(沖 有人:スタイルアクト代表取締役)

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「地域一番マンション」という言葉がある。その駅周辺で最も高級なマンションを指すが、定義はあいまいだ。そこで、「その物件が新築当時から現在までいくらで取引されてきたのか」を分析することで序列をつけた。そして、取引価格の推移は、その物件に住む居住者の平均年収にも変換することができる。

 結果を見ると、いわゆるヴィンテージマンションや駅近タワー、大規模再開発案件であることが多い。具体的なマンション名を出しながら、そこから読み取れる物件の選び方の要点を提示したい。

 まずはヴィンテージマンションの代表例から始めよう。

 恵比寿駅のそばには、かつてサッポロビールの工場・配送センターがあった。その跡地に再開発された恵比寿ガーデンプレイスには、オフィス、ホテル、レストラン、デパート美術館に加えて、恵比寿ガーデンテラス壱番館というタワーマンションが建っている。

 竣工は30年近く前の1994年だが、その居住者の平均年収は3016万円と推計される。それだけ高い価格で取引されてきたということだ。駅直結の再開発エリアのマンションは地域一番になりやすい。

 同様に、月島駅の再開発エリアである大川端リバーシティ21にあるセンチュリーパークタワー(1999年分譲、平均年収:1593万円)は著名人が多く住むことで有名で、毎朝エントランスにタクシーが列をなすという。隅田川の分岐に位置し、テレビドラマなどのロケ地にも多く使われる景観を含めた一体感がランドマーク性をより高いものにしている。

 浜松町駅の再開発エリアである汐留シオサイトには、東京ツインパークス(2002年分譲、平均年収:1983万円)というツインタワーが建つ。首都高速羽田空港へのアクセスの良さから、プロ野球選手など移動が多い高年収層が住んでいる。総戸数はちょうど1000戸。浜離宮側は眺望も圧巻で、資産価値が落ちにくいことで有名だ。

 都営新宿線住吉駅と西大島駅の間に建つザ・ガーデンタワーズ(1996年分譲、平均年収:1052万円)というツインタワーは、新婚当時私が新築で購入したマンションだ。上層階はペントハウス仕様になっており、著名人が住んでいた。両国国技館に近いため、私の隣は関取が住み、内廊下には椿油のにおいが残ることが多かった。薄暗い内廊下で思わず出くわすとビックリしたものだ。

駅トップ物件が最多のブランドは?

 ヴィンテージの次は新築を取り上げてみたい。

 新築分譲マンション価格が高騰していることはニュースで取り上げられるほどで、新築が取引価格で最も高くなる駅も増えてきた。その中にあって、ダントツの平均年収は渋谷駅直結の宮益坂ビルディング ザ・渋谷レジデンス(平均年収:5919万円)だ。山手線ターミナル駅で駅直結の物件はこれだけかもしれない。土地を購入したわけではなく、建て替えによって稀少立地が実現している。今後も駅近物件の建て替えは要チェックだ。

 最近の新築では、野村不動産のプラウドタワーが4物件あり、存在感を高めている。東池袋駅のプラウドタワー東池袋ステーションアリーナ(平均年収:1377万円)、亀戸駅のプラウドタワー亀戸クロス(平均年収:1014万円)、小岩駅のプラウドタワー小岩ファースト(平均年収:996万円)、金町駅のプラウドタワー金町(平均年収:856万円)がそれだ。駅近のタワーは目立つため、地域一番になりやすい。

 東京都区部にはおよそ400の駅がある。その駅の中でも、33駅でプラウドがトップだった。

 売主という意味では、三井不動産レジデンシャルも同数の33を数える。ブランド名は分かれるが、最高級グレードのパークマンション(ブランド全体の平均年収:4368万円)、上級グレードのパークコート(同:1857万円)、総戸数の多いマンション群のパークシティ(同:1216万円)、タワーシリーズのパークタワー(同:1100万円)、庶民的なエントリー商品企画のパークホームズ(同:880万円)、単身向けのコンパクトマンションのパークリュクス(同:750万円)という全ブランドが駅1位を獲得している。

 また、合併した藤和不動産を含むと、三菱地所レジデンスも同数の33物件がその駅のトップ物件だ。次いで、住友不動産の24物件、大京のライオンズシリーズが老舗として17物件入っている。ブリリアの東京建物が14物件、ブランズの東急不動産が9物件で、これら大手である「メジャー7」の合計は、全駅の4割強を占める。ブランドは、そのシェア以上の価値を発揮しており、それだけ長く資産価値を保っていると言えるので、買っても安心ということだ。

