文・写真=村井美樹 編集協力=西垣一葉(春燈社)

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昔の国鉄車両で伊勢海老尽くし

 厳しい寒さのなかにも、春の兆しを感じる今日この頃。おでかけにはもってこいの季節がそこまで近づいていますね。

 春といえば、なんといっても千葉県いすみ鉄道です。大原駅から上総中野駅までを結ぶローカル線で、毎年3月中旬から4月中旬にかけて、全線26.8kmのうち約15kmが菜の花で埋め尽くされることで知られています。その情景は、まるで菜の花の絨毯のよう! 桜の開花が重なる時期には、黄色い菜の花と淡いピンクの桜の華やかなコラボレーションも見ものです。

 そんな春うららかな田園風景の中を走るいすみ鉄道。黄色い車両も可愛いのですが、私のイチオシは「レストラン・キハ」! 昭和のディーゼルカー「観光急行列車キハ28」の車内で、車窓を楽しみながら美味しいお料理を堪能できる列車です。

 昔の国鉄車両を改造しているので、本物のレトロという風情がたまりません。座席はボックス席の上に特製のテーブルを設置し、揺れる車内でコップが倒れないようにコップ置きまであって、手作り感満載。最近はおしゃれなレストラン列車が各地で走っていますが、おしゃれすぎないアットホームな雰囲気がまた味わい深くていいのです。

 お料理は茂原市イタリアンレストラン『ペッシェ・アズーロ~青い魚~』のシェフが腕をふるい、外房の食材がふんだんに使用されています。私がいただいたのは、伊勢海老を豪勢に使った本格イタリアンコースでした。千葉県は、じつは三重県と1位2位を争うほど伊勢海老の漁獲量が全国トップクラス。だから伊勢海老推しというわけで、どのお料理も魚介の旨みが詰まっていてすごく美味しい!

 しかも、嬉しいことにドリンクの飲み放題付き。妊娠中だったので残念ながらお酒は飲めなかったのですが、そうでない時に乗車していたら、いったいどうなっていたことでしょう(笑)。

 私がレストラン列車に乗車したのは新緑の季節でしたが、この時期の車窓も爽やかでおすすめですよ!

レトロな車両がずらり! ポッポの丘

 いすみ鉄道の沿線を観光するなら、おすすめなのが「ポッポの丘」です。こちらは大人も子どもも、鉄分を思う存分に補給できる大満足スポット。いすみ鉄道の大多喜駅で下車して、タクシーで10分ほどのところにあります。レンタサイクルでも行けるので、春は景色を楽しみながらサイクリングもいいかもしれないですね。私はコロナ禍であまり鉄道旅に出かけられない頃に、それでも娘に旅気分を味わってほしいと思って家族と車で訪れました。

 このポッポの丘は、田園地帯の小高い丘にずらりと引退した車両が保存されています。その数、なんと28両! オーナーさんが私財を投じていすみ鉄道の車両を買ったのをきっかけに、どんどん車両が集まっていったとのこと。JRや国鉄、銚子電鉄千葉都市モノレールなどさまざまな車両が揃うレトロ車両の聖地ともいえる場所です。

 車内を自由に見学できる車両もあり、訪れた日は運良くDE10ディーゼル機関車ブルートレインの内部も公開していて、大興奮!ディーゼル機関車の先頭からよじ登り、娘と手を繋ぎながら狭い通路を慎重に歩いて運転席へ。横向きの運転台に驚きつつ、運転士さんごっこを楽しみました。

 ブルートレインの寝台客車は内装や匂いまで昔のまま。当時の車掌さんのアナウンスや懐かしの車内チャイムハイケンスのセレナーデ」が流れ、まるで本当にブルートレインに乗っているようで、思わずホロリとしました。

 さらに、ここで有名なのが地元産の新鮮な卵を使った「たまごかけごはん」。保存車両のうちの「いすみ鉄道204」の車内で食べられ、黄身がとろりと濃厚でやみつきになる味わいです。うみたてたまごは販売もしているので、我が家もたまごや特産品、鉄道グッズなどいろいろと買い物をして帰ってきました。

 私には懐かしく、娘には初めての新鮮さ。丸ノ内線454号の警笛を鳴らしたり、子どもが遊べるスペースもあったりして、とてもいい思い出になりました。後日、国鉄の車両が出てくる昔の絵本を読んでいるときに、娘が「これ、見たよね? いっぱい車両があるところで、この車両見たよね!」と話してくれました。ポッポの丘で見た古い車両がすごく印象に残っていたみたいです。鉄道好きのお子さんにはぜひ行ってもらいたい場所です。

風を感じる小湊鐵道の里山トロッコ

 もうひとつ、いすみ鉄道とセットで楽しみたいのが小湊鐵道です。いすみ鉄道との接続駅である上総中野駅から五井駅までを結ぶローカル線で、のどかな里山の田園地帯や養老川沿いを進みます。

 小湊鐵道でおすすめするのは、SL風のクリーンディーゼル機関車が牽引する「房総里山トロッコ」。私は新緑の季節と紅葉の季節に2回乗ったことがあるのですが、展望車は窓ガラスが取り外されているので、開放感がバツグン! 風を直に感じられて気持ちがいいし、里山の景色を生で体感できます。天井もガラス張りなので、空のほうまでよく見えるんです。新緑も紅葉も素晴らしかったですが、この路線も菜の花の景観で有名ですから春もきっと美しいと思います。

 また、小湊鐵道の沿線の観光なら、房総里山トロッコ列車の終着駅である養老渓谷駅。駅に足湯があって、小湊鐵道の利用客は無料で入れます。列車の待ち時間などに、絶好の癒しになりますよ。養老渓谷は紅葉の名所としても知られていますが、房総一といわれる粟又の滝や温泉もあって、どの季節も楽しめると思います。

 小湊鐵道沿線では、3年に1度、「いちはらアート×ミックス」という、この地域の美しい里山と現代アートを融合させた芸術祭が行われています。私も2014年と2017年に参加していて、素敵な作品にたくさん出会えました。里山の自然を感じつつ斬新なアートに触れられ、古民家や廃校になった小学校を利用したアート展示も! 

 それぞれの会場を小湊鐵道や周遊バスを組み合わせて巡るので、鉄道もアートも満喫できるという最高のイベントです。2020年は新型コロナウィルスの影響で2021年11月~12月に開催が延期になったようで、次の開催はしばらく先ですが、興味がある方はぜひ小湊鐵道で訪れてみてください。

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いすみ鉄道 写真=レイルマンフォトオフィス