JALも導入した旅客機「コンベア880」は、性能を速度に全振りした機として知られます。同機にはさらに、主翼にユニークな設備を備えた派生型「コンベア990」も存在します。その名も「スピード・カプセル」です。

スピード特化「CV880」の派生型

1960年代、JAL日本航空)が導入したジェネラルダイナミクス社の「コンベア880」。同社でも9機中3機が事故損失という不名誉な記録を打ち立て、導入10年弱で退役するなどいわゆる“迷機”として知られています。実はこのコンベア880、その後、主翼にとてもユニークな設備を備えた派生型が実在します。それが、わずか37機のみ製造された同社最後の旅客機「コンベア990」です。

コンベア880は当時、ボーイング707やDC-8より50km/h速く、「世界最速のジェット旅客機」をウリに登場。このスピードの源はエンジンで、ゼネラルエレクトリック(現GE・アビエーション)の軍用ベストセラー「J79」を民間機用に改良したターボジェットエンジン「CJ-805-3」を搭載していました。ちなみに、J79エンジンを搭載した戦闘機YF-104A「スターファイター」では、初めてマッハ2を超える高速飛行を達成するなど、当時のスピード記録を塗り替えました。

コンベア990は、コンベア880の胴体延長型として、アメリカン航空の要求を受けて開発されました。ちなみに、航空会社でのデビュー直前までは、「コンベア600」の型式名が付与されています。

その性能としては、向かい風を受けてもアメリカ大陸を横断できる程度の航続性能を持ち、胴体はCV-880そのまま3mほど延長し約42mに。座席の横配置は、707やDC-8と同じく横5席を配置できます。搭載エンジンもアップグレードされました。

そしてもっともコンベア990の外観で特徴的なものが、主翼上面に設置された「スピード・カプセル」、またの名を「アンチ・ショック・ボディー」という前後に長い突起です。これはコンベアのジェット旅客機のセールスポイントである、「高速飛行」をサポートするためのものです。

「スピード・カプセル」どんな効果が?

コンベア990に設置されたスピード・カプセル(アンチ・ショック・ボディ)は、主翼の断面形状を変化させることで、ジェット旅客機が巡航する速度「亜音速帯(マッハ1に満たない程度のスピード)」での空気抵抗を軽減することができる「エリアルール」を実現するもの。このことで、同パーツを設置していない旅客機と比べて、抵抗を減少して高速化を実現できる――というのが、設置理由です。

ただコンベア990は、試作型こそ1000km/hを達成したものの、顧客であるアメリカン航空の要求仕様であるスピードを達成することができず、スピード・カプセルも当初想定した効果を発揮しませんでした。そこでスピード・カプセルの設計変更や、胴体を70cmほど短縮するなどのさまざまな改修を実施。その結果、要求された巡航スピード(マッハ0.84)をなんとか達成することができ、「CV-990A」として1961(昭和36)年にアメリカン航空に採用されました。

ただ、コンベア990は競合他機と比べて圧倒的な速度を出せるわけではありませんでした。ライバルの航空機メーカーがつぎつぎに新型機を発表していたこともあり、コンベア990は前身機のコンベア880と同様、商業的には失敗作として終わりました。アメリカン航空でさえも注文をキャンセル。1963(昭和38)年に同機は生産終了となりました。

かつて羽田空港では、スイス航空のコンベア990が定期便で飛来しており、離陸時の真っ黒なエンジン排気と高周波のノイズが特長でした。現在同機は米カリフォルニアのモハーベ空港や、スイス交通博物館で見ることができます。経歴はともあれ、この「コンベア990」は、筆者(種山雅夫、元航空科学博物館展示部長 学芸員)個人的に、とってもかっこいいルックスをもつジェット旅客機だと思います。

スイス航空のコンベア990(画像:サンディエゴ航空宇宙博物館)。