駅から離れていても高価格マンションの秀逸さ

 駅に近いという立地条件も重要な要素になる。

 駅近のロケーションを生かした物件は高い建物を建てやすいことから、タワー物件が多い。代表的なものは千代田区神保町駅の東京パークタワー(平均年収:1801万円)は高層階から皇居を望むことができるため、格別の価値がある。

 湾岸でも唯一無二の物件として、お台場海浜公園駅のザ・タワーズ台場(平均年収:1154万円)がある。お台場付近で港区アドレスの物件はこれだけで、近隣の有明などは江東区アドレスなので資産価値が異なる。

 この他、南千住駅のブランズタワー南千住(平均年収:910万円)、大泉学園駅のプラウドタワー大泉学園(平均年収:968万円)なども徒歩1分と、どの物件よりも駅に近いため、「地域一番」という評価は今後も変わらない可能性が高い。

 逆に駅から10分以上でも地域一番になった物件もあり、示唆に富む。

 喜多見駅のパークシティ成城(平均年収:1102万円)はゴルフ練習場跡地にできた387戸の大規模物件で、商品企画が秀逸だ。

 地下駐車場にした敷地計画に、平均100m2の間取りが素晴らしい。センターインという玄関位置から、左右にリビングダイニング(public)と居室(private)を分けながら(PP分離)、キッチンと洗濯機のある脱衣所をつなぐなどの理想的な生活動線を巧みに実現している。私は、この物件の間取りが今まで見た中で最も印象に残っていて好きだ。

 同様に、駅から離れている物件は大規模で、共用部分を含めて充実している。三軒茶屋駅のグランドヒルズ三軒茶屋ヒルトップガーデン(平均年収:1926万円・311戸)、下丸子駅の東京サーハウス(平均年収:969万円・758戸)もこのパターンに入る。

「地域一番」のタワーは枚挙にいとまがない。

マンション選びでは年収も重要

 秋葉原駅前の再開発秋葉原クロスフィールド内にある東京タイムズタワー(平均年収:1652万円)、最寄りは乃木坂駅の東京ミッドタウン内にあるパークコート赤坂檜町ザタワー(平均年収:3606万円)、御茶ノ水駅前の再開発のワテラスタワーレジデンス(平均年収:1756万円)は駅前再開発物件で鉄板の資産性である。

 公園も一役買っている。錦糸町駅の錦糸公園を南に望む好立地ブリリアタワー東京(平均年収:1204万円)、木場駅の木場公園のパークサイドのプラウドタワー木場公園(平均年収:1044万円)は眺望に優れた好立地である。

 逆に低層階の物件では、明確な特徴がある。それは面積が大きいことだ。総戸数は数十戸と小規模であるが、稀少立地にひっそりと凛々しく建っている。

 白金高輪駅のお屋敷街にある白金テラス三光坂(平均年収:6207万円、平均面積:204m2)、表参道駅のプラウド南青山(平均年収:4622万円、平均面積:121m2)、田園調布駅に東急(電鉄)が開発したドレッセ田園調布プレゼンス(平均年収:2698万円、平均面積:136m2)、巣鴨駅の六義園を臨む高級住宅地にあるブリリア大和郷(平均年収:2408万円、平均面積:103m2)、三井グループの運動場だった浜田山駅のパークシティ浜田山(平均年収:1822万円、平均面積:97m2)は大規模で立派な木々を残した敷地計画が他に類を見ない。

 マンション選びは住民選びでもある。それは同じ屋根の下に他人と共同で住まなければならないから避けられない。その際に、選ぶ基準は年収から推察される生活レベルもあるだろう。

 各駅の代表的な地域一番物件は以下のリンクにある。皆さんもこの結果に「なるほどね」と納得してもらえると思う。このデータは首都圏・近畿圏のほぼ全物件について、無料会員制住まいサーフィンで公開しているので、是非ご覧ください。

マンション別推計年収ランキング(https://www.sumai-surfin.com/bigdata-analysis/mansion-nensyu/?inurl=mn220218)

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恵比寿駅で地域一番マンションの恵比寿ガーデンプレイス(写真:アフロ)