昭和時代の生放送では、現在では考えられない無茶な撮影が行われていたこともあり、ロケでの事件・事故は現在とは比べものにならないほど多かったという。

 その中でもとりわけ「伝説的」とされているのが1979(昭和54)年、日本テレビ系の朝の情報番組『ズームイン‼朝!』で発生した「感電事件」であろう。
 これは福岡のローカルタレント安田栗之助が同年11月29日、ロケ中に感電し一時的に気を失ってしまった事件である。

 ​>>【放送事故伝説】アンジャッシュ渡部事件最大の“闇”?「ブランチ風船事件」<<​​​

 安田は福岡県内で営業する移動式のたこ焼き屋にインタビューしようと、マイク片手にたこ焼き屋のマイクロバスのドアノブに手をかけた。

 だがその瞬間、安田は「あああ!」と大きな声をあげ、「すいません!ちょっと……」「助けて!」と叫び声を上げたのだ。

 この中継を日本テレビのスタジオで見ていた司会の徳光和夫は「え?どうしたの?」「大丈夫?」と心配の声をかけるが、安田は苦悶の表情を浮かべ叫び続けていた。

 スタッフが慌てて駆け寄ると安田は「すいません。手がしびれて……」とスタッフに感電したことを伝えた。この時、筋肉が収縮してしまったのか、ドアノブから手が離れず。スタッフが無理やり引きはがすとその場に倒れ込み失神してしまった。
 「ロケ続行不可能」と判断したスタッフは、日本テレビのスタジオに返した。徳光は「うーん。ちょっとあれですね。大丈夫ですか?」と思わず心配した。

 しばらくして、福岡の安田が目を覚ました。徳光が「大丈夫か?」と声をかけると安田は「ええ、マイク持ってドア触った瞬間、しびれがビーンときたんですよ!危ないですね!」と感電した時の様子をレポート。そして、なんと安田は「さて、今日はたこ焼きの話題です」そのままたこ焼き屋のロケを続行した。

 だが、感電した直後ということもあり、スタッフもたこ焼き屋の店主も安田が気になってしょうがない様子。徳光も「たこ焼きより感電の話がむしろ聞きたいんだよね」としながら「生まれて初めてしびれてしまった」「恋にしびれてみたい」と見事に落とし話題を締めた。

 出演者が感電し失神するまでの様子が全て収められ、かつ何事もなかったかのようにリカバーした技術は高く評価された。昭和時代に発生した代表的なハプニングとして今も知られている。

画像はイメージです