じ続けている。
言うべきこと、言いたいことがあるならば、
現実社会の中で、コトバを一声、発するのだ。
だが、いまもって舞台上の「沈黙のダンス」に
僕は加担し続けている。
一体、ダンスは根源のコトバになるのか。
新しい大自然を創造するのか。

ローマに天使城(サンタジェロ)
という城がある。
かつては政治犯の牢獄であり、
マニエリスムの絵画の収集宝庫でもあった。
フランス革命の後、ローマにやってきた
カリオストロ
イタリア革命を画策中
逮捕されて天使城に幽閉される。
一七八九年十二月のこと。
それからスイスのサン・レオの独房に移され
一七九五年に死んだ。

カリオストロが夢見たのは
政治的革命ではない。
ダンスが人間に自由をもたらすことを、
ダンスが自然界と人間を「友情」で
結びつけてくれるということを、
ダンスが根源のコトバとなることを、である。


文=高橋森彦

『牢獄天使城でカリオストロが見た夢』フライヤー 宣伝写真:笠井爾示