(立花 志音:在韓ライター)
ロシアがウクライナに侵攻した日の深夜、我が家の長男はYouTubeにくぎ付けになっていた。
「お母さん、戦争が始まったよ」と深刻な顔をして話しかけてきた。
爆撃の様子がKBS(韓国の国営放送)のYouTubeチャンネルでライブ中継されているというのだ。
中学の卒業式を終えて、昼夜逆転ゲーマー生活になっている長男にはまだまだ宵の口。朝までパソコンに向かう気満々らしく、彼は台所で「辛ラーメン」をゆで始めた。
いつものようにこの子が何をどこまで理解しているのか気になって、
台所に立つ彼に、どうして戦争が起きたのか、この戦争を見てどう思うか聞いてみた。
中学3年の間に、世界史も、地理も、「NATO」もほとんど習わなかった彼は色々調べたようで、大体の事態の把握はできているようだった。
「そして次は台湾が狙われるんでしょ」とラーメンを鍋ごと食卓に持ってきた。
筆者が「その次は韓国かもよ」と煽ってみたら、「ホントだよ。ライブのコメント見てても、この国のレベルが見えるよね」とラーメンをすする。
息子の話によると、キエフ市内をロシア軍が攻撃する様子を見ながら「平和すぎてつまらない」とか「大国に逆らうとこうなるのだ」などというコメントが乱立しているようだ。
「プーチンは一般市民を巻き込まないと言っていたのに・・・」とボソッとつぶやく。
「そんなこと最初から信じられるわけないでしょ。ロシアと中国は今回ガチだと思うよ。北京オリンピックの開会式の日に国家として参加してないのにプーチンは習近平に会いに行ったじゃない。それは・・・」と熱くなりかけた筆者の話を「はい。これ以上はTMIだから」と止めた。
息子が言う「TMI」とは「Too much information」の略のようで、親の説教をかわしたい時に、ここ最近彼が乱用する言葉だ。
韓国人と自分たちの考えが違う理由を長男に尋ねると・・・
春から高校生になる息子の悩みの一つはニキビで、愛用する洗顔フォームは日本企業某S社製の青いパッケージの商品である。
日本に行き来ができなくなってからは、筆者の実家から日本食などを送ってもらう荷物の中に入れてもらっていた。
ところが先日、その洗顔フォームが切れてしまい、他の物だと泡立ちが気に入らないので、青いそれを買ってほしいと頼まれた。
韓国でも販売しているので、割高だが手には入る。
「韓国でも買えるよ。少し高いけど。でも、そんなに泡立つのって、どれだけ界面活性剤が入っているんだろうね?」と石けん派の筆者が話し出すと、
「はい。これ以上はTMIで―す」とバッサリ切られた。
そんなに泡立てたいのならと、ダイソーで泡立てネットを買ってきて一緒に渡すと、たいそうお気に入りの様子で、「こんないいものがあるなんて。何でもっと早く教えてくれなかったの」という。
思春期の男の子を育てている読者の方には同感していただけると思うが、彼らにとっては「今現在、自分が必要としている情報」だけが「インフォメーション」なのである。
話は戻って、ラーメンを食べ終えた彼に、一般の韓国人たちと自分の考えが違う理由は何だと思うか尋ねてみると、「やっぱり親の教育が重要なんじゃない?」と答えた。
そして、「うちはまともだと思うよ。お母さんは結構めんどくさい人だけどね」と言い残し、部屋に戻って行った。
複合ショッピングモールがいまだにない光州の暗い歴史
大統領選挙の投票日が目前となった今回の大統領選挙戦を含め、韓国人の反応を見てみると、思想的にバッサリと分断されている。
バレンタインデーを過ぎた頃、韓国ネットを騒がせる事件があった。
保守系政党「国民の力」の尹錫悦候補が、遊説で韓国南西部にある全羅南道、光州を回った時のことである。
尹候補は自分が大統領になった暁には、光州に複合ショッピングモールを作ると宣言した。それを受けて、「その光州地方以外に住む」韓国ネット住民たちが、光州にはいまだにショッピングモールがなかったのかと大騒ぎした。
この騒動には多少の補足説明が必要だ。
光州を中心とした全羅道は韓国左翼の一丁目一番地。昔から革新政党のお膝元で、比較的開発が遅れた地域である。
