(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

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 2022年に入ってから世界情勢が目まぐるしく変化している。北朝鮮が頻繁にミサイルを発射し、トンガでは大規模な噴火と津波が発生して甚大な被害が生じた。

 先日閉会した北京冬季オリンピックでも規定違反による失格者が相次ぎ、ロシア人選手に再びドーピング疑惑が浮上するなど物議を醸した。

 そして、ようやくオリンピック騒動が落ち着いてきたかと思えば、今度はロシアウクライナに対する軍事侵攻に踏み切り、激しい戦闘が始まっている。

 忘れがちだが、ウクライナロシアの隣国であるように日本もロシアの隣国だ。第二次世界大戦のどさくさに紛れて北方四島がロシアに奪われたように、また、竹島が韓国に実行支配されたように、世界が混乱する中、周辺国家が密かに日本領土略奪を企てているかもしれない。近年は中国による尖閣諸島沖での領海侵入も深刻だ。明日は我が身である。

 筆者の研究対象である韓国は、文在寅大統領2月24日に、「罪のない人命に被害を引き起こす武力の使用は、いかなる場合も正当化できない」と対ロシア制裁を支持するコメントを発表した。この翌日、在韓ウクライナ政府高官はロシアによるサイバー攻撃を防衛するため、韓国に支援を要求した。韓国政府はこれに応じるものと思われる(※現在、韓国側はコメントを控えている状態)。

 北京冬季オリンピック中盤からロシアによるウクライナ侵攻が始まるまで、韓国人による在韓ロシア人攻撃が酷かったという。「お前がプーチンの代わりに謝れ」「ロシア人は今すぐ韓国から出て行け」など、特定のロシア人に対する悪質コメントが急増した。

 ロシア人を攻撃する韓国人は、オリンピックドーピング騒動やウクライナ侵攻によって世界の規律を乱すロシアに対し、正義を振りかざしたつもりなのだろう。

李在明候補の信じられないコメントに韓国人も呆れ顔

 特定のロシア人に対して抗議する韓国人がいる一方で、左派色の強い韓国放送局のMBCは、「ウクライナゼレンスキー大統領のアマチュアのような政治がロシア侵攻のひとつの原因(2月25日公式ユーチューブサイトに掲載)」と、ロシアを擁護するかのような番組を放映した。

 加えて、与党「共に民主党」の大統領候補である李在明候補も、2度目の第20代大選候補者討論会の場で、「ウクライナロシアを刺激したことで衝突となった」「ゼレンスキー大統領はキャリア6カ月で大統領に就任した初心者政治家であるから、外交に失敗して戦争を招いた」と発言した。現在、この発言には国内からだけでなく、海外からも批判の声が集まっている。

 これに反応した韓国人は、“対ロシア批判”ではなく“対ウクライナ謝罪”に切り替えたようだ。ロシア政府を批判する声は変わらずあるが、NAVERやSNSを見ていると、特定のロシア人を批判する声は減少し、ウクライナに対する謝罪と応援のコメント、そして李候補を批判するコメントが増加した印象だ。

ゼレンスキー大統領を尊敬します。李在明の発言に対し、私が大韓民国の一員として代わりにお詫びいたします」「全世界から“コリアンサイコ”と非難されている李在明は今すぐ地獄に消えろ」「李在明と共に民主党は反省しろ」「李在明はウクライナを侮辱したが、これは全ての韓国人の意思と異なる。ロシアに絶対に負けないで」といったコメントが目立つ。

韓国の次期大統領はゼレンスキー氏のように振る舞えるか?

 あまりにも李候補を批判する声が多かったことから、当の本人は討論会の翌日(26日)に、「私の本意と異なる。一部でもウクライナ国民のみなさんに誤解を与えたのなら、私の表現力が足りなかった」「制限された時間内に十分説明できなかった」と釈明。それと同時に「(国民の力の)尹錫悦候補はウクライナ問題を自身の先制打撃論と核兵器共有論を正当化し、私と文在寅大統領を非難する機会にしている。このような態度が、私が討論会で指摘した“初心者政治家”の限界ということだ」と尹候補を批判した。

 ゼレンスキー大統領は元コメディアンであり、彼を政治素人だと批判する気持ちはもちろん理解できる。しかし、ロシア軍に殺害される危険があるにも関わらず、国内に残って祖国や国民のために指揮するその姿は、コメディアンよりも大統領と呼ぶに相応しい。

 そんな逞しいゼレンスキー大統領を批判した李候補こそ、韓国が周辺国家から攻められた際に、最前線に立って国民を扇動できる人物なのだろうか。スキャンダルが公になる度、表面上の謝罪だけをして説明責任から逃れる姿を見る限り、到底、彼には務まらないように思える。

国民感情を見誤った大統領候補の行く末

 李候補はただ単に、政治経験のない尹候補とゼレンスキー大統領を関連付け、「ゼレンスキー大統領のように政治初歩者である尹候補が大統領になれば、韓国も戦争を起こす可能性がある」と、国民の印象を操作したかったのだろう。

 彼は過熱するスキャンダル合戦によって、相手を批判し蹴落とすことで大統領の座が勝ち取れると勘違いしているようだ。そのことが影響し、韓国の大統領にとって最も重要な国民情緒をも読み誤った。

 今回のウクライナ騒動で、今後発表される大統領候補者の支持率がどのように動くか動向を見届けたい。あと数日で次期大統領が決まる。

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ロシアによるウクライナ侵攻について、李在明候補はロシアの侵攻をゼレンスキー大統領の外交的失敗の結果と指摘した。写真は、国民を鼓舞するウクライナのゼレンスキー大統領(提供:Ukrainian Presidential Press Office/AP/アフロ)