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 地球上の生命の集団的な活動が地球を変化させてきた。例えば植物は、光合成を発明して、酸素を排出することで地球全体の機能が変わった。

 個々の生命は自分自身のことをやっているだけだが、その影響は惑星全体に及ぶ。

 生物圏」として知られる生命の集団的な活動が世界全体を変えるのなら、認知の集合的活動、そしてその認知に基づく行動もまた、地球を変えることができるのだろうか?

 生物圏が進化することで、地球自体が生命を持つようになり、意識が宿るのだろうか?

【画像】 地球に意識は宿るのか?

 ガイア理論は、相互作用しながら自己を維持する生物圏を持つ地球を、「巨大な生命体」ととらえる考え方である。生命を宿す惑星に生命があるとするなら、意識を持つ生命が暮らす惑星に意識があるとみなしてもいいだろう。

 これは米ロチェスター大学のアダム・フランク氏らが『International Journal of Astrobiology』(2022年2月7日付)で論じた思考実験だ。

 この論文でフランク氏らは、地球規模で営まれている認知活動を「惑星知性」と呼び、気候変動

などの世界的問題を克服するための鍵だと論じている。

・合わせて読みたい→宇宙は超知性を持つ宇宙人によってデザインされたマトリックス的コンピューターゲームである。(英研究)

 「もしも私たちが種として存続したいのなら、私たちの知性を惑星のために使わねばなりません」とフランク氏は話す。

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image credit:Michael Osadciw

成熟した技術圏を目指せ

 ここでのポイントは、生命の集団的な活動が自己を維持するためのシステムを形成しているというところだ。

 たとえば最近の研究によって、森の木々は菌類のネットワーク(菌根ネットワーク)を形成して、地下でつながり合っていることが明らかにされている。

 この菌根ネットワークは全体を維持するために使われる。森のある部分で栄養が不足すると、他の部分が菌根ネットワークを通じて必要な栄養を送ってよこすのである。

 今から数十億年前、まだ地上に微生物しかいなかった大昔。生命が地球に与える影響力は小さく、世界的な相互作用はなかった。フランク氏は、この段階を「未熟な生物圏」と呼んでいる。

[もっと知りたい!→]地球は26秒ごとに脈動している。発見から60年が過ぎた現在も原因は不明

 25億~5億4000万年前になると、大陸が安定し、植物は光合成を開始。大気に酸素が蓄積され、オゾン層も形成された。

 生物圏は地球に大きな影響を与えつつ、「成熟した生物圏」となり、そこで生命が暮らせる環境を維持するようになった。

 一方、技術文明を発達させた我々人類は、地球全体に大きな影響を与えるようになったが、それは自分たちを維持できるものではない。この段階を「未熟な技術圏」という。

 私たちはエネルギーのために化石燃料を燃やし、それによって地球の大気や海を劣化させている。自分たちが生きるために地球を破壊してしまうのでは、いずれ人類もまた破壊されるだろう。

 フランク氏は「私たちには地球最善の利益のために共同して対応する力がありません。地球上に知性は存在しますが、地球の知性はありません」と述べる。

 種として生き残るには、私たちは地球のために働かねばならない。技術文明と地球の相互作用によって、地球環境が維持される段階、「成熟した技術圏」が私たちが目指すべき方向だ。

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photo by Pixabay

個々の作用が全体を維持する複雑系

 成熟した技術圏では、技術が地球と統合されて、1つの「複雑系」を構成する。

 複雑系とは、簡単に言うと、個々の小さな部分の総合作用で織りなされる全体的な動きのことだ。先程の森もそうだし、インターネットや金融市場もそうだ。

 複雑系は、小さなパーツの相互作用によって生まれるが、その全体的な様子を個々のパーツのから知ることはできない。たとえば、無数の脳細胞で構成される脳もやはり複雑系だが、脳細胞の働きがどれほど理解されても、その人の性格や個性を知ることまで難しいだろう。

 しかし複雑系には2つの重要な特徴がある。

 1つは、「創発性」があること。すなわち、全体的な性質が個々のパーツの性質を単純に合計したものではなく、それとは違う新しい性質が生まれていることだ。

 もう1つは、「自己を維持する」ように働くことだ。

 生物圏は何十億年も前に、窒素や炭素を移動させて、生命を維持する方法を考案した。それと同じように、私たちが築き上げた技術圏においても、同じく自己維持する方法を見つけなければならない。

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宇宙で目にできる唯一の地球外文明は「成熟した技術圏」

 こうした研究は、今後私たち人類が目指すべき方向性を示唆している。だが、それと同時に、この宇宙に存在するかもしれない地球外文明について、ある壮大かつ重要なビジョンを提起している。

 それはこの宇宙で生き残れるのは、成熟した技術圏に到達した文明だけだということだ。NASAの助成を受けて、地球以外の場所に存在する技術の痕跡を探しているフランク氏は次のように述べる。

 「いつか発見されるかもしれない唯一の技術文明は、自殺しなかった文明だけです。そうした文明は真の惑星知性にまで到達した文明に違いありません」

 これこそがこの研究の真価なのである。私たちは生きるために温暖化を乗り越えねばならない。それができて初めて、人類は銀河の高度文明の仲間入りを果たしたと言えるのかもしれない。

References:Can a planet have a mind of its own? / written by hiroching / edited by parumo

 
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地球に意識が宿るのか?宇宙物理学者の思考実験