朴正煕や全斗煥、金泳三など保守系の歴代大統領が韓国東部の慶尚道の出身で、全羅道に設備投資をしなかったなど、さまざまな理由がある。現地の話を聞いていると、大体「誰かのせい」だという話だ。
しかし、実際は自営業者を過剰に守る傾向があり、財閥系資本が参入しようとするたびに、地元の左翼勢力が反対してきたのである。
全羅北道の中心地である全州市などはKTX(韓国高速鉄道)が開通する時に、自分たちの町にそんなものは必要ないと反対した。その結果、全羅道の分岐駅は小さな隣町に作らざるを得なかったという、嘘のような本当の話もある。
15年経って全州市民は、KTXにより爆発的に人とモノの流通が増えて発展した隣町を、悪態をつきながら指をくわえて見ている。
攻撃の矢印が常に自分以外に向く韓国人
そんな全羅道を卑下してみているのが「全羅道以外に住む」大韓民国国民である。
その言いようは散々で、「あの地は韓国ではない」「あの地に入るにはパスポートが必要だ」「韓国人ではなく朝鮮人」などと言われている。
朝鮮人という言い回しは李氏朝鮮時代の初代王李成桂の一族が全州出身であったことからである。いまだ近代化されていない人種だという意味だろう。
この韓国内の東西の分立といがみ合いはネットを見ている限りとどまることを知らないのだが、外国人である筆者に言わせてみれば五十歩百歩、同じ穴の狢、そして井の中の蛙である。
そして、この韓国人の考え方がこの国の諸悪の根源というか、韓国人の無責任さの表れなのである。自国の問題なのに全く他人事で、自分の祖国がおかしいのは自分のせいではなく、他人のせいなのだ。
大統領を国民投票で選んでおいて、大統領が間違いを犯したとしても、選んだ自分たちの責任を言及したり、反省したりする風潮は全くない。攻撃の矢印は常に自分以外の誰かに向けられている。
5年前、左翼勢力のろうそくデモによって朴槿恵大統領を引きずりおろし、文政権が誕生した。その直後に韓国の保守陣営がやったことは、その選挙が不正選挙だというデモ活動と文大統領の弾劾だった。その時、筆者は思った。この国は右派も左派も大して変わらないのだと。
李在明候補が自伝に書いた驚くべき中身
与党「共に民主党」の李在明候補は幼い時から貧しく育ったことをアピールして、「庶民の気持ちが分かる候補者」を自称している。13歳から工場で少年工として、上司に殴られながら働いたそうだ。
しかし、当時の韓国はみんな貧しかった。筆者の夫はまだ40代だが、子供の頃の話を聞くと似たようなものだ。家の前の道路は舗装さえもされていなかったし、食べたいものも食べられなかったという。
李在明候補は、テレビ討論でロシアのウクライナ侵攻の原因は「6カ月の初心者政治家が大統領になり、NATO加入を公言してロシアを刺激して結局衝突した」と発言したことで騒動に発展し、謝罪に追い込まれた。
どの口から「初心者政治家」というセリフが出るのか、笑ってしまう。それを言うなら今回の韓国大統領選の候補者の面々を見回してみるといい。李在明候補は元市長で、尹錫悅候補は検事で、中道候補と呼ばれている安哲秀候補は医師であり、コンピュータ技術者だった。
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◎ロシアのウクライナ侵攻であり得ないコメントを出した李在明候補の大統領の器(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69058)
この国の国会議員はこの5年間、国家のためにいったい何をしていたのかと、声を大にして問いたい。
李在明候補は自分の半生を振り返りながら、「工場に通っていた頃はただ殴られないように努め、いつか自分も誰かを殴り、権力を振りかざそうと決めていた」自伝に書かれている。
この一文に強烈な衝撃を受けた筆者は、思わず夫に聞いてしまった。貧しかった子供時代、そして10代の頃、どのような未来を思い描いていたのかと。
「そんな余裕はなかった。ただ、自分に勝ちたかったから努力しただけ」という答えが返ってきた。息子の言うようにまだ「うちはまとも」だったのだと安堵した。
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