(金 愛:フリージャーナリスト)

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 文在寅政権は、後世に失敗した政府として記憶されることだろう。

 任期末を迎えた現在、韓国人は物価高と低成長、高い失業率に喘いでいる。新型コロナ対策による強制的な営業制限のため、街中には廃業した店が並び、働き口を失い、再就職もままならず、失業手当を受けるために列を作る人が後を絶たない。

 20回にもおよぶ規制によって最終的に2倍近くにも高騰した不動産価格も、今年に入り下落局面を見せており、資産バブルが崩壊する一歩手前だ。銃を持った軍人ではなく、国民が選出した指導者の手によって、国民が死を迎えようとしている。

 この5年間に、大統領など行政府の権限が強化する一方、司法府、メディア、監査院、検察、国会などの権力牽制機関が独立性および権限を失っている。国民の熱狂の中で合法的な手続きが進み、権力を掌握したヒトラームッソリーニと同様に、韓国の大統領府も大きな権力を手にしつつある。

 左派政権による経済政策は、富裕層に対する懲罰的な増税や大企業に対する各種規制など、円滑な経済成長を阻害するものだった。

 環境政策も、脱原発の選択によってエネルギー需給が不透明になった。分配を優先した政策は最低賃金の急激な上昇を誘発し、内需経済を停滞させるとともに、自営業者を経営難に陥れた。
 
 おかげで今年の韓国の借金は1000兆ウォンを越え、国家負債比率は50%を突破している。文在寅政権はこの5年間、ひたすら赤字予算を編成し、国の借金を400兆ウォンも積み上げた。とりわけコロナ禍の2年間はひどく、240兆ウォンの急増である。陰気で暗く、光が見えない現在が文大統領の執権5年目であり、韓国の憂鬱な現実だ。

不正が続出している韓国左派の行状

「弾劾クーデター」によって政権を獲得したと言われている文大統領は、昨年、朴槿恵大統領を赦免した。収監後、4年9カ月の歳月が流れ、朴槿恵大統領の健康状態が収監生活に耐えられないほど悪化したのというのが主な理由である。この時に「国民統合」という名分も掲げた。

 だが、文在寅大統領が言及した国民統合が成り立つとは到底思えない。弾劾デモを導いた市民団体や進歩指向の政党、セウォル号遺族までが朴前大統領の赦免に反対し、国民はより一層分裂する兆しを見せた。ろうそく集会を導いた彼らの大部分は、「文在寅大統領ろうそく集会精神を毀損した」と、70歳の朴槿恵大統領の釈放に反対するデモの先頭に立った。

 さらに彼らは、扇動とデモで弾劾された朴槿恵大統領が、「謝罪」と「反省」をしていないと嘆き、怒りを露わにしている。70歳という年齢と命に関わる健康状態を理由に赦免を受けた前大統領にまで謝罪を要求し、最後まで犯罪者扱いする。そして、「罷免不許可」を叫びつづけるのが、韓国左派の実態である。

 実は、筆者もろうそく集会に参加し、朴槿恵大統領の不正を糺した一人である。今思えば、ろうそく集会こそが熱狂の中で生まれた愚行の所業だった。当時の筆者は国の行く末など何も理解できていなかったということを、この5年の文政権で痛感した。文在寅氏を選べば、朴槿恵大統領よりも良い政治になると多くの国民が根拠もなく信じたのだった。

 大統領選挙まで1カ月を切った現在、独立活動家を自称する文在寅政権の政治家の二面性が明らかになりつつある。

 例えば、京畿道を親日清算すると述べた与党「共に民主党」の李在明大統領選候補は、法人カードを私的に流用し、自宅に寿司を10人前ずつ出前したことが明らかになった。

 金元雄・光復会会長は、韓国で親日狩りの先頭に立ったが、運動のかたわらで数千万ウォンの秘密資金を作った。

 国会議員にまでのし上がった「慰安婦の片腕」尹美香氏は、慰安婦をビジネスの道具として用い、数億ウォンの後援支援金を引き出した。

 反日を煽った文在寅大統領も、それは同じだ。

 朴槿恵大統領の弾劾を扇動し、クーデターのような形で政権交代に成功した文在寅大統領は、この5年間、韓国人を“コロナ独裁政治”のドロ沼に陥れた。積弊清算を前面に押し出し、反日扇動を日常的に展開する一方、自身に反対する韓国右派を敵と想定し、処断することに集中した。

