離婚に至る経緯は人それぞれですが、きちんと話し合って円満に成立、とはなかなかいかないもの。配偶者の浮気や不倫が原因なら慰謝料が発生し、子どもがいるなら親権の問題、また養育費についての取り決めなども避けられません。

話し合いで離婚できなければ、家庭裁判所での調停や裁判まで進むことも。実際に離婚訴訟を起こすことになった私の体験をお届けします。(ライター/内田聡子)

●夫のスマートフォンで見つけた浮気の証拠

私はフリーランスのライターで生計を立てている44歳の個人事業主です。会社員の夫と約10年前に結婚し、ひとり息子にも恵まれ、結婚生活は大きな問題もなく送れていたと思います。

夫の浮気が発覚したのは結婚して9年目の冬、スマートフォンを機種変更する際にLINEのデータを移してほしいとお願いされ、操作していたときでした。トークの一覧に見知らぬ女性の名前があったので誰か開いてみると、夫の会社に出入りしている生命保険の外交員の女性だというのです。

やり取りは1年以上も前からはじまっていて、夫から「いつも仕事をがんばっているね」「今日もお疲れさま」など声をかけており、女性もフレンドリーに答えていました。

「今度デートしてよ」とハートマーク付きのメッセージを読んだとき、心の芯がすっと冷えていったのを覚えています。

LINEではふたりがホテルに行ったような会話はなく、そこまで仲は進んでいないのかもしれないけれど、「肉体関係を持つのは時間の問題だろう」と思い、それから夫には内緒で毎日LINEをチェックしました。

私が自分のスマートフォンを黙って見ることなど夫は考えていないのか、ロックをしていません。女性とのやり取りは、すべて自分のスマートフォンのカメラで撮りました。

●離婚を決意した瞬間

ある日曜日の朝のこと。午前8時ごろ、突然夫が「保険屋に呼び出されたから行ってくる」と言い出しました。「日曜日のこんな朝早くから?」と尋ねると、「ああ」とだけ答えた夫はそそくさと家を出ていきました。

実は前日、例の保険外交員の女性とLINEでやり取りをしており、うちの近くのコンビニエンスストアで待ち合わせをすることを私は知っていたのです。「明日は早起きしてね」と嬉しそうにメッセージを送っていた夫。本当に出ていく夫の姿を見たとき、「離婚しよう」と初めて明確に決意しました。

お昼前に何食わぬ顔で夫は帰宅し、今日こそホテルに行ったかもと思い、その夜LINEをチェックしましたが、待ち合わせ場所で合流してからのやり取りはなく、ふたりが何をしていたのかはわからずじまい。

いずれにしても、1年以上女性を口説き、家庭をないがしろにする夫と結婚生活を続けていく気は消えていったのです。

●離婚のネックになる存在

離婚を決意したものの、何から始めればいいのかわからなかった私は、インターネットで情報を集めました。

離婚には、話し合いによる協議のほかに調停や裁判があること、財産分与や親権、面会交流についての取り決め、養育費の支払い義務など、書き出していくとたくさんの段階を踏む必要があると気が付きます。

一番早いのは同居を続けながら離婚について話し合いを進める方法ですが、「うちの夫については難しいかも」と思ったのは、夫の親族の存在でした。

夫には一回り以上年上の兄がいますが、実家に住んでおり、自分は働かずにニート状態、高齢の母親のお金で暮らしています。父親は数年前に病気で他界しており、生活が決して楽ではないのは知っていました。

これまでも何かと私たちの暮らしに口をはさむことがあったため、「弟の離婚にも絶対に口を挟むだろう、財産分与でお金を要求するだろう」と確信があった私は、離婚成立まで時間がかかることを想定し、離婚に向けて別居の計画も立てることにしました。

●別居に向けて

夫の浮気を知ってから1カ月。まともに会話ができなくなっていた私は、家事はそれまで通りにするけれど食事を夫と食べる気になれず、自分だけ自室にこもる生活が続いていました。

いわゆる家庭内別居状態ですが、何も対処しない夫に対して、ますます嫌悪が募りました。

問題なのは当時、6歳だった息子の精神状態でした。表立って喧嘩はしないけれど両親の仲が険悪な状態にあることは当然伝わり、おろおろとふたりの間を行き来したり、私に「どうしたの?」とおずおずと聞いてきたり、混乱している姿を見ると涙が出てしまい、自己嫌悪に陥りました。

「親の不仲を見せることは、息子の成長に悪影響。一刻も早く別居を」と焦った私は、息子の生活が大きく変わることがないよう、保育園の転園はせず、友達と同じ小学校に進めるよう、住んでいたアパートからそう遠くないところで新居を探しました。

しかし、新居探しは楽ではありませんでした。猫を一匹買っていたためペット可物件をようやく見つけたと胸をなでおろしたら、私が個人事業主であること、ライターという職業が「よくわからない」ことで保証人が必要と言われてしまいました。

私はすでに身内がおらず天涯孤独です。保証人を頼めるとすれば、普段から仲良くしている夫の親戚の人たちだけ。覚悟を決めて夫の浮気を打ち明けると、びっくりされたけれど別居については反対されず、無事に保証人の判をもらうことができました。

●いざ、離婚を通告してから

新居も決まり、いよいよ離婚を切り出す日。浮気発覚から3カ月後のことでした。その頃の夫は週末になると私に黙って息子を連れて出かけるようになっており、家の中でも外でもいっさいの会話はなくなっていました。

息子には「仕事の事情でお父さんとは離れて暮らすよ」と話しており、落ち込む姿を見るのはつらかったけれど、冷え切った仲の両親の姿を見せるのはどうしても避けたかったのが私の本音です。

夫にLINEのやり取りの写真と離婚届を出し、「離婚してほしい」と言いました。夫は驚いていたけれど「この程度で浮気とは言えない」と認めず、離婚については「実家に相談してくる」とだけ返し、話し合いは終わりました。

次の日、買い物から帰ると部屋に私宛てのメモが置かれていました。「通帳など財産を開示するように」と書かれており、差出人は案の定、夫の兄でした。夫の浮気については触れることもなく、財産を明かすよう迫る親族の姿には、本当に嫌悪感しかなかったですね。

夫にはLINEで、調停を起こすことと財産分与についてはそこで話すことを伝え、息子を連れて引っ越すつもりだとも送りました。

引っ越しや子どもを連れていくことは後々、こちらに非があると言われかねないとインターネットの記事で読んでいたので、事前に同意を求めたのです。しかし、夫からの返答はありませんでした。

そして離婚を切り出してから2カ月後、息子とともに今のアパートへと引っ越したのです。

(この連載は不定期更新です。第2話は後日掲載します)

【筆者プロフィール】内田 聡子(うちだ さとこ):フリーランスのライター。ひとり息子と猫をこよなく愛する1977年生まれ。離婚の大変さはみんな同じ。どう進めるのが正解で、何を一番に考えるのが良いのか、を常に考えています。

「女性に呼び出された」日曜朝8時、堂々と自宅を出た夫…私が離婚を決意した瞬間