(平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授

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 いい加減に早いところ終わってほしい。

 投票日まであと10日ほどになった韓国大統領選挙(投票日は3月9日)。今度ばかりは本当にそう思っている。韓国人と話をするのが面倒なのだ。

 革新系で与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補と保守派で最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補という、当選が有力視される2人で政策を比べても、大きな違いがあるようには見えない。加えて、相手のスギャンダルをネタにしたネガティブキャンペーンは相変わらず続いている。

誰が大統領になっても変わらない?

 かつてないスキャンダル合戦のせいなのか知らないが、今度の選挙はやっぱり特別なのだろう。韓国人に会うと、ほとんどの人が申し合わせたように同じ質問をしてくるのだ。

「平井さんは、誰を支持しているんですか?」

 私からすると、まるで尋問だ。ついつい神経を尖らせてしまう。そうなるのは、日本に対する李氏と尹氏の向き合い方が大きく違うからだ。対日強硬派の李氏に対して、尹氏は柔軟な姿勢を示している。

 もしも私が尹氏を支持していると言おうものなら、「やっぱり日本人か」と妙な納得をされそうではないか。反対に李氏を支持していると言えば、「へぇ、日本人なのに、そうなんだ」と訝しげに思われそうな気がするのだ。

 こういうときに韓国人が使う「日本人」という言葉の意味は人によって様々だ。言葉通りの意味の時もあるし、否定的な意味が入ることもある。私は韓国人のそうした思考パターンがついつい気になってしまう。気の回しすぎなのかもしれないが。

 また面倒な質問をしてくるものだな・・・内心そう思っていると、自分の顔が引きつっているのが何となくわかる。そしてやっとの思いで、「そうですねぇ、難しいですよねぇ」と口を濁す。

 正直なところ、私もわからない。それに私のような非政治的人間からすると、誰がなっても韓国はそんなに変わらないように見える。

 韓国が抱えている問題として、住宅価格の高騰、若者の就職難、あと3年で財源が底をつくという健康保険が挙げられるが、どれも昨日今日に始まったことではない。文在寅ムン・ジェイン)政権の最大の失策とも言われる住宅問題にしても、際限を知らぬほどの“土地転がし”が政権成立以前から長く続けられてきた結果なのだ。たまたまそのしわ寄せがかなり出ていたときに、不動産政策に弱い文政権が成立しただけである。

なぜ私は李氏に軍配を上げたいのか

 とはいえ、私なりに期待するところもある。日韓関係で言えば尹氏がいいぞ、と言いたいところだが、冷静に考えると李氏に軍配を上げたい。

 もちろん私は日韓関係の改善を望んでいて、その点からは尹氏を評価したくなるのだが、本人の言うとおりに実現できるのか甚だ疑問なのだ。

 尹氏がアピールする日韓関係改善は、絵の中の餅のように思えてしまう。保守系メディアの朝鮮日報でさえ、「現実的ではない」とツッコミを入れるほどなのだ。日韓関係の改善は必要だが、尹氏の考える方策ではその実現までに「長い年月がかかる」という。もしも尹氏が大統領になって公約通りに日韓関係の改善に乗り出したとしても、政権が続いているあいだに、慰安婦問題や徴用工問題を巡って韓国社会に蓄積している不満や疑念を解消できるわけではない。

 それだったら、むしろ李氏のように韓国社会の思いの丈をストレートに日本にぶつけてみるのも良いのではないだろうか。日本政府がそれを受け入れるとは考えにくいが、韓国は日韓関係の膿を出すべきだろう。それをどこかでやらないといけない。いい加減、もうそういう時期なのではないか。その上で、日本が必要だと思えば関係改善をすればいいのではないか。

「危なっかしさ」に左右される大統領選

 日韓関係を横に置けば、次期大統領は本当に誰が良いのかわからない。多くの韓国人も迷っている。ただ印象的なのは、無党派層のなかで、かつてどちらかというと「共に民主党」に投票する傾向にあった人たちの多くが、今回は尹氏がいいのかもしれないと考えている点だ。その理由として、李氏は「どこか危なっかしい」という。昨年、「共に民主党」所属のソウル市長、釜山市長のセクハラ疑惑が報じられたり、李氏自身を巡るスキャンダルも深刻に見えるからだろう。

「危なっかしさ」は尹氏にもあった。当初は尹氏が失言や妻の経歴詐称疑惑、党内との連携不足などで、「危なっかしさ」を露呈していた。ところがそれは今年(2022年)になって改善された。逆に、李氏は今年に入ってから、もともとあった疑惑を尹氏に追求されたほか、妻の公金流用疑惑が新たに報じられた。

 つまり、年末年始を境にして、尹氏と李氏の「危なっかしさ」が逆転したのだ。それが支持率にも影響し、今月の半ばには尹氏のリードが報じられている。

「危なっかしさ」に影響される支持率なのだから、残りの選挙期間にちょっとした事件が報じられれば有権者が支持候補を変える可能性はいくらでもある。

 尹氏は検察出身だからなのか李氏の疑惑を攻撃する傾向が強く、先週の公開討論会でもネガティブキャンペーンを展開した。ただ、やりすぎは良くない。そのせいか、最新の世論調査では李氏が追い上げ、2人の支持率はまたもや拮抗状態に突入した。

 ただ、雀の涙しか給料が上がらないわが身としては、それに見合うように物価上昇を抑えてほしいと次の政権には願っているだけだ。それが韓国の現実だと思う。

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