 反日運動は、何の効果もなく終わった。2019年に起きた大規模な不買運動は3年が過ぎた今、いくつかの製品の売り上げは不買前を上回っている。

 慰安婦や徴用工問題によって文在寅大統領は日韓関係を破綻直前まで悪化させたが、過去の諸問題もまた解決の糸口すらない。

外交安全保障でも失敗続き

「韓半島平和プロセス」という名目で親北路線を謳ったが、結果は大失敗だったと言える。

 北核問題の解決、北朝鮮との経済協力を通じた「朝鮮半島の新経済地図」の実行、金剛山観光および開城工業団地再開を含む韓国と北朝鮮市場の統合、南北基本協定締結、北朝鮮人権問題および離散家族・国軍捕虜・拉致問題の解決など、文在寅政権が構想した対北朝鮮関係の事案は、そのどれもが何の進展もない。

 その中で最も大きな課題は北の核問題だが、北朝鮮による軍事挑発やミサイル挑発、核実験と非核化は実現していない。北朝鮮は最近、シンガポールでの米朝首脳会談での合意を反故にし、核実験再開と、米国本土に対する打撃能力を持つ大陸間弾道ミサイル(ICBM)再発射を示唆している。

 この間、文在寅政権の親北親中政策によって米韓同盟は弱まり、日韓関係は文在寅政権の扇動で過去最悪の状態になった。米国と中国の間で均衡外交を追求し、実利を取りまとめるのが文在寅政権の外交原則だが、米国に無視され、中国にも無視されているのが、今の韓国の文在寅政権外交の実態である。

 メディアとのコミュニケーションが不足していた朴槿恵政権を「息の詰まる不通政権」と強く批判した文在寅大統領だが、自身も不通政権になった。

 文在寅大統領は就任後初めての記者会見で、「重要な内容は、大統領が直接申し上げるようにする」と約束した。しかし、文大統領による直接ブリーフィングと記者懇談会を合わせた回数は、今年1月までの任期中、10回に過ぎなかった。今年は、新年記者会見までキャンセルしており、朴前大統領の4回とほとんど大差ない。

 文在寅大統領と同じ左派系政権である金大中、盧武鉉の両大統領は直接ブリーフィングと記者懇談会回数がそれぞれ150回に達していた。それと比較すれば、文在寅大統領は意図的にメディアとの直接対話を無視していると言っても過言ではない。

韓国民はこの5年間を思い出すべき

 文在寅大統領は就任後の2年間、「積弊清算」という名前の政治的な報復で200人以上を拘束した。

 文在寅政権自体に関わる不正疑惑も、曹国前法務長官一家による不正、文在寅大統領の友人を当選させようとした蔚山市長選介入疑惑など、政治経済の両面で疑惑にあふれている。

 それでも文在寅政権は、政権に対する捜査を露骨に防いできた。検察改革という名目で、中国共産党刑事部を真似た高位公職者犯罪捜査処を設置した後、側近を調査する記者を監視した。民主主義の完璧な崩壊だ。

 今の民主党は、国会議席300席中180席を占めており、18の常任委員会の委員長職を務めている。野党による追及なしで、提出される法案、人事を無条件に通そうとしている。いくら過半数が与党と言えど、与党議員が私利私欲や北従思想に、ここまで傾倒することは思わなかった。

 そんな文大統領が、その間、国会聴聞会の結果を無視し、任命した長官は32人にも達する。盧武鉉政府の3人、李明博政権の17人、朴槿恵政府の10人よりもはるかに多い。本来、長官人事は国会聴聞会の結果を参考に行うものだ。

 ちなみに、文大統領と北従思想議員との関係が悪化し、解任に追いやられた一人が今回大統領候補として出馬をしている尹錫悦氏である。

 これほどまで文政権に権力を与えてしまった責任は、我々国民にある。

 しかも、文在寅政権の後に続こうとしている、共に民主党大統領選候補は親日派を清算するとしている、前科4犯と指摘されている李在明だ。果たして、韓国は政権交代を成し遂げることができるのだろうか